127 / 574
2章 ヒーロー活劇を望む復讐者
鬼ごっこ 9
しおりを挟む
部室に3体の鬼が突如として現れたのだ。鬼が歩いて引き戸を潜る姿を見たものはいない。言葉通り、唐突に出現した。
その後はカンダタも清音も周知している通りだ。挟み撃ちにされた部員たちは鬼に食われて、なんとか逃げ出した人々は散り散りになり他の部室に身を隠していた。
カンダタと清音の所に逃げてきた女子部員もその1人であった。
「なんであたしたちなのよ!何もしていないのに!」
1つの話が終わった後、その部員は頭を抱えて叫ぶ。
急に取り乱したのでカンダタも対応が遅れる。
「大声はまずい。鬼が寄ってくる」
「鬼が来てしまいます。声は抑えてもらえませんか ?」
それには清音も慌てながらも女子部員の肩を撫でる。
「あ、ああ、ごめん。取り乱してしまって」
「無理もありませんよ。それで、すみれ先輩のことを聞かせてもらえませんか?」
「そうだったね」
女子部員は1つ深呼吸すると再び口を開く。しかし、その声は男子部員の叫び声で上乗せされて話が遮られた。
叫び声はひとつだけでなく、その声に続いて複数人の叫び声と走る足音。音量から察するに近くの部室に鬼が侵入したようだった。叫び声と足音、鬼の金切り声が重なって近くなる。
1人の部員がカンダタたちが隠れている引き戸を叩いて助けを求める。それに応える為、清音が立ち上がろうとするもカンダタが肩を強く掴んで止めた。
「手遅れだ」
冷徹に放った一言はカンダタのものとは思えなかった。
その数秒後、助けを求めた部員に鬼が襲う。たった1枚の戸から骨肉が砕かれ引き延ばされていく情景が懇願する声と粘着質な音だけで想像できた。
懇願する声は次第に弱くなり、鬼の咀嚼音だけが恐怖となって3人を縛る。そうして、食事の終えた鬼が鼻を鳴らして近くにいる人を探す。
見上げてみると引き戸の覗き窓から鬼の影が離れずにカンダタたちを探している。
カンダタは2人が叫ばないようにとひたすら願った。清音は下唇を噛み締めて両耳を塞ぎ、もう一方の部員は今にも叫びそうに肩を震わせている。
餌はないと判断した鬼は茂る植物を踏み締めながら遠ざかっていく。
緊張を解き、息を吐く。声をあげなかった2人に賞賛を送ってやりたいところだがまだ声は出せなかった。鬼が近くにいるかもしれない。
「もういや!」
堪えきれなかったのか女子部員は現場の理不尽さを訴える。
「悪くないのに!悪くないのに!あたしは何もしていないのに!」
「黙らせろ」
彼女の溢れた激情に思わずカンダタの口調も厳しくなる。清音はどうすればいいのか叫び訴える部員にすっかり狼狽してしまい、かけるべき言葉も分からなかった。
「なんなのよ!全部あいつのせいなのに!あああああ!」
彼女の怒声に混じって鬼の騒々しい足音が近づいてくる。
「清音!鬼が来る!清音!彼女に言え!」
カンダタの声は彼女に届かない。清音も対応できず、真っ白になった頭では迫る危機も鈍くなる。
鬼が女子部員の叫びを聞きつけて再び引き戸の前へと立つ。先程と違うのは鬼は確信を持って引き戸に突進してきたことだ。
「 いやあ!」
1度目の突進で女子部員は叫ぶ。2度目の突進で引き戸が大きく揺れ、3度目で一枚の戸が外れ鬼と共に戸が倒れる。
その後はカンダタも清音も周知している通りだ。挟み撃ちにされた部員たちは鬼に食われて、なんとか逃げ出した人々は散り散りになり他の部室に身を隠していた。
カンダタと清音の所に逃げてきた女子部員もその1人であった。
「なんであたしたちなのよ!何もしていないのに!」
1つの話が終わった後、その部員は頭を抱えて叫ぶ。
急に取り乱したのでカンダタも対応が遅れる。
「大声はまずい。鬼が寄ってくる」
「鬼が来てしまいます。声は抑えてもらえませんか ?」
それには清音も慌てながらも女子部員の肩を撫でる。
「あ、ああ、ごめん。取り乱してしまって」
「無理もありませんよ。それで、すみれ先輩のことを聞かせてもらえませんか?」
「そうだったね」
女子部員は1つ深呼吸すると再び口を開く。しかし、その声は男子部員の叫び声で上乗せされて話が遮られた。
叫び声はひとつだけでなく、その声に続いて複数人の叫び声と走る足音。音量から察するに近くの部室に鬼が侵入したようだった。叫び声と足音、鬼の金切り声が重なって近くなる。
1人の部員がカンダタたちが隠れている引き戸を叩いて助けを求める。それに応える為、清音が立ち上がろうとするもカンダタが肩を強く掴んで止めた。
「手遅れだ」
冷徹に放った一言はカンダタのものとは思えなかった。
その数秒後、助けを求めた部員に鬼が襲う。たった1枚の戸から骨肉が砕かれ引き延ばされていく情景が懇願する声と粘着質な音だけで想像できた。
懇願する声は次第に弱くなり、鬼の咀嚼音だけが恐怖となって3人を縛る。そうして、食事の終えた鬼が鼻を鳴らして近くにいる人を探す。
見上げてみると引き戸の覗き窓から鬼の影が離れずにカンダタたちを探している。
カンダタは2人が叫ばないようにとひたすら願った。清音は下唇を噛み締めて両耳を塞ぎ、もう一方の部員は今にも叫びそうに肩を震わせている。
餌はないと判断した鬼は茂る植物を踏み締めながら遠ざかっていく。
緊張を解き、息を吐く。声をあげなかった2人に賞賛を送ってやりたいところだがまだ声は出せなかった。鬼が近くにいるかもしれない。
「もういや!」
堪えきれなかったのか女子部員は現場の理不尽さを訴える。
「悪くないのに!悪くないのに!あたしは何もしていないのに!」
「黙らせろ」
彼女の溢れた激情に思わずカンダタの口調も厳しくなる。清音はどうすればいいのか叫び訴える部員にすっかり狼狽してしまい、かけるべき言葉も分からなかった。
「なんなのよ!全部あいつのせいなのに!あああああ!」
彼女の怒声に混じって鬼の騒々しい足音が近づいてくる。
「清音!鬼が来る!清音!彼女に言え!」
カンダタの声は彼女に届かない。清音も対応できず、真っ白になった頭では迫る危機も鈍くなる。
鬼が女子部員の叫びを聞きつけて再び引き戸の前へと立つ。先程と違うのは鬼は確信を持って引き戸に突進してきたことだ。
「 いやあ!」
1度目の突進で女子部員は叫ぶ。2度目の突進で引き戸が大きく揺れ、3度目で一枚の戸が外れ鬼と共に戸が倒れる。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
アストルムクロニカ-箱庭幻想譚-(挿し絵有り)
くまのこ
ファンタジー
これは、此処ではない場所と今ではない時代の御伽話。
滅びゆく世界から逃れてきた放浪者たちと、楽園に住む者たち。
二つの異なる世界が混じり合い新しい世界が生まれた。
そこで起きる、数多の国や文明の興亡と、それを眺める者たちの物語。
「彼」が目覚めたのは見知らぬ村の老夫婦の家だった。
過去の記憶を持たぬ「彼」は「フェリクス」と名付けられた。
優しい老夫婦から息子同然に可愛がられ、彼は村で平穏な生活を送っていた。
しかし、身に覚えのない罪を着せられたことを切っ掛けに村を出たフェリクスを待っていたのは、想像もしていなかった悲しみと、苦難の道だった。
自らが何者かを探るフェリクスが、信頼できる仲間と愛する人を得て、真実に辿り着くまで。
完結済み。ハッピーエンドです。
※7話以降でサブタイトルに「◆」が付いているものは、主人公以外のキャラクター視点のエピソードです※
※詳細なバトル描写などが出てくる可能性がある為、保険としてR-15設定しました※
※昔から脳内で温めていた世界観を形にしてみることにしました※
※あくまで御伽話です※
※固有名詞や人名などは、現代日本でも分かりやすいように翻訳したものもありますので御了承ください※
※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様でも掲載しています※
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる