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第27話 一件落着

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 気絶した稲葉を、また鉤縄でしばって床に転がす。武器や巻物も取り上げたから、今度こそ抜け出すことはできないだろう。

 それから、警察に電話。忍者がどうこうってのは話せないから、ユキちゃんが誘拐されたってことだけを伝えてある。

「もうすぐ警察が来るから、保護してもらってね」

 そう言ったけど、ユキちゃんは、不思議そうにわたしと沖君を見ていた。

「ねえ、あなた達はいったい誰なの?どうしてわたしを助けてくれたの?」
「えっと、それは……」

 頭巾で顔を隠してるから、ユキちゃんはわたし達が誰か知らない。わたし達も、正体は秘密って言う忍者の決まりがあるから、話すことはできなかった。
 でも、それならいったい何て言おうか?

「せ、正義の忍者だよ!」
「正義の忍者?」
「そう。悪い忍者をやっつける正義の味方。それがわたし達だよ!」

 そう言ったとたん、沖くんがなにか言いたそうに、チョンチョンとつついてくる。わたしだってこの言い訳はどうかって思うけど、他に浮かばなかったんだからしかたないでしょ。
 ユキちゃんの質問はまだ続く。

「二人とも、どこかで会ったことない?」

 ギクッ!
 顔をかくしていても気づいちゃう?
 だけどここで、すかさず沖くんが口をはさむ。

「はじめまして」
「えっ? でも、会ったことある気がするんだけど……」
「はじめまして」
「でも……」
「はじめまして!」
「…………えっと、はじめまして」

 すごい。強引になんとかしちゃった。これじゃ沖くんだって、わたしのことあれこれ言えないじゃない。

 するとちょうどそのタイミングで、パトカーのサイレンの音が聞こえてきた。

「わたし達、もう行かなきゃ。お巡りさんには、忍者なんて話しても信じてもらえないだろうから、よくわからない誰かが助けとでも言っといて」
「二人はいっしょじゃないの?」

 少しだけ、心配そうな顔をするユキちゃん。少しの間、一人になるのが心細いみたい。

「忍者は人目につくわけにはいかないからな。オレ達がついていけるのはここまでだ」
「ごめんね。本当は、最後までいっしょにいたかったんだけど」
「そっか……」

 ユキちゃんはまだ少し不安そうだったけど、すぐに笑顔になる。

「それじゃ、ここでお別れだね。二人とも、助けてくれてありがとう」

 そう言って、わたし達の手をギュッと握った。

「こっちこそ、ありがとね。ユキちゃんが来てくれたおかげで助かったよ」

 稲葉に追い詰められた時、ユキちゃんが来てくれなかったら、きっと二人ともやられてた。この三人の誰がいなくても、こうして無事に終わることはできなかった。

 最後にみんなで手を取り合って、わたしと沖君は、こっそり家から出ていく。

「任務成功だな」
「うん。お父さんにも、さっき連絡しておいた」

 任務成功の連絡を受け取ったお父さんは、すごく喜んでた。それに、多分泣いてた。
 ユキちゃんのこともあるから長くは電話できなかったけど、そうじゃなかったら、今も泣きながら話してたかもしれない。

「それじゃあ、帰ろうか」
「そうだな」

 最後の力をふり絞って、わたし達は夜の街を駆け出していた。






 そうして、次の日の朝。
 わたしと沖君は、うちの茶の間でゴロンと寝転がっていた。

「なんだか、全部嘘みたいだね」
「ああ。要が拐われて、お前と一緒に稲葉と戦って、まるで夢でも見てたみたいだ」

 昨日のことを思い出しながら、揃ってため息をつく。
 二人とも、すっかり疲れ切っていた。

 その時だ。玄関の方からガチャガチャと音がしたかと思うと、茶の間の襖が勢いよく開いた。

「真昼、沖君、無事か!」
「お、お父さん!?」

 入ってきたのは、わたしのお父さん。お父さんは息をきらせながら、まっすぐにわたし達を見る。

「大丈夫か? ケガはないか?」
「あっ……う、うん。お父さん、もう帰ってきたの?」

 まさか、こんなに早くお父さんがやってくるとは思わなかった。

「使える手段を全部使って、大急ぎで戻ってきたんだ。それでも、ユキちゃんを助けるには遅すぎるけどね。二人がいなかったら、どうなっていたかわからない」

 そう言ったお父さんは、涙ぐんでいた。
 そして、わたしと沖君を、力いっぱい抱きしめた。

「お父さん!?」
「二人とも、よく頑張った。それに、無事でよかった。本当によかった」

 その時、目の前の景色がぼやけて、自分が泣いているんだって気づく。稲葉と戦った時も、たった今ぶたれた時も出なかった涙が、なぜか今になって出てきた。

 隣を見ると、沖君も泣いてはいなかったけど、その顔はクシャリと歪んでいた。

「そうだ。ねえお父さん。ユキちゃんは、今どうしてるの?」

 ようやく涙が落ち着いたところで聞いてみる。
 ユキちゃんが警察に保護してもらってからどうなったか、まるで知らないんだよね。

「ユキちゃんは、警察の人に何があったか一通り話をして、今は家で休んでる。と言っても、誘拐された前後の記憶は、ショックで曖昧ってことになってるけどね」
「あの時、車の中で眠らされちゃったからね」
「ああ。けど、その方が都合がよかったかもしれない。どうやって誘拐されたか、真昼や沖君がどうしていたか。気になることがたくさんあるだろうけど、眠っていたならごまかしがきく。警察も、この事件の詳しいことは一部の人間にしか知られないよう、忍者協会の力で何とかしてもらう予定だ」

 忍者協会、そんなことまでするんだ。忍者の秘密を守るのも大変だ。

 するとお父さん。そこまで話したところで、なぜか急にスマホを取り出す。

「それと、二人にぜひ見せたいものがある」
「見せたいもの? なにそれ?」

 お父さんは、わたしの質問には答えず、スマホをいじる。
 そしたら、スマホの画面に、動画が映し出された。
 それは、どこかの家の中。ううん。これは、ユキちゃんの家だ。

「実は、うちに帰ってくる前にユキちゃんの家に行ったんだ。本当はすぐに二人のところに来たかったけど、ユキちゃんの無事をこの目で確認するのも、お父さんの任務だったから。それに、二人にこれを知ってほしかったから」

 画面には、ユキちゃんのお父さんが映っていた。
 そしてユキちゃんのお父さんは、ひとつのドアを勢いよく開ける。

 その先にいたのは、坪内さん。それに、ベッドで寝ていたユキちゃんだった。

「お父さん、帰ってきたの?」

 お父さんの姿を見て、目を丸くするユキちゃん。
 そんなユキちゃんをユキちゃんのお父さんは、力いっぱい抱きしめた。

「当たり前じゃないか。怖かっただろう」
「そんな、怖くなんて…………ううん、やっぱり怖かった!」

 最初は強がっていたユキちゃんだけど、とうとうガマンできなくなって、大粒の涙をこぼす。

 まるで、さっきのわたし達と同じような場面。
 ずっとお父さんに会いたがっていたユキちゃんが素直に甘えて、泣きながらも笑っているのを見ると、胸の奥が熱くなってくる。

「ユキちゃんと、ユキちゃんのお父さんがこうしていられるのも、真昼や沖君が頑張ったからだよ。二人は、この笑顔を守ったんだ。二人の報告を聞いてから、ユキちゃんのお父さんは、何度も何度もありがとうって言っていたよ」

 そんなことを言われたものだから、旨のドキドキが、ますます大きくなる。

 ユキちゃんの救出っていう、忍者の任務。
 たくさん怖い思いをしたし、もしかしたら死んじゃうかもって思った。
 だけどやっぱり、やってよかった。ユキちゃんを助けられて、本当によかった。
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