62 / 83
嵐のあと
嵐のあと(2)
しおりを挟む「じゃあ、僕が倒れそうになったときに抱き留めてくれたのも、君?」
「いや。あれはフリッツさんだよ。俺は君を助けるほうは間に合いそうになかったから、とりあえず短剣だけ投げたんだ。まぁ、あの方なら服の下に鎖帷子を着こむくらいはしてたんじゃないかと思うけどね。ついでに殿下まで助けたら報酬が上乗せされるかもって思って頑張っちゃった」
「報酬?」
ユリウスは小首をかしげた。
「俺は元々、都で用心棒をやっていたんだ。親方が元は王宮騎士団の騎士で王宮関係者にも顔がきくからね。稀に王族からの依頼もあって、今回は国王陛下の依頼で、君の護衛を任されていたんだ。途中で追いついて、都からの道中もずっと後をつけて宿も同じところに泊まっていたのに、君、俺のこと全然覚えていなかったよね」
「……そうだったのか!?」
だとしたら、ユリウスが貴族の庶子とわかったとき、「めちゃくちゃやんごとなきお坊ちゃまじゃないか!」と大袈裟に驚いていたのも、全て演技だったのだろう。
仕事仲間で友達だと完全に思い込んでいたから、騙されていたことが些か腹立たしくもある。
「だったら、護衛だって言ってくれたらよかったのに……」
「陛下から口止めされていたんだよ。知ったら絶対に、君が俺を追い返すだろうからって。でも、こうなった以上は話さないわけにいかないからね」
確かに、聞かされていたら絶対に断っていたと思う。もしくは申し訳なさすぎて使用人をやめていたかもしれない。
ユリウスとアルミンの二人分の使用人の給金を合わせても、護衛を雇うほうが遥かに高いに決まっている。使用人として働くために護衛が必要になるのなら、金銭的にはかなり無駄なことをしていたことになる。
アルミンは冗談めかして言ったが、きっと報酬の上乗せがなくても、ラインハルトのことも守ってくれたに違いない。
「アルミン。本当にありがとう。この恩は、一生忘れないよ」
「仕事だからね」
アルミンは照れくさそうに目を逸らした。
親方が王宮関係者と親しく、用心棒として商団の護衛で他国に行くこともあるアルミンは、宮廷やウェルナー辺境伯領の内情にも精通していた。陛下の指示でユリウスを護衛していたことを明かしたことで、今回の陰謀の背景についても、ラインハルトから差し障りのない範囲で話を聞けたらしい。
舞踏会の夜にラインハルトが騎士団長に向けて放った言葉の中で、地図や何かの設計図が隣国に渡されようとしていたことや、「第一王弟」という言葉を耳にした記憶がある。
アルミンの話では、第一王弟が王宮の書記官を懐柔し、軍用地図や開発中の火器の設計図の写しを作らせたことが発端だった。第一王弟は第五騎士団の騎士団長を介して、それを手土産にケースダルムへ帰属を願うよう、ウェルナー辺境伯に勧めた。一方で宮廷では、辺境伯の離反に対し、派兵して制裁を加えることを推進し、その隙を突いてクーデターを起こすか、国王の責任を追及する形で王位を奪う算段だったらしい。
母君がケースダルムの王女だった第一王弟は、現在のケースダルム王の甥にあたる。第二王子であっても王妃の息子で、本来なら王になるべき人であった。ウェルナー辺境伯領を失うことにはなるが、第一王弟が王位に就けば、現王の即位以来冷え切っていた隣国との関係性は今より良くなると思われる。騎士団長にも、第一王弟とウェルナー辺境伯の橋渡しをすることで、ゆくゆくは辺境伯令嬢の婿となり辺境伯の後継となるという目論見があったようだ。
575
あなたにおすすめの小説
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった
釦
BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。
にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる