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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者
糸 2
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ゆっくりと開く瞼。背中が痛い。
横たわる身体から伝わってたのは硬い床の感触。ずっと床の上で寝ていたらしい。どうりで身体が硬くなっているわけね。
あたしを心配そうな顔で覗いてきたのはハクだった。今までどこに行っていたのかと普段のあたしなら小言で責めいたけれど、頭はまだ寝惚けていた。
「よろしく、だってさ」
誰が?誰に?
寝惚けた頭が発したのは呆けた言葉。ハクは首を傾げる。ハクじゃなくても傾げるわね。今の寝言は。
「何でもない。忘れて」
この暗さからして、日は沈んだでしょうね。
でも、真っ暗なわけじゃない。ハクの姿がはっきり見えるもの。
「あれ、あなたのそれ何?」
ハクの容姿をよく見れば赤い糸が首に巻かれている。けれど、ハクには赤い糸が見えていないようでまた首を傾げる。
目を擦ってみても、瞬きしても赤い糸は消えない。目の錯覚ではないみたいね。また変なものでも見えるようになったのかしら。
あたしは寝たままの体勢で制服のポケットに手を差し込む。スマホはあるわね。
端末の画面を光らせて時間を確認する。22:59。見間違いじゃない。この数字は深夜帯を示している。
駅前のケーキ屋閉まってるじゃない!
この驚きが脳を覚醒させて飛び起きる。あたしはクラスの教室にいた。
あたし、なんでここに?
驚きのあまり頭が混乱してしまうけれど、その焦燥を落ち着かせて目覚める前のことを思い出す。
あたしはカウンセリングに行って、トイレで吐いて、光弥に会って。そう、あの拳銃、カバンに入っていたままじゃない。あたしの鞄は?
危険要素しかない拳銃。それを失くせば大変なことになる。
何がどうなるかなんて想像もできないけれど、とにかく大変だわ。
「ハク、あたしの鞄は?見なかった?」
「ここだ」
あたしの切迫した問いに答えた人は教室の片隅にいた。
「誰?」
慌てていたあたしはそこに人がいるだなんて思わなかった。時間は23時。
警備員じゃないわね。血を吐いて倒れた生徒を床で寝かせたりしないもの。あたしは隅に立つそいつをきつく睨む。
「ケイ」
それは名前ね。聞きたいのはそれじゃない。
「50年。探した」
あたしが文句を言ってやろうとしたところ、ケイが先に言う。
「カゲヒサが託した」
感情のない声色。青年はあたしに歩み寄る。顔半分隠す不気味なお面があたしの警戒心に警報を鳴らす。
「これをお前に」
そう言いながらケイは仮面をとる。隠されていた仮面の下が初めて月明かりに照らされる。
月明かりと雨の静寂の中であたしは静かに息を呑む。
顔がない。鼻から額まで、黒い大きな穴が顔の中にぽっかりと空いている。ケイの顔にあるのは口と耳だけだった。
ケイは顔の穴に手を突っ込む。そして、黒い虚無から取り出されたのは真っ白な刀身の刀。慣れた手つきで柄を持ち、こちらまで近寄ってくると白い切っ尖をあたしの目前に向ける。
横たわる身体から伝わってたのは硬い床の感触。ずっと床の上で寝ていたらしい。どうりで身体が硬くなっているわけね。
あたしを心配そうな顔で覗いてきたのはハクだった。今までどこに行っていたのかと普段のあたしなら小言で責めいたけれど、頭はまだ寝惚けていた。
「よろしく、だってさ」
誰が?誰に?
寝惚けた頭が発したのは呆けた言葉。ハクは首を傾げる。ハクじゃなくても傾げるわね。今の寝言は。
「何でもない。忘れて」
この暗さからして、日は沈んだでしょうね。
でも、真っ暗なわけじゃない。ハクの姿がはっきり見えるもの。
「あれ、あなたのそれ何?」
ハクの容姿をよく見れば赤い糸が首に巻かれている。けれど、ハクには赤い糸が見えていないようでまた首を傾げる。
目を擦ってみても、瞬きしても赤い糸は消えない。目の錯覚ではないみたいね。また変なものでも見えるようになったのかしら。
あたしは寝たままの体勢で制服のポケットに手を差し込む。スマホはあるわね。
端末の画面を光らせて時間を確認する。22:59。見間違いじゃない。この数字は深夜帯を示している。
駅前のケーキ屋閉まってるじゃない!
この驚きが脳を覚醒させて飛び起きる。あたしはクラスの教室にいた。
あたし、なんでここに?
驚きのあまり頭が混乱してしまうけれど、その焦燥を落ち着かせて目覚める前のことを思い出す。
あたしはカウンセリングに行って、トイレで吐いて、光弥に会って。そう、あの拳銃、カバンに入っていたままじゃない。あたしの鞄は?
危険要素しかない拳銃。それを失くせば大変なことになる。
何がどうなるかなんて想像もできないけれど、とにかく大変だわ。
「ハク、あたしの鞄は?見なかった?」
「ここだ」
あたしの切迫した問いに答えた人は教室の片隅にいた。
「誰?」
慌てていたあたしはそこに人がいるだなんて思わなかった。時間は23時。
警備員じゃないわね。血を吐いて倒れた生徒を床で寝かせたりしないもの。あたしは隅に立つそいつをきつく睨む。
「ケイ」
それは名前ね。聞きたいのはそれじゃない。
「50年。探した」
あたしが文句を言ってやろうとしたところ、ケイが先に言う。
「カゲヒサが託した」
感情のない声色。青年はあたしに歩み寄る。顔半分隠す不気味なお面があたしの警戒心に警報を鳴らす。
「これをお前に」
そう言いながらケイは仮面をとる。隠されていた仮面の下が初めて月明かりに照らされる。
月明かりと雨の静寂の中であたしは静かに息を呑む。
顔がない。鼻から額まで、黒い大きな穴が顔の中にぽっかりと空いている。ケイの顔にあるのは口と耳だけだった。
ケイは顔の穴に手を突っ込む。そして、黒い虚無から取り出されたのは真っ白な刀身の刀。慣れた手つきで柄を持ち、こちらまで近寄ってくると白い切っ尖をあたしの目前に向ける。
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