7 / 83
第三王弟殿下
第三王弟殿下(2)
しおりを挟む密命……。思いもよらぬ言葉に、ユリウスの心臓が痛いほどにぎゅっと縮こまる。
国の王が、一介の平民オメガに一体どんな密命を下されるというのか……。
「とある筋から、第三王弟に謀反の疑いありという情報を得た。お前には、我が弟に従僕として仕え、奴の動向を逐一報告してもらいたい」
「第三王弟」と聞いて思い出したのは、先ほど控えの間で小耳に挟んだオメガたちの会話だった。
『成人された王族で妃妾を迎えておられないのは、第三王弟殿下だけだそうよ。でも、あまり期待しないほうがいいわね。第三王弟殿下は毎年、選定の儀に参加されていなくて、オメガ嫌いで有名よ』
「……あ、あの……」
ユリウスは勇気を振り絞り、口を開いた。視線で促され、恐る恐る話を続ける。
「第三王弟殿下はオメガ嫌いだとお聞きしたのですが……。それに、私のような地方貴族の庶子が王族の従僕になってよろしいのでしょうか……」
「オメガ嫌い……世間ではそういうことになっているのか」
陛下が何かを思い出すように、口元に苦笑を滲ませる。
「あの者はオメガを嫌っているわけではない。これまで選定の儀に参加してこなかった理由は、いずれ本人の口から聞けばよい。それにガイトナー公爵の縁者なら、あいつも断らないだろう」
なぜ、ガイトナー公爵の縁者なら断られないのかは疑問だったが、陛下の中ではユリウスが第三王弟に従僕として仕えることはすでに決定事項のようだった。臣下への下賜を免れることは嬉しいが、今まで土いじり以外の仕事を何一つしてこなかった自分に、王弟の従僕が務まるとは思えない。主に迷惑をかけないほうで選べば、下賜に軍配が上がる。かと言って、当然、国王相手に「お引き受けできません」と断れるはずもなく……。
「誰と会い、何を話し、休日にどこに出かけたか。報告の内容は些細なことで構わぬ」
戸惑うユリウスに構うことなく、陛下は報告書の宛先など具体的なことまで話を進めていく。
到底断れそうにない雰囲気に、この場ではひとまず引き受け、後でエイギルから差し障りのないよう断ってもらうのがよいか――そんなことを考えていたとき。背後でコンコンと扉を叩く音がした。
「第三王弟殿下がいらっしゃいました」
「あぁ。通せ」
扉が開き、背後から足音が近づいてくる。
アルファの気によるものだろうか。急に空気が重くなった気がする。王弟殿下を平民の自分が椅子に座って迎えるわけにいかない。床に跪かないと、と頭では考えているのに、自分の体じゃないみたいに指一つ動かせなかった。
「王弟ラインハルトが陛下にお目にかかります」
颯爽とした足音が真横で止まり、どこか険のある冷ややかな声がかかる。
その声と名前に聞き覚えがある気がして、ユリウスはギギギと錆びついた音が出そうなほどに凝り固まった首を横へと向けた。
テーブルの横に立っていたのは、濃紺の騎士服を身につけた見上げるほどに背の高い男性だった。窓から射し込む陽の光を受け、騎士らしく短く切り揃えられたダークブラウンの髪が栗色に輝いていた。
胸に右手をあて、軽く伏せられていた頭がゆっくりと上がる。
精悍な顔の輪郭に彫刻のようにくっきりとした目鼻立ち。目尻が少し上がった切れ長の眸は真顔でも眼光鋭く、目が合っただけでぎゅっと体が縮こまる。
見るからにアルファらしいその美丈夫を、ユリウスは以前から知っていた。
739
あなたにおすすめの小説
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった
釦
BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。
にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる