糸と蜘蛛

犬若丸

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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者

蜘蛛の脚 7

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   「確かにそうかもしれないけど」
   「ならさっさと行くわよ」
   1本のカッターを光弥に投げる。蝶男のお迎えはいらない。行きたい場所は自分の足で行かないとね。
  あたしたちは図書室から出て校庭を目指す。1階の窓からはすでに4人の部員が集まっている。
   演劇部は強豪校として有名で部員数もそれなりにあった。去年の出来事が起きてから今年の新入部員は少ないと噂で聞いていたけれど、それでも40人ぐらいはいた。それがたったの4人にまで減ったわけね。
   カンダタは雨水で泥になった地面に顔を埋めて、両腕両脚は体を支えられず、蹲っている。呼吸が苦しいみたいで、肩が大げさに上下に動いている。
   黒い衣服を破いて生えている虫の足は巨大だった。どうやってあの背中から入っているかしら。
   よくよく見てみればカンダタに生えている足には黒い糸が何十本も絡んでいた。その糸は主に背中に集まっていてそこだけ糸くずの塊みたいなのが出来上がっている。
   「赤い糸やら黒い糸やら何なのかしら」
   小さく呟いたつもりだったけけど、その疑問を光弥はしっかりと聴き取った。
   「糸?何か覚醒でもしたの」
   「人を超人扱いするのやめてくれる?何よ、覚醒って。あたしはエスパー人間じゃないのよ」
   「謙遜することないよ。白糸・白鋏はエスパーと変わりない。これらは成長して能力が増えていくんだ。聞いた話だけど、未来が視えたり、前世の自分に会えるとか」
   前世の自分。あたしの前世。
   何かしら、この感覚。思い出さないといけないような、大切なものを忘れてしまったような、この感覚。
   白い大樹と赤い着物の女性。頭に浮かぶこのイメージは何?
   突然、カンダタが叫びだした。肩は激しく揺れて、痛みに耐えるように地面の泥を握る。骨が軋み砕ける音が 窓越しでも聞こえてくる。殻を破って外に出ようとする黒い脚が不明な粘液をまとわせて地面に降りる。
   「雛鳥が殻を破ろうとしているみたいね」
   傍にいるハクは怯えて大きな体躯があたしより小さくなって丸まる。
   「ケイたちについて行っててもいいのよ」
   そう言うとハクはあたしの脚に額を擦らせる。意地でもあたしについて行くみたいね。
   「あれ、何本出るんだ?」 
   「8本じゃない?」
   「なんでわかるんだよ」
   「勘よ」
   それだけ言うとあたしは先に進む。
   外には生徒玄関から出た。西棟非常口が  近いけれど、1つだけ用意したいものがあった。
   玄関前のロッカーからバケツを取り出すと隣の蛇口台で水を縁ギリギリまで溜める。 
   ひとまず、バケツを蛇口台に置いて 靴を取り替えに行く。  
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