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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者
糸 12
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一か八か、ケイにかけてみる?いや、駄目。万が一でもありえないわ。
この場で冷静に解決策を思案しているのはあたしだけだった。清音は恐怖で縛られてパニックになって解決策を探しもしない。
そうよ、清音がいる。
もう一つの逃げ道が思いついた。
清音の手首を引っ張り、ケイは解放される。あたしは問い詰める。
「部活棟にいたのよね?どこにいたの?」
唖然とした顔で口を開いてあたしの問いには答えられなかった。鉄のドアはさらに負荷がかかり、くの字に変形する。あたしは怒鳴る。
「どこ!」
「す、吹奏楽部、音楽室の」
「そこをイメージして。いい?それ以外は考えないで」
清音の右手に白鋏を握らせて手の甲にあたしの右手を重ねる。
幼い子供に鋏の使い方を教えるように清音の右手を動かして白鋏を上から下へ斜めに切る。
空間は裂かれた。後は望み通りの場所に行ければいい。
あたしは清音の背中を押して裂け目へと投げる。
「ハク!ケイ!」
名前を叫び、ケイはすぐに応えて裂け目へと飛び込む。
「ハク!行くわよ!」
刹那に鉄のドアが外れて人間もどきの波が押し寄せる。吠えるのをやめたハクはあたしと肩を並べて裂け目の光に跳び込む。
光に包まれた直後、腰を床にぶつける。機械室では縦に裂いたはずなのに音楽室に繋がった裂け目は横になっていた。そのせいで背中と床が向かい合い、結果腰から落ちた。
慣れていない人が使うとこうなるわけね。
白鋏で作った裂け目はすでになくなっていて、あたしたちはただの音楽室に立っていた。
ただの、と言うのもおかしいわね。教室の引き戸が壊れて、椅子も投げられたあとみたいに横倒しになっているもの。それを抜かせば普通の音楽室。
「あの果実は無いみたいだ」
人の形になっていたケイが軽く見渡し教えてくれた。
「部活棟がスタート地点だったんでしょ。生徒玄関にも遠いから人がいないって考えたんでしょうね」
それはそれで嬉しい誤算ね。
「またあれが来る前に機械室へ行きましょうか」
ハクもケイも反論はなく、清音は挙動不審に目を泳がせる。彼女は迷った末、あたしたちについて行く。
部活棟の機械室も同じように階段を降りた先の地下にある。
人間もどきがいないからといってゆっくり行けるはずもない。あたしたちの位置が把握されてしまっているのだから。
「冷静だよね」
心身ともに消費した清音が内側の不安を誤魔化したくて話しかけてくれた。
「普通じゃないでしょ。こんな、大抵はパニックになるのに。瑠璃はすごいと思う。私なんか、泣いて喚いてばかりでさ。冷静でいられるのも白鋏や白糸とか、特別な能力のおかげなの?いいな、私にもそういった強さがあれば」
「大して尊敬もしていないのによくベラベラと喋れるわね」
清音の見え透いた下心が邪魔になってきたので話を遮る。
「あたしは自分本位の人間だからあなたを守らないし見捨てるわ。守られてるって勘違いしないでね」
「違う。私は純粋に瑠璃が」
「純粋な尊敬って本気で言うのなら、あなたはあなたが思っているよりも弱者だわ。弱い人って強い人に依存するのよね」
「そんなこと、ない」
「本当に?言い切れるの?」
もし、あたしが同じことを言われればすぐに言い返せる。私は独りで行けると自信を持てる。
清音が項垂れるのは自信もなく、醜い弱さに目を逸らしているから。あたしにはそう見える 。
「あんたには特別な力があるからそう言えるんでしょ」
すみれの声が聞こえたのは地下に続く階段の下からだった。先回りされていた。
この場で冷静に解決策を思案しているのはあたしだけだった。清音は恐怖で縛られてパニックになって解決策を探しもしない。
そうよ、清音がいる。
もう一つの逃げ道が思いついた。
清音の手首を引っ張り、ケイは解放される。あたしは問い詰める。
「部活棟にいたのよね?どこにいたの?」
唖然とした顔で口を開いてあたしの問いには答えられなかった。鉄のドアはさらに負荷がかかり、くの字に変形する。あたしは怒鳴る。
「どこ!」
「す、吹奏楽部、音楽室の」
「そこをイメージして。いい?それ以外は考えないで」
清音の右手に白鋏を握らせて手の甲にあたしの右手を重ねる。
幼い子供に鋏の使い方を教えるように清音の右手を動かして白鋏を上から下へ斜めに切る。
空間は裂かれた。後は望み通りの場所に行ければいい。
あたしは清音の背中を押して裂け目へと投げる。
「ハク!ケイ!」
名前を叫び、ケイはすぐに応えて裂け目へと飛び込む。
「ハク!行くわよ!」
刹那に鉄のドアが外れて人間もどきの波が押し寄せる。吠えるのをやめたハクはあたしと肩を並べて裂け目の光に跳び込む。
光に包まれた直後、腰を床にぶつける。機械室では縦に裂いたはずなのに音楽室に繋がった裂け目は横になっていた。そのせいで背中と床が向かい合い、結果腰から落ちた。
慣れていない人が使うとこうなるわけね。
白鋏で作った裂け目はすでになくなっていて、あたしたちはただの音楽室に立っていた。
ただの、と言うのもおかしいわね。教室の引き戸が壊れて、椅子も投げられたあとみたいに横倒しになっているもの。それを抜かせば普通の音楽室。
「あの果実は無いみたいだ」
人の形になっていたケイが軽く見渡し教えてくれた。
「部活棟がスタート地点だったんでしょ。生徒玄関にも遠いから人がいないって考えたんでしょうね」
それはそれで嬉しい誤算ね。
「またあれが来る前に機械室へ行きましょうか」
ハクもケイも反論はなく、清音は挙動不審に目を泳がせる。彼女は迷った末、あたしたちについて行く。
部活棟の機械室も同じように階段を降りた先の地下にある。
人間もどきがいないからといってゆっくり行けるはずもない。あたしたちの位置が把握されてしまっているのだから。
「冷静だよね」
心身ともに消費した清音が内側の不安を誤魔化したくて話しかけてくれた。
「普通じゃないでしょ。こんな、大抵はパニックになるのに。瑠璃はすごいと思う。私なんか、泣いて喚いてばかりでさ。冷静でいられるのも白鋏や白糸とか、特別な能力のおかげなの?いいな、私にもそういった強さがあれば」
「大して尊敬もしていないのによくベラベラと喋れるわね」
清音の見え透いた下心が邪魔になってきたので話を遮る。
「あたしは自分本位の人間だからあなたを守らないし見捨てるわ。守られてるって勘違いしないでね」
「違う。私は純粋に瑠璃が」
「純粋な尊敬って本気で言うのなら、あなたはあなたが思っているよりも弱者だわ。弱い人って強い人に依存するのよね」
「そんなこと、ない」
「本当に?言い切れるの?」
もし、あたしが同じことを言われればすぐに言い返せる。私は独りで行けると自信を持てる。
清音が項垂れるのは自信もなく、醜い弱さに目を逸らしているから。あたしにはそう見える 。
「あんたには特別な力があるからそう言えるんでしょ」
すみれの声が聞こえたのは地下に続く階段の下からだった。先回りされていた。
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