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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者
黒猫の探し物 2
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学校は家の近くにある。横断歩道を越えて新築のマイホームが並ぶ住宅街の一角に私の家がある。
私がそれを見つけたのは横断歩道のすぐ傍にあるゴミ捨て場だった。
今朝あったゴミ山は夕刻には全て無くなっていて、そこにあるのはカラス除けの網だけ。
いつもは綺麗になくなっているのに一つだけ網目に絡まった黒い毛玉が目に入る。
真面目に仕事をする清掃の人たちが珍しく忘れたかマナー違反をした住人が回収後に置いたかのどちらかだと勝手に解釈する。
近くになっていくにつれて黒い毛玉の詳細が私の目に写し出される。
膨らんで縮むを繰り返す毛玉の正体は冷たい雨に打たれて懸命に儚い呼吸をする黒猫だった。
まだ生きている。私は花柄の傘を雨で溜まったアスファルトに落として、絡まった網を解きと両腕で黒猫を抱える。
「大丈夫?しっかりして。病院に連れて行ってあげるからね」
傷だらけの猫は固く瞳を閉じて話しかけても反応がない。体温は雨に奪われて冷たくなっていた。
でも、生きている。動物クリニックは近所にある。走って行けば間に合うかもしれない。
落とした傘を拾い私は動物クリニックへと急ぐ。
幸い、黒猫は命に別状がないと獣医は私に告げる。安心した私は最近忘れていた笑顔を浮かべた。
「しかし、すごい猫ちゃんですね。野良ですか?」
獣医が私に向けて関心の篭った質問をする。
「ええ、そうです。すぐそこのゴミ捨て場に傷だらけになっていいたんです」
「俺もね、この子は助からないんじゃないかと思ったんだけど、すでに血も止まって段々に呼吸も落ち着いてきてね。驚いたよ。でも、傷が治るまでは安静にね」
「ありがとうございます」
黒い毛並みに白い包帯を巻かれた猫を抱いて母に連絡する。
高校生のお小遣いでは黒猫の治療費は払えない。お母さんは突然の出費にも関わらず、優しく私を迎えに来て受付の人に治療費を払う。
「ごめんなさい」
財布からお金を取り出す姿を助手席から見ていた私は申し訳なく思う。
私の家庭は貧乏ではないけど裕福でもない。身の丈に合った生活を卒なく暮らしている。そこに不安があるわけじゃない。むしろそういった生活を支えている両親には感謝している。
だからこそ、お母さんに高い治療費を払わせたことに申し訳なく思う。
膝の上で眠る黒猫を撫でながら私は項垂れた。
お母さんは運転席のシートベルトをカチリとつけて優しく微笑む。
「そんなことない。助けてあげたかったんでしょ」
お母さんは私の肩を優しく叩く。
「可愛い猫ね」
雨音とお母さんの微笑に包まれて私も笑った。
「ミルクを買いに行かないとね」
お母さんはそう言って車のキーを回す。雨に守られた私たちは雨足が速くなる道の上を行く。
私がそれを見つけたのは横断歩道のすぐ傍にあるゴミ捨て場だった。
今朝あったゴミ山は夕刻には全て無くなっていて、そこにあるのはカラス除けの網だけ。
いつもは綺麗になくなっているのに一つだけ網目に絡まった黒い毛玉が目に入る。
真面目に仕事をする清掃の人たちが珍しく忘れたかマナー違反をした住人が回収後に置いたかのどちらかだと勝手に解釈する。
近くになっていくにつれて黒い毛玉の詳細が私の目に写し出される。
膨らんで縮むを繰り返す毛玉の正体は冷たい雨に打たれて懸命に儚い呼吸をする黒猫だった。
まだ生きている。私は花柄の傘を雨で溜まったアスファルトに落として、絡まった網を解きと両腕で黒猫を抱える。
「大丈夫?しっかりして。病院に連れて行ってあげるからね」
傷だらけの猫は固く瞳を閉じて話しかけても反応がない。体温は雨に奪われて冷たくなっていた。
でも、生きている。動物クリニックは近所にある。走って行けば間に合うかもしれない。
落とした傘を拾い私は動物クリニックへと急ぐ。
幸い、黒猫は命に別状がないと獣医は私に告げる。安心した私は最近忘れていた笑顔を浮かべた。
「しかし、すごい猫ちゃんですね。野良ですか?」
獣医が私に向けて関心の篭った質問をする。
「ええ、そうです。すぐそこのゴミ捨て場に傷だらけになっていいたんです」
「俺もね、この子は助からないんじゃないかと思ったんだけど、すでに血も止まって段々に呼吸も落ち着いてきてね。驚いたよ。でも、傷が治るまでは安静にね」
「ありがとうございます」
黒い毛並みに白い包帯を巻かれた猫を抱いて母に連絡する。
高校生のお小遣いでは黒猫の治療費は払えない。お母さんは突然の出費にも関わらず、優しく私を迎えに来て受付の人に治療費を払う。
「ごめんなさい」
財布からお金を取り出す姿を助手席から見ていた私は申し訳なく思う。
私の家庭は貧乏ではないけど裕福でもない。身の丈に合った生活を卒なく暮らしている。そこに不安があるわけじゃない。むしろそういった生活を支えている両親には感謝している。
だからこそ、お母さんに高い治療費を払わせたことに申し訳なく思う。
膝の上で眠る黒猫を撫でながら私は項垂れた。
お母さんは運転席のシートベルトをカチリとつけて優しく微笑む。
「そんなことない。助けてあげたかったんでしょ」
お母さんは私の肩を優しく叩く。
「可愛い猫ね」
雨音とお母さんの微笑に包まれて私も笑った。
「ミルクを買いに行かないとね」
お母さんはそう言って車のキーを回す。雨に守られた私たちは雨足が速くなる道の上を行く。
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