糸と蜘蛛

犬若丸

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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者

とある生徒の終幕 2

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   「きゃくほんがいいんだよ。ストーリーも良くてセリフもかっこいいから入りやすいんだってネットに書いてた。ほんちゃんはヒロインが好きなの?」
   「うん!思っていることを言えてかわいくて!私、将来はあの子になりたい!」
   「キャラクターにはなれないよ」
   公園のドームに2人は隠れて話を盛り上げる。
   薄暗いドームは私たちにとって秘密基地だった。そこに入って秘密のお話をしたり、様々な悪戯を考えたり、2人だけの遊び、探検の計画を企てりしていた。今回の話し合いもそれに似たものだ。
   「でもほんちゃんはきおく力が良いから、もしかしたら女優さんになれるかもね」
   「ほんと!私もかわいくてうつくしくてやさしい女優さんになれるかな?」
   それがほんちゃんが持つヒロインのイメージだった。彼女はスポットライトに照らされて美しく泣き、煌めいて笑うヒロインに強い憧れを抱く。
   「かわいいとか優しいとかはどうかなぁ。でも合ってると思うよ」
   素直に思ったことを伝えた。
   「私のことをかわいくないって思ってるのね!」
   「だって、そうじゃないか」
   「今に見てなさいよ。ナイスなボディになって見返してやるわ!」
   「昼のドラマみたの?またおばあさんに怒られるよ」
   舞台の影響か、ほんちゃんはドラマやアニメの台詞を覚えては日常会話で演出し、披露する遊びが彼女の流行だった。
   「もう、さっきから否定ばっかり。すずちゃんはどうなのよ」
   「私?私は」
   考えたこともなかった。ほんちゃんと毎日遊ぶ。子供の頃の私は今が大切で明日や将来といったものを考える余裕はなかった。
   「そうだなぁ、私は主人公みたいなかっこいいセリフが言えたらなって」
   将来の夢、とは程遠い漠然とした願い。
   「じゃあ、すずちゃんも女優さんになるの?」
   「私は俳優さんだよ。それにあの人たちは台本を読んでしゃべっているでしょ。そうじゃなくて、私が考えて私が伝えたい言葉を声に出したいんだ」
   地面の小石を指で突いたり、転がしたりしながらドームの影で冷たくなった土の心地よい温度を味わっていた。
   「ふうん。すずちゃんは作家さんになりたいだね」
   「そうなのかな。うん、そうなのかも」
   漠然とした願いがほんちゃんの言葉で1つの夢となり、道標になろうとしていた。
   「いいね!すごくいい!すずちゃんが本を書いて私がすずちゃんの本を読むの!」
   ほんちゃんは素敵なものを閃いたように声を弾ませて顔近づける。
   「私が女優さん、すずちゃんが作家さんになって一緒にスターになるの!それでね、赤いカーペットの上で手を繋いで歩くの!」
   「レッドカーペットはムリじゃないかなぁ」
   「いいの!夢は大きくってテレビで言っていたもの。ね!ね!2人一緒がいいでしょ?」
   「それは一緒がいいけど」
   「決まり!絶対だよ。やぶったらダメだよ」
   ほんちゃんは小指を差し出して迫る。私は自分の小指を出して、2人は約束を結ぶ。
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