糸と蜘蛛

犬若丸

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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者

糸 4

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  「ケイ、あなたが鬼からあたしを助けたのよね。運んだのもあなた?」
   猫のお面を顔に装着してケイは頷く。あの白い刀身も覚えている。ケイが鬼を斬っていたわ。
   「あたしはずっと寝ていた?奇行とかなかった?」
   「奇行?」
   「変に叫んだり、暴れたりとか」
   「寝ていた」
   カンダタみたいな事は無い。今は安全と考えるべきかしら。それとも今だけと考えるべき?
   また黒い蝶の模様が浮かんだら、あたしはどうなる?鬼みたいな怪人になるの?
   漠然とした得体の知れない怪物があたしの心臓を掴む。その恐怖はハクにも伝わったようで目線を下げてあたしを見上げる。
   「不確定なものに怯えたって仕方がないわ。今はこの状況を考えないと」
   ハクに、というよりは自分自身に言い聞かせる。
   まずは状況を把握しないと。目覚めたばかりでは何が起こっていたかもわからない。この中で最も現状理解しているのはケイしかいない。
   彼に質問攻めをしてこの状況を聞こうする。これがなかなかにうまくいかない。何しろ、ケイの説明は単調でほとんど短く終わってしまう。そんなものだからあたしとケイの問答は長くなってハクも欠伸をしてはつまらなそうに寝そべる。
   ケイの話をわかりやすくまとめるとすみれが生きるか死ぬかの鬼ごっこを催した。標的にされた演技部。脱出口はなし。あたしはそれに巻き込まれた不運な高校生。
   脅威になるのは鬼だろうけれど、あたしには無意味ね。あたしには白糸と白鋏がある。ケイも鬼に対抗できる。その気になればハクも。なんなら、あたし1人で帰ってもいい。白鋏を使えば空間を割いて、一瞬で帰宅できる。
   でも、選択肢は無し。
   すみれの目的は復讐で蝶男の目的はあたしになる。復讐ゲームの結果が演技部の皆殺しに終わったとしてもあの男はまたあたしを絡ませて厄介な事件を起こしてくる。
   なら、その黒幕に会ってこんな茶番を終わらせましょうか。
   あたしは鞄をケイから受け取ると両側の肩下げ紐に腕を通して、鞄を背負う。中にはあの拳銃がある。こういう危機的な状況でこそ発揮されるべきだろうけれど、これは仕舞っておいたほうがよさそうね。
   白鋏を握る。すみれはきっと放送室に入る。行くとしたら放送室。
   空中に白い刃をたてて放送室を連想させながら空間を裂く。しかし、白鋏の刃は空回りして何もない空間は何もないまま、切れ目はできなかった。
   「無理だ」
   知ったようにケイが言う。
   「鋏は実物に触れたものでしか移動先できない」
   「ここ、学校よ。放送室にも行ったわ」
   「 学校違う。別の空間」
   「もっとわかりやすく言ってよね」
   こいつとこれ以上話し合っても無駄ね。あたしは教室のドアに向かう。
   「外は危ない」
   「留まっても歩いても同じじゃない。移動するのがマシだわ。来るわよね?」
   「それより刀」
   「またそれ。少しは状況を読みなさいよ。あたしは侍じゃないからチャンバラもやらないの。ケイが持ってあたしを守ってくれたらより安全でしょ」
   そして、何よりそんな重いものを持ち歩いきたくない。ケイは軽々と片手で刀を持っていて、使い方も熟知している。
   納得してくれたのかケイは差し出していた刀をおろしてくれた。
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