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海外ロケとスキャンダル

耐性

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 マレーシアに着いてすぐから、発情期ヒートが始まった感覚はあった。
 発情期ヒートや発情抑制剤の副作用だけでなく、昼間の30度という気温も、まだ暑さに慣れていない体にはかなり堪えた。
 同じハードスケジュールをこなしていても他の人たちは全く疲れた素振りを見せないから、やはりオメガの体は極端に体力がないのだろう。

 うちの事務所はよほどの人気者でなければオメガはロケも含めて海外に行く仕事は許可してもらえない。イレギュラーな発情期ヒートを心配しているだけでなく、オメガ特有の体力的な弱さも理由の一つなのだろう。

 少しでも空き時間があるときは体を休め仮眠を取って体力回復に努め、どうにか気力で、撮影本番二日目の、戦闘機のレプリカを使ったシーンの撮影まで終えることができた。

 三間も僕も戦闘服の下にライフジャケットを着ているため、体は自然と浮く。戦闘機のエンジンを撃ち抜かれて海に落下した中尉は、足を負傷していて自力では身動きが取れない設定だが、カメラには映らないところで僕に体重がかからないように三間がサポートしてくれていたお陰で、必要以上に体力を削られずにすんだ。

 問題は、明日の撮影最終日だった。
 発情期ヒート中に飲むよう指示された量の抑制剤を内服し、今のところフェロモンの匂いは抑えられている。でも、ここ最近、薬の効果が薄れてきている気がしている。
 飲み続けると耐性ができ、同じ効果を得るためには薬を増やしていく必要がある。強い抑制剤を長期間内服すると不妊のリスクがあるため、抑制剤のみで発情期ヒートを抑えることはお勧めはできないと病院でも言われていた。

 前回の発情期ヒートは12月で俳優の仕事はなくコンビニのバイトを入れていたが、途中でフェロモンの匂いがし始めたため、慌てて緊急用の薬を内服した。たまたまお客さんがいないときでよかった。

 今回も、おそらく明日がピークなので、完全に匂いを抑えるためには今日の夜から薬を追加で内服しておいたほうがいいことはわかっている。だが、今だって眠気と吐き気が酷く、誰かと立ち話をするだけでも辛いのに、これ以上薬を増やせば、まともな演技ができるか不安になる。
 明日は戦闘機の残骸にしがみつき平田中尉と二人で漂流するシーンの撮影が予定されている。中尉の遺言を聞き、力尽き海へと沈んでいく彼を見送る悲しい別れの場面でもあるので、物語の中ではかなり重要なシーンになる。できることならこれ以上集中力を欠いた状態で演じたくはなかった。

 オメガであることがバレないよう、万全の策を取るか。バレても仕方ないという前提で、抑制剤を追加せずに撮影に臨むか。
 それは日本にいたときから悩んでいたことで、ぎりぎりになってもまだ答えが出せていない。

 食欲はなかったが、ホテルのレストランでの夕食は翌日の打ち合わせを兼ねているので、参加しないわけにはいかない。
 撮影から帰って来てから部屋でシャワーを浴び、どうしたらいいのだろうと頭を悩ませつつ、重怠い体に鞭打ってレストランのある1階へと降りた。




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