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真相
忘れ物
しおりを挟む三間のマンションに到着し、連れ立ってエレベーターに乗り込む。
「大丈夫か? やっぱりどこか調子が悪いようなら、病院に連れて行くが……」
気づかわしげに声をかけられ、顔を上げた。
事件の真相を聞いた後から僕が口をきかなくなったので、気を使わせてしまったのかもしれない。
喋る気力が湧かなくなったのは、体力的にも精神的にも、どっと疲れが押し寄せてきた所為だった。正直、今はもう何も考えずに、夕食も食べずに朝まで眠っていたいけど。病院に行くほどの不調ではない。
「大丈夫です。それより、時間ギリギリなんですよね? ホテルまで送ってもらったほうが、よかったんじゃないですか?」
「今日は日曜だから今から車で行っても、間に合うだろう。一つ取りに戻りたいものがあってな」
取りに戻りたいものって、もしかして、婚約指輪とか……?
浮かんだ考えに、さほど胸は痛まなかった。
疲れているときって頭だけでなく心も鈍くなるんだな。と他人事のように思う。
よく考えたら、結婚発表の記者会見って、両方が芸能人だった場合、合同でされることが多かった気がする。
佑美さんが婚約指輪を嵌めて、その手をカメラに向けて、笑顔でポーズを取ったりするんだろうか……。
どうしよう。
目を逸らすのはあからさまな気がするし、かといってすぐには返す言葉が思いつかない。
「おめでとうございます」と、このタイミングで言った方がいいんだろうか……。まだ正式に発表もされていないのに?
考えを巡らせ、固まっていると。
チン、と電子音がエレベーターの到着を知らせ、ドアが開いた。
涙だけは、最後まで見せないようにしよう。
そう心に決め、先に降りた彼の背中を追う。
いつになく速足だから、やはり急いでいるようだ。
「忘れ物取りにきただけですよね? 僕、ここで待っていますよ」
玄関横の壁際に身を寄せ、鍵を開けている彼に伝える。
この部屋に最後に来た日のことを、随分と昔のことのように感じていた。
誰かに電話で呼び出されて、「行ってくる」と言って出て行った彼を玄関で見送るとき、「行ってらっしゃい」と言えなかった。そのことを思い出したら、鈍かったはずの心が少しだけ、ツキンと痛んだ。
あの日、三間を呼び出したのはおそらく佑美さんで、翌日、三間は彼女のフェロモンの匂いを纏って、撮影所に現れた。
「せめて三和土まで、入ってもらえるか?」
手を取られ、有無を言わさず引っ張り込まれる。
急いでいることと矛盾するその行動に、戸惑いを覚える。
あの週刊誌は明後日発売と言っていたから、差し止めは無理だろう。
僕がオメガだったことはすぐに世間の人達の知るところになるので、家の前に僕が立っているところを、同じフロアの住人に見られたくないのかもしれない。
そんなことを考えていたら、ドアが閉まると同時に抱きしめられた。
一瞬、息ができなくなるくらいの、強すぎる抱擁だった。
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