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過保護な主
過保護な主(1)
しおりを挟むその日の午前中は洗濯と掃除をし、昼食をふかし芋とスープで簡単に済ませたら、しばらくは休憩だと言われた。ワーグナー夫妻は昼食後は午睡をするのだそうだ。主が家にいてもいなくても、夫妻の生活は普段と変わらないらしい。
ユリウスは午睡の習慣がないため、庭で薬草を育てられる場所を探すことにした。
草の生えていない土の地面のほとんどは、馬を散歩させているためか、踏み固められていて、薬草を植えるには向いていない。塀の傍の雑草が生い茂っている場所か、馬に踏まれないよう、薬草花壇を作るしかないが、花壇のほうは材料が必要なのですぐには難しい。
まずは草取りして土の状態を見てみるか……。
そんなことを考えつつ塀に沿って歩いていたら、正門が開き、荷車を引いた人が入って来た。
小走りで近付き、挨拶をする。名前を名乗り、今日この家に来たばかりの使用人であることを説明すると、その人も名乗ってくれた。
彼はトマスという。平民街で商売をしているというワーグナー夫妻の息子さんだった。ユリウスより一回りほど年上で、柔和な面立ちがエレナによく似ている。今日は食材や馬の干し草を届けてくれたそうだ。
勝手知ったる我が家よろしく、野菜やお肉を入れた木箱を台所へ運ぶと、荷台に積んでいた干し草を馬に与え、空になった荷台に馬の糞を乗せて帰って行った。馬の糞は、干して肥料にするらしい。
馬の糞は薬草の肥料にもできるな。とユリウスも心に留める。
やがて夫妻が午睡から起き出してきて、午後の仕事はエレナが夕餉の仕度、ギルベルトがラインハルト殿下宛てに届いた書簡の整理や繕い物、といった具合に分担していた。ギルベルトは、元々は仕立て屋で働いていたそうで、目を悪くして仕立て屋はやめたけど、今でも針仕事は基本的に彼の担当らしい。
ユリウスは、今日のところはエレナを手伝うことにした。そのうち繕い物も習いたいが、子供の頃、姉が刺繍をしているのを真似しようとして、何度も針を手に差して指先が血だらけになった記憶がある。殿下の衣服を血だらけにするわけにいかないので、まずは自分の衣で練習しなければならない。
夕餉の仕度は、井戸から水を汲んできて、かまどに火を起こすところから始まる。ユリウスも、水を汲んできたり野菜を洗ったりして、できることから手を出していく。
家では「危ないから」と言ってさせてもらえなかった火やナイフを使った作業も、気をつけてやれば全然危ないことはなかったし、実際にやってみたら楽しかった。
確かに夫妻の一日を見ると、ユリウスがいなくても、二人だけで人手は足りているように思える。でも、手伝えば、今よりは二人が楽になるかもしれないし、邪魔になるようなら、その間は庭の草むしりや馬小屋の掃除をすればよい。
食い扶持に見合う働きをできるかは自信がないが、真面目にやれば、タダ飯食らいよりマシではないかと思った。
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