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最初で最後
三間が俳優になった理由
しおりを挟むここに来る『理由』ではなく、『目的』があったと三間は言った。同じ意味かもしれないけど、なんとなくその違いが気になりつつ、座椅子に座る。
「これ全部食べたら、ダイエットが一気に振り出しに戻りそうですね」
気を取り直して、はしゃいだ声をあげた。
お刺身やしゃぶしゃぶ、吸い物に茶碗蒸し。テーブルに並んだ料理全部食べたら、普段の夕食の3倍のカロリーはありそうだ。
「これでも、『嫁に付き合って俺も食べるの控えてるから』つって、さつま揚げとかのカロリー高そうな奴は減らしてもらったんだがな」
まだその話をするか! と僕は三間を睨みつける。
三間は珍しく、ははっ、と茶目っ気を見せて笑った。
いつになく面映ゆい気分で食事を始めたから、テレビをつけるのを忘れてしまった。
三間と二人でいて会話がないのはいつも通りだけど、慣れない場所のせいか、いつも以上に静寂が気になる。
共通の話題と言えば撮影中の映画の話になるが、その話をすれば、今日見てきたものを思い出して雰囲気が暗くなりそうな気がする。
「みま……、晴さんは、どうして俳優になったんですか?」
何か当たり障りのない話題……。そう思ってふと浮かんだのがそれだった。しかし、口に出した後で、そう言えば、一度目の人生でも同じ質問をしていたことを思い出した。
三間が箸を止める。
答えを考え込んでいる顔を見て、不思議に思った。
一度目の人生でこの話をしたのは、予期せぬヒートで体を重ねてしまった後の、いわゆるピロートークのときだ。欲情の波が少し落ち着いた頃、気まずさと罪悪感を埋めるために交わした会話の中で、そんなとりとめもない話をした。
でも、あのときは、『事務所の社長からスカウトされたから』と即答された。『僕も事務所の専務にスカウトされたんですよ』と返して、その話題はすぐに終了したはずだ。
「俺の実家は色々と事情があって、居心地が悪くてな……」
手を止めて答えを待っていると、あのときとは異なる答えが返って来た。
再び箸を動かし始めた三間が、食事をしながら淡々と話をする。
視線は膳へと伏せられているが、嫌々ながら話しているふうではない。それを見て、僕も手と口を動かしながら、耳だけを傾けた。
「中学まではそれでも何とか我慢していたんだが……、高校生になってからは、家族と顔を合わせたくなくて、夕食が終わる時間まで外で時間を潰すようになった。やることもなくてふらふらしているときに、うちの事務所の社長や佑美と会ったんだ……」
予想外の名前を耳にし、胸がキュッと引き絞られる。
以前は佑美さんも同じ事務所だったことは知っていたけど。まさか高校生の頃からの付き合いだったなんて。
ざわりとした胸の内に気づかれぬよう、僕はすました顔を取り繕った。
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