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選定の儀
選定の儀(6)
しおりを挟む第3王弟殿下と聞いて思い出したのは、先ほど控えの間で小耳に挟んだオメガたちの会話だった。
『成人された王族で正妃も妾も迎えておられないのは第3王弟殿下だけらしいけど、あまり期待しないほうがいいわね。第3王弟殿下は毎年、選定の儀に参加されていなくて、オメガ嫌いで有名よ』
確かに、彼女達の噂話通りに、目の前の人が第3王弟殿下なら、選定の儀のとき、この人はいなかった。余っている椅子もなかったから、最初から不参加の予定だったのだろう。
でも、何故、選定の儀で売れ残った自分が、そのオメガ嫌いの第3王弟殿下の下に連れて来られたのだろうか。
緊張で沸騰しそうな頭で、必死に考える。
……もしかして僕は……、ここで、殺されてしまうのだろうか……。
導き出された答えはそれだった。
オメガ嫌いだから、選定の儀で売れ残るような最底辺のオメガは、いっそのこと切り捨ててしまえと、そういうことだろうかと。
家にいると身分の差を感じることはほとんどないが、悲しいかなこの国では、貴族が平民を殺しても、罪に問われることはない。
でも、法で許されているからといって、家族にお別れも言えずに人知れず殺されてしまうのは、あんまりだ。
そんな思いで今にも泣きそうになるのを堪え、床に額を擦りつけていると、頭上から声がした。
「床に這いつくばられては話もできない。さっさとそこに座れ」
「……へ…………?」
反射的に顔を上げた先で、殿下は部屋の中央にあったテーブルセットの椅子に腰を下ろそうとしていた。
「同じことを二度言わせるな。さっさとそこに座れ」
「座れ」というのは、「椅子に座れ」という意味だよな?
でも、テーブルを挟んだ殿下の向かい側にある椅子以外、部屋には他に椅子はない。
ということは、殿下の差し向かいに座れということだろうか……。
いやでも、王弟殿下と平民が向かい合って座るとか、ありえないよな!?
何かの聞き間違いだろうと思って我が耳を疑っていたら、傍らに立っていた侍従が腰を屈め、上から囁いてきた。
「イェーガー様。言われた通りになさってください」
どうやら、問答無用に切り殺されるとか、そういうことではないらしい。
ユリウスは、殿下の顔色を窺いつつ、おっかなびっくり立ち上がり、体を最大限に縮こませて殿下の向かいの席に腰を下ろした。
当然ながら、殿下相手に自分から口を開くわけにもいかず。
目を合わせないように視線を下げて出方を窺っていると、ややあって、正面から声がした。
「俺のところに来る気はあるか?」
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