糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
上 下
144 / 596
2章 ヒーロー活劇を望む復讐者

糸 9

しおりを挟む
   他にも探ろうとライトを上げる。
   機械室には初めて入った。普段は立入禁止にして鍵も閉めているのよね。
   まぁ、今は細かい事は気にしない。例え仮面をつけた男が猫になって同じ声で話かけたとしても気にしない。そうよ、この間まで地獄にいたじゃない。仮面の下にも穴が空いていたじゃない。猫が何よ。驚くことじゃない。
   「この部屋の用途はなんだ」
   猫が何か言ってきた。
   言葉の意味はわかる。凝視してしまうのは4本足の哺乳類が人語を喋ることに脳が処理しきれていなかったから。驚いてなんかいないわ。
   「機械室よ。校舎の空調を整えたり、色んなブレーカーがあったり」
   動揺を隠しながら答える。回答が曖昧なのはあたし自身が入ったことがないから。だって、多くの生徒は機械室に関心を持たないもの。
   レバーやいくつものボタンがあったとしても詳しい名称も役割もわからない。ただ四角い箱に管がつながっていてレバーとボタンで制御しているものだと何となく想像できる。
   別世界の機械室にあるのは四角い箱だけではなかった。
   ドクン、ドクン、と脈打つ黒い果実。2mぐらいの大きさで楕円形をしている。
   これもパッションフルーツ?いや、違うわね。どんなに大きくなったとしても脈は打たないし血管らしきものも浮き出ない。よくよく観察してみれば丸まっている人の形がある。中に誰かが入っている。
   「キヨネ!」
   ケイが一言と叫ぶと室内の片隅へと駆ける。
   謎の果実は置いといてケイについていこう。叫んだ名前も気になる。
   蛙の卵に似たものが足首に使って嫌な感触が伝わってくる。その中を歩いて片隅をライトで照らす。
   そこにいたのは岡本  清音。彼女が機械室の片隅に凭れて眠っている。そして彼女の体に巻かれていたのは赤い糸。
   この糸、ハクにもある。ケイは紫の糸ね。一体これは何かしら?
   ケイは小さな頭で清音を小突いては彼女を起こそうとする。
   「死んでいるんじゃない?」
   冗談でもなく思った事実を言う。固く閉ざした瞳。小突いても起きないのはそういうことでしょ。
   「暖かい」
   ずっと淡白で感情のない口調だったくせに、その台詞には少なからずの怒りがあるわね。ロボットみたいなやつだと思っていたけれど違うみたい。
   「キヨネ、起きろ」
   ケイはキヨネを起こしたいようで名前を呼んでは小突くを繰り返す。
  彼女と猫の関係は心底どうでもいいけれどそんなに起こしたいのなら手伝ってあげましょうか。
  「これ持って」 
   あたしはスマホを差し出すとケイは口に咥える。
   清音の襟を掴み、手のひらを勢いつけて振り下げた。響いた破裂音。清音の左頬が僅かに赤くなる。
   そうした衝撃に眉を顰めては小さく呻く。でも、目蓋は上がらなかった。
   「生きているならさっさと起きなさいよ」
   襟を上下左右に大きく揺らす。そうしてやっと清音は目覚めて目を細めながらあたしを見る。
   自分がどこにいるのか把握できていないみたいで辺りを見渡す。そして、自分に起きたことが思い出されていき、女性らしい甲高い声が大きく開いた口から飛び出る。
   「いやああああ!やめて!来ないで!」
   あたしが人だと認識もできないみたいね。清音はあたしの腕を引っ掻き耳障りな声で叫ぶ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

処理中です...