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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者
時計草 7
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「キヨネは話したいと言う」
私が言葉を詰まらせているとケイが喋り始める。説教というよりも私に対する疑問だった。
「なのに理想が違うと軽蔑する」
「軽蔑はしていない。していないわ」
「キヨネは悪人を嫌う。正しさを理想とする。そこにあるのは軽蔑とどう違う?」
淡々とした声。そこにそこにケイの感情は見られない。でも、説かれているような責められているような気分にさせられる。自分の浅ましさが露わになって惨めな私が浮き出る。
「軽蔑じゃなくて区別よ。それが、人との付き合い方なんだから」
恥ずかしさのあまり、顔が赤くなって耳の先端まで熱が篭る。
「傷つけられたから怒る。貰うと嬉しい。傷つけたから悲しい。与えて楽しい。人間関係はそれだけだ。そこに善悪は必要か?」
「猫にわかるはずがない!」
溜め続いていた悲痛と怒りに心が耐えられなくなり、それは言葉となって波紋する。床や壁、天井を反射した怒声が谺となって私に返ってくる。
「人は群れないと生きていけないの!」
私の戸惑いも本質もケイに見透かされて見下されているようで惨めで恥ずかしかった。
「団結の為に区別をしないといけないの!いい人でいる為に悪い人を弾かないといけないのよ!」
瑠璃の「上辺だけの付き合い」が思い浮かぶ。
「ケイは猫だからわからないのよ!」
人じゃないからわからない。ケイにはわからない。絶対にわからない。
空洞の体育館で騒いでいた谺が沈黙した。屋根を叩く雨粒と呼吸を乱す私の吐息がうるさく聞こえた。
私の怒りが収まるまでケイは反論せず、顔を俯かせていた。ケイを傷つけたと悟ったのはその後だった。
見透かされた軽蔑な心を見下されていると思い込んだ私は逆上してしまった。ケイはそんなことをしていないのに。彼は知らないだけでわかり合おうと、わかりたいと思っていたのに。
「俺には、無理か」
「ケイ、私」
なんて、言葉をかけるべき?
ごめんね。私が悪かった。あなたが正しい。
そう言うべきだった。だって怒鳴ってしまったから。だから、謝るのが常識で、欠点を認めるのが大人で、正しさを肯定するのが協調なのだから。
皆が言える言葉を言えないのは、私自身がケイの正しさを認めたくなかったから。だから硬くて口を閉ざしてしまう。
空気を変えてくれたのはチャイムの音。休校になっている校内でなる不吉な音。
私は不吉な合図に身を縮ませて、ケイは振り向いてステージに白い刀を構える。彼の背中にあった哀愁はなくなって、熱を帯びた緊張が伝わってくる。
「すみれ、先輩?」
そこに立つ人物に声を詰まらせながらも私は呼びかけた。
私が声を震わせて名前を呼んだのは目の前に立つその人が人として見えなかったからだ。
肩から生えていた蔦と花草の束は右腕の代わりにはなっていなくて、太い束を持ち上げる腕力もなく、ステージ台に散乱している。
2本の足で立つのも気怠そうで猫背になり、血色の良かった肌は生気のない死人の白さに近づいている。その白に相反するように黒蝶の模様がゆっくりと上皮の上ではためく。
私が言葉を詰まらせているとケイが喋り始める。説教というよりも私に対する疑問だった。
「なのに理想が違うと軽蔑する」
「軽蔑はしていない。していないわ」
「キヨネは悪人を嫌う。正しさを理想とする。そこにあるのは軽蔑とどう違う?」
淡々とした声。そこにそこにケイの感情は見られない。でも、説かれているような責められているような気分にさせられる。自分の浅ましさが露わになって惨めな私が浮き出る。
「軽蔑じゃなくて区別よ。それが、人との付き合い方なんだから」
恥ずかしさのあまり、顔が赤くなって耳の先端まで熱が篭る。
「傷つけられたから怒る。貰うと嬉しい。傷つけたから悲しい。与えて楽しい。人間関係はそれだけだ。そこに善悪は必要か?」
「猫にわかるはずがない!」
溜め続いていた悲痛と怒りに心が耐えられなくなり、それは言葉となって波紋する。床や壁、天井を反射した怒声が谺となって私に返ってくる。
「人は群れないと生きていけないの!」
私の戸惑いも本質もケイに見透かされて見下されているようで惨めで恥ずかしかった。
「団結の為に区別をしないといけないの!いい人でいる為に悪い人を弾かないといけないのよ!」
瑠璃の「上辺だけの付き合い」が思い浮かぶ。
「ケイは猫だからわからないのよ!」
人じゃないからわからない。ケイにはわからない。絶対にわからない。
空洞の体育館で騒いでいた谺が沈黙した。屋根を叩く雨粒と呼吸を乱す私の吐息がうるさく聞こえた。
私の怒りが収まるまでケイは反論せず、顔を俯かせていた。ケイを傷つけたと悟ったのはその後だった。
見透かされた軽蔑な心を見下されていると思い込んだ私は逆上してしまった。ケイはそんなことをしていないのに。彼は知らないだけでわかり合おうと、わかりたいと思っていたのに。
「俺には、無理か」
「ケイ、私」
なんて、言葉をかけるべき?
ごめんね。私が悪かった。あなたが正しい。
そう言うべきだった。だって怒鳴ってしまったから。だから、謝るのが常識で、欠点を認めるのが大人で、正しさを肯定するのが協調なのだから。
皆が言える言葉を言えないのは、私自身がケイの正しさを認めたくなかったから。だから硬くて口を閉ざしてしまう。
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私は不吉な合図に身を縮ませて、ケイは振り向いてステージに白い刀を構える。彼の背中にあった哀愁はなくなって、熱を帯びた緊張が伝わってくる。
「すみれ、先輩?」
そこに立つ人物に声を詰まらせながらも私は呼びかけた。
私が声を震わせて名前を呼んだのは目の前に立つその人が人として見えなかったからだ。
肩から生えていた蔦と花草の束は右腕の代わりにはなっていなくて、太い束を持ち上げる腕力もなく、ステージ台に散乱している。
2本の足で立つのも気怠そうで猫背になり、血色の良かった肌は生気のない死人の白さに近づいている。その白に相反するように黒蝶の模様がゆっくりと上皮の上ではためく。
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