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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者
鬼ごっこ 10
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戸の前に座っていたのは女子部員だった。カンダタの目先で戸が外れ、彼女の上に戸と鬼が伸し掛かる。
倒れた戸の下で悲鳴を上げ続ける。怪我の具合はわからないが大声を出せる位には元気なようだ。
鬼。危機。叫び。真っ白になった清音の頭に浮かんだのは自己防衛だった。清音は立ち上がってカンダタたちを置いて反対側の戸から逃げ出す。
鬼は戸の下にいる女子部員に夢中でカンダタには見向きもしない。
咄嗟に椅子の背もたれを掴んだ。木製と鉄パイプの感触を確かめ、すり抜けなかったことを密かに喜ぶ。
だが、笑っている場合ではない。カンダタは力強く腕を振るい、投げられた椅子は鬼の頭に衝突する。鬼の認識は女子部員からカンダタへと移り、金色の目がカンダタを睨む。
その鋭い目つきに体が硬直する。何しろ咄嗟にとった行動だ。この後の事は考えていなかった。
身を屈めて突進して来る鬼。脅威的な爪と牙がこちらを捕らえる前にカンダタは高く跳ねた。天井から垂れている蛍光灯を掴み、ぶら下がる脚を上に折り畳む。
鬼の巨躯なら少し背を伸ばせば天井に届くが、態勢を低くしていたので急なカンダタの回避に対応できなかった。
手足を滑らした鬼は鋭い牙を上に向け、壁に激突する。
鬼がこちらに向かって来る前に部室を出て、階段を目指す。段差を飛ばして行こうとしたが、段差の上で立ち止まる。
踊り場の隅で清音が丸まっている。逃げたと思った彼女はそこで恐怖に負け、生きようとする意志は打ち砕かれていた。
鬼は出口から身体を出している。清音がそこにいれば標的はカンダタから映るだろう。
「清音!立て!逃げろ!」
叫んで警告しても清音は現実を拒否して両耳を塞ぐ。彼女がそこから動いてくれなければカンダタも逃げようがない。そうした優しい迷いがカンダタを止まらせて鬼に好機を与えてしまう。
顎を開き、両の鉤爪を伸ばし、覆い被さるようにしてカンダタの両肩を捕らえる。
カンダタの右手は牙を掴み、左手の親指は鬼の片目を潰し、食い込んできそうな顎を阻止する。
1人と1体、段差から踏み外したのは同士だった。カンダタと鬼は組み合ったまま、段差の角に幾度もぶつけながら転げ落ちた。その際中にカンダタは右手に力を込めて、握っていた牙を引き抜く。
段差から踊り場に落ちると持ち手を変え、弓状の弧を描く切っ尖を鬼の眉間に向けて大きく振り下げた。
眉間を刺した牙は鬼の脳に突き刺さり、黒い怪物は停止する。
体中が痛い。角がぶつかり、鉤爪が刺さっているからだ。カンダタは鉤爪を肩から抜くと鬼の腕を投げ捨てる。
清音を見てみれば、彼女は小さく「ごめんなさい」を繰り返していた。彼女が丸まり、耳を塞いでいたのは恐怖だけではなく、罪悪感からくるものだった。
倒れた戸の下で悲鳴を上げ続ける。怪我の具合はわからないが大声を出せる位には元気なようだ。
鬼。危機。叫び。真っ白になった清音の頭に浮かんだのは自己防衛だった。清音は立ち上がってカンダタたちを置いて反対側の戸から逃げ出す。
鬼は戸の下にいる女子部員に夢中でカンダタには見向きもしない。
咄嗟に椅子の背もたれを掴んだ。木製と鉄パイプの感触を確かめ、すり抜けなかったことを密かに喜ぶ。
だが、笑っている場合ではない。カンダタは力強く腕を振るい、投げられた椅子は鬼の頭に衝突する。鬼の認識は女子部員からカンダタへと移り、金色の目がカンダタを睨む。
その鋭い目つきに体が硬直する。何しろ咄嗟にとった行動だ。この後の事は考えていなかった。
身を屈めて突進して来る鬼。脅威的な爪と牙がこちらを捕らえる前にカンダタは高く跳ねた。天井から垂れている蛍光灯を掴み、ぶら下がる脚を上に折り畳む。
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手足を滑らした鬼は鋭い牙を上に向け、壁に激突する。
鬼がこちらに向かって来る前に部室を出て、階段を目指す。段差を飛ばして行こうとしたが、段差の上で立ち止まる。
踊り場の隅で清音が丸まっている。逃げたと思った彼女はそこで恐怖に負け、生きようとする意志は打ち砕かれていた。
鬼は出口から身体を出している。清音がそこにいれば標的はカンダタから映るだろう。
「清音!立て!逃げろ!」
叫んで警告しても清音は現実を拒否して両耳を塞ぐ。彼女がそこから動いてくれなければカンダタも逃げようがない。そうした優しい迷いがカンダタを止まらせて鬼に好機を与えてしまう。
顎を開き、両の鉤爪を伸ばし、覆い被さるようにしてカンダタの両肩を捕らえる。
カンダタの右手は牙を掴み、左手の親指は鬼の片目を潰し、食い込んできそうな顎を阻止する。
1人と1体、段差から踏み外したのは同士だった。カンダタと鬼は組み合ったまま、段差の角に幾度もぶつけながら転げ落ちた。その際中にカンダタは右手に力を込めて、握っていた牙を引き抜く。
段差から踊り場に落ちると持ち手を変え、弓状の弧を描く切っ尖を鬼の眉間に向けて大きく振り下げた。
眉間を刺した牙は鬼の脳に突き刺さり、黒い怪物は停止する。
体中が痛い。角がぶつかり、鉤爪が刺さっているからだ。カンダタは鉤爪を肩から抜くと鬼の腕を投げ捨てる。
清音を見てみれば、彼女は小さく「ごめんなさい」を繰り返していた。彼女が丸まり、耳を塞いでいたのは恐怖だけではなく、罪悪感からくるものだった。
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