126 / 596
2章 ヒーロー活劇を望む復讐者
鬼ごっこ 8
しおりを挟む
「天の声はどこから聞こえてくるんだ?」
「天の?えっと、あれはスピーカーで放送室から流れています」
「放送室か。今時間は?」
「16:45です」
そこなら行ったことがある。首吊りがあった部屋だ。
「もしかして、行くつもりですか?」
「脱出するためにも主犯に会わないといけない」
「隠れていたほうが安全です。一緒にいて下さい」
「安全地帯があれば俺もそうしたい」
鬼の習性をカンダタはよく知っている。一時的に身を隠せても貪欲な奴らは必ず餌を見つける。しかも、1つの建物に鬼が3体だ。後の15分。カンダタはともかく清音は生きている。見捨てるわけにはいかない。
鍵をかけた部室の扉が強く3回叩かれた。2人は扉向こうにいるそれを危機かどうかと見定めようとする。
「誰かいるんでしょう!開けてお願い!」
それは生身の人の声であったが、警戒を解くものにはならない。なぜなら、声だけでは判断ができないからだ。
急に外が暗くなり、壁や床に薄気味悪い蔦・花が生えたのだ。人の声をした鬼が現れても不思議ではないのだ。
しかし、清音は違うようで立ち上がると鍵を開ける。
「大丈夫ですか?」
引き戸の向こうにいたのは本物の人間で血塗れになった女子部員が入ってくるとその場に座り込む。
「ありがとう。あなた、演劇部の人じゃないわね。ひとり?」
「え?」
その一言で清音はカンダタを見る。
カンダタと清音たちには境界線がある。それが生と死だ。カンダタたちは同じ地平に立っているが、この線は超えられない。カンダタが清音に触れられたのはどういうわけか境界線がなくなったからだ。
カンダタはそう解釈していた。しかし、逃げてきた女子部員にカンダタは見えていなかった。境界線が消えたというよりは曖昧になっているようだった。そこにあるのか、ないのかさえ朧げだ。
「そうだ、と答えたほうがいい」
清音は現場の理解もできず、戸惑っていたので少しでも混乱を解いておきたかった。
「えっと、そう、そうなんです」
「下の階で起こったことを聞いてもらえないか。あと桜尾 すみれについても」
清音が知り得なかったものを彼女は持っているかもしれない。カンダタは清音に代弁してもらう。清音は彼女を落ち着かせながら起こったことを説明させようと説得する。彼女は震えながらも話してくれた。
一連の怪事件により、3人のOBと敏腕の教師を亡くした演劇部は枕鬱な面持ちになり、また演劇部ばかり死んでいく現場に恐怖し、練習もままならなかった。
そこに心配して相談に乗ってくれたのが赴任したばかりの長野教師だった。心理士として訪れた彼は演劇部に1つの目標を与えた。それがなくなったOBや安斉先生に全国大会の優秀賞を弔いとして捧げてはどうかと言うものだ。今は亡き先輩や教師に最高の作品を最高の仕上がりで優秀賞を。そんな心理士の呼びかけで近頃噂になっている怪事件への恐怖もなくなっていた。
部活動は禁止されているのにも関わらず、部室に集まっていたのはそういった経緯からだった。その最中に起きたのがあの放送だ。放送中、桜尾 すみれに対して嘲りや罵倒をスピーカーに送った。それが本気だと思い知ったのはすぐ後の事だった。
「天の?えっと、あれはスピーカーで放送室から流れています」
「放送室か。今時間は?」
「16:45です」
そこなら行ったことがある。首吊りがあった部屋だ。
「もしかして、行くつもりですか?」
「脱出するためにも主犯に会わないといけない」
「隠れていたほうが安全です。一緒にいて下さい」
「安全地帯があれば俺もそうしたい」
鬼の習性をカンダタはよく知っている。一時的に身を隠せても貪欲な奴らは必ず餌を見つける。しかも、1つの建物に鬼が3体だ。後の15分。カンダタはともかく清音は生きている。見捨てるわけにはいかない。
鍵をかけた部室の扉が強く3回叩かれた。2人は扉向こうにいるそれを危機かどうかと見定めようとする。
「誰かいるんでしょう!開けてお願い!」
それは生身の人の声であったが、警戒を解くものにはならない。なぜなら、声だけでは判断ができないからだ。
急に外が暗くなり、壁や床に薄気味悪い蔦・花が生えたのだ。人の声をした鬼が現れても不思議ではないのだ。
しかし、清音は違うようで立ち上がると鍵を開ける。
「大丈夫ですか?」
引き戸の向こうにいたのは本物の人間で血塗れになった女子部員が入ってくるとその場に座り込む。
「ありがとう。あなた、演劇部の人じゃないわね。ひとり?」
「え?」
その一言で清音はカンダタを見る。
カンダタと清音たちには境界線がある。それが生と死だ。カンダタたちは同じ地平に立っているが、この線は超えられない。カンダタが清音に触れられたのはどういうわけか境界線がなくなったからだ。
カンダタはそう解釈していた。しかし、逃げてきた女子部員にカンダタは見えていなかった。境界線が消えたというよりは曖昧になっているようだった。そこにあるのか、ないのかさえ朧げだ。
「そうだ、と答えたほうがいい」
清音は現場の理解もできず、戸惑っていたので少しでも混乱を解いておきたかった。
「えっと、そう、そうなんです」
「下の階で起こったことを聞いてもらえないか。あと桜尾 すみれについても」
清音が知り得なかったものを彼女は持っているかもしれない。カンダタは清音に代弁してもらう。清音は彼女を落ち着かせながら起こったことを説明させようと説得する。彼女は震えながらも話してくれた。
一連の怪事件により、3人のOBと敏腕の教師を亡くした演劇部は枕鬱な面持ちになり、また演劇部ばかり死んでいく現場に恐怖し、練習もままならなかった。
そこに心配して相談に乗ってくれたのが赴任したばかりの長野教師だった。心理士として訪れた彼は演劇部に1つの目標を与えた。それがなくなったOBや安斉先生に全国大会の優秀賞を弔いとして捧げてはどうかと言うものだ。今は亡き先輩や教師に最高の作品を最高の仕上がりで優秀賞を。そんな心理士の呼びかけで近頃噂になっている怪事件への恐怖もなくなっていた。
部活動は禁止されているのにも関わらず、部室に集まっていたのはそういった経緯からだった。その最中に起きたのがあの放送だ。放送中、桜尾 すみれに対して嘲りや罵倒をスピーカーに送った。それが本気だと思い知ったのはすぐ後の事だった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる