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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者
黒猫の探し物 16
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土砂降りになっていた雨は朝になると小降りの雨と変わっていた。けど、厚い曇天は未だ青空を隠す。
正直に言うと学校へは行きたくない。あれを目撃した翌日なのに、いつも通りを貫くメンタルは持っていない。だからといって部屋に篭って弱い人になりたくもなかった。
どんなことでも平常心でいられるような強さが欲しいな。
水分で重くなった靴が歩調を遅くした。
「おはよう、清音。奇遇だね」
憂鬱な足取りに不意打ちをするように話しかけてきたのは山崎だった。
「なんで、山崎がここにいるの?」
私は強気で振る舞って聞いてみるも身体は正直者で強張ってしまう。
どこかで安心していた。山崎は謹慎中だから会うことはないと。なのに、彼女はそれを軽視して、学校の決断を踏みにじる。
よれた服とビーサンで来た山崎はだらしなく、放浪者と言われてもおかしくない。
「別にあんたに会おうとは思っていない。散歩していたら清音に会ったそれだけ」
「謹慎中でしょ」
「休みの日に何をしようが私の勝手じゃない。まさか、清音まで説教するの?あたしに?」
「そんなつもりじゃ」
この前、お弁当をトイレに流されたことを思い出してしまった。私は鞄を隠すように背中へと回す。
私のあからさまな仕草を山崎は見逃すはずがなかった。
「今日もママのお弁当持ってきたの?甘えて育ってきた子は変わらないね。清音ちゃんはいつまで甘えん坊を続けるの?」
「や、山崎はなんで私をいじめるの?私が何をしたの」
震える舌を動かしてみても山崎を睨みつけれなかった。私の視線は地面に向けられたまま濡れたコンクリを見つめる。
「少しからかっただけじゃない。お弁当だってまたママに作ってもらえばいいじゃん」
私の中途半端な反抗は山崎の気に触ったらしい。お弁当の入った鞄を無理矢理に奪おうとする。
また惨めで悲しくなる思いをしたくないと願った私は鞄を抱いて、山崎は手提げの紐を引っ張る。
「何してるの!」
私たちの小さな戦いを止めてくれたのは桜尾先輩だった。私の中に1つの安堵が広がった。
謹慎中である山崎も揉め事は避けたいみたいで手提げ紐を大人しく放す。
「あんた山崎でしょ。清音から聞いたよ」
「どこの先輩かは存じませんけど、勘違いですよ。私は少しからかっただけなのに甘えん坊さんが大げさに騒いだんですよ。むしろ被害者はあたしなんですよ」
山崎さんは先輩にも怖気付かなかった。むしろ、見下したような高圧的な態度で話す。
「謹慎中なんでしょ。悪化したくなかったら家に帰れば?外出してたことを先生に言ってもいいのよ」
「先輩もチクリが得意なんですね。お二人ともよく似ている。別に停学でも退学でもどっちでもいいし」
山崎は全てどうでもいいみたいに吐き捨てて言う。
桜尾先輩の登場で山崎は興ざめして、つまらなそうに髪の毛を指でいじりながら踵を返す。
「逃げるの?」
「嫌だなぁ。先輩の言う通りにするんですよ。次は二人っきりで話そうね。清音さん」
結局、彼女は私をいじめたいだけに朝から待ち伏せていた。
謹慎中でも山崎は執拗に狙ってくるのだと知った私は彼女の「話そうね」が恐ろしく、身震いした。
「何なのあいつ。清音、あういうのはとことん無視するのよ。あのタイプはすぐ調子に乗るんだから」
「ありがとうございます。すごいですね。なんというか、強いというか」
「強くなりたくてなったんじゃない。そうなってしまったのよ」
演劇部ののいじめは昔からあった。朝の会話が脳裏を過ぎる。
正直に言うと学校へは行きたくない。あれを目撃した翌日なのに、いつも通りを貫くメンタルは持っていない。だからといって部屋に篭って弱い人になりたくもなかった。
どんなことでも平常心でいられるような強さが欲しいな。
水分で重くなった靴が歩調を遅くした。
「おはよう、清音。奇遇だね」
憂鬱な足取りに不意打ちをするように話しかけてきたのは山崎だった。
「なんで、山崎がここにいるの?」
私は強気で振る舞って聞いてみるも身体は正直者で強張ってしまう。
どこかで安心していた。山崎は謹慎中だから会うことはないと。なのに、彼女はそれを軽視して、学校の決断を踏みにじる。
よれた服とビーサンで来た山崎はだらしなく、放浪者と言われてもおかしくない。
「別にあんたに会おうとは思っていない。散歩していたら清音に会ったそれだけ」
「謹慎中でしょ」
「休みの日に何をしようが私の勝手じゃない。まさか、清音まで説教するの?あたしに?」
「そんなつもりじゃ」
この前、お弁当をトイレに流されたことを思い出してしまった。私は鞄を隠すように背中へと回す。
私のあからさまな仕草を山崎は見逃すはずがなかった。
「今日もママのお弁当持ってきたの?甘えて育ってきた子は変わらないね。清音ちゃんはいつまで甘えん坊を続けるの?」
「や、山崎はなんで私をいじめるの?私が何をしたの」
震える舌を動かしてみても山崎を睨みつけれなかった。私の視線は地面に向けられたまま濡れたコンクリを見つめる。
「少しからかっただけじゃない。お弁当だってまたママに作ってもらえばいいじゃん」
私の中途半端な反抗は山崎の気に触ったらしい。お弁当の入った鞄を無理矢理に奪おうとする。
また惨めで悲しくなる思いをしたくないと願った私は鞄を抱いて、山崎は手提げの紐を引っ張る。
「何してるの!」
私たちの小さな戦いを止めてくれたのは桜尾先輩だった。私の中に1つの安堵が広がった。
謹慎中である山崎も揉め事は避けたいみたいで手提げ紐を大人しく放す。
「あんた山崎でしょ。清音から聞いたよ」
「どこの先輩かは存じませんけど、勘違いですよ。私は少しからかっただけなのに甘えん坊さんが大げさに騒いだんですよ。むしろ被害者はあたしなんですよ」
山崎さんは先輩にも怖気付かなかった。むしろ、見下したような高圧的な態度で話す。
「謹慎中なんでしょ。悪化したくなかったら家に帰れば?外出してたことを先生に言ってもいいのよ」
「先輩もチクリが得意なんですね。お二人ともよく似ている。別に停学でも退学でもどっちでもいいし」
山崎は全てどうでもいいみたいに吐き捨てて言う。
桜尾先輩の登場で山崎は興ざめして、つまらなそうに髪の毛を指でいじりながら踵を返す。
「逃げるの?」
「嫌だなぁ。先輩の言う通りにするんですよ。次は二人っきりで話そうね。清音さん」
結局、彼女は私をいじめたいだけに朝から待ち伏せていた。
謹慎中でも山崎は執拗に狙ってくるのだと知った私は彼女の「話そうね」が恐ろしく、身震いした。
「何なのあいつ。清音、あういうのはとことん無視するのよ。あのタイプはすぐ調子に乗るんだから」
「ありがとうございます。すごいですね。なんというか、強いというか」
「強くなりたくてなったんじゃない。そうなってしまったのよ」
演劇部ののいじめは昔からあった。朝の会話が脳裏を過ぎる。
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