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第25話 絶体絶命!
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変化の術で、自分の姿を変えた稲葉。それは、元の姿が小さく見えるくらいの、大きな熊だった。
「どうだ。これでも解けないか試してみようじゃないか!」
その巨体を大きく揺さぶり、縛っていた縄が、ミシミシと音を立てる。
まずい!
もう一度、四人の分身で一斉に鉤縄を投げようとするけど、その瞬間、本物のわたし以外の分身が、一斉に消滅する。
分身の術の限界がきたんだ。
それと同時に、一気に疲れが押し寄せてくる。
「ははっ! 残念だったな!」
稲葉が勝ち誇ったように笑うと、縛っていた縄の一部が、力任せに引きちぎられる。
まずは腕が解放され、次はその腕を使って、他のところに絡まった縄も、次々と外されていった。
(ど、どうしよう!?)
こうなったら、今のわたしが戦って勝てる相手じゃない。一目散に逃げるべきだ。
だけど、目の前に迫る恐怖が、その判断を遅らせる。それが、致命的だった。
「うぉぉぉっ!」
熊の姿のままの稲葉が、わたしを思いっきり殴り飛ばす。
「ああっ!」
部屋の壁に激突し、床に転がるわたし。
命中する直前、わずかにかわして衝撃を和らげたけど、それでも痛がひどくて、まともに動けなくなる。
そんな私を見て、稲葉はゆかいそうに笑った。
「友達を助けに来たのはいいが、やられるようじゃどうしようもないな」
わたし、どうなっちゃうんだろう。
身動きが取れなくなるような痛みと、目の前に迫る稲葉。それだけで、泣き出しそうなくらいに怖くなる。
それでもなんとか気持ちを落ち着かせよう、考える。ここにいない沖君のことを。そして、ユキちゃんのことを。
(沖君、今ごろユキちゃんといっしょに逃げてるかな?)
多分、稲葉はまだ気づいていない。わたしと一緒にいた、沖君のことを。
わたしとは、別行動をしている沖君。その目的は、ユキちゃんの救出だ。
わたしがこうして稲葉の相手をしている間に、沖君がユキちゃんを助け、家の外に逃がす。それが、わたし達の作戦だった。
それなら、たとえ稲葉を倒せなくても、ユキちゃんを助けることはできる。わたしも、ある程度時間を稼げさえすれば、あとは逃げるつもりだった。
だけど、見事にやられて動けないでいる。
稲葉が巻物を手に取るのを見逃さなかったら。縛った瞬間、すぐに逃げ出したら。
自分のミスを後悔するけど、もう遅い。
(ユキちゃんが逃げたことバレたら、わたしはどうなるんだろう。もしかしたら、殺されちゃうかも)
せっかく落ち着こうと思ったのに、また怖くなってくる。
それが、稲葉には面白くて仕方ないみたいだ。
「ガキが調子に乗るからこんなことになるんだよ。けどな、お前みたいなのがここまでできなんて、忍者ってのはすげえんだな」
そう言うと、稲葉は変化の術の巻物を手に取り、愉快そうにながめる。
「俺だって、こいつのおかげでこんな凄い力を手に入れることができた。使い方次第で、大きな悪事だってはたらける。まったく、忍者様々だぜ」
「────っ!」
なんでだろう。こんな時だってのに、稲葉の言葉に、無性に腹が立った。
忍者のこと、そんな風に言われたのが、我慢できなかった。
「────ちがう」
ポツリと小さく言う。
その声は震えていた。こんなこと言ったら、ますます稲葉を怒らせるかもしれない。それでも、これだけはどうしても言いたかった。
「忍者の力は、あんたなんかが使うためにあるんじゃない!」
お父さんは、犯罪者から人を守るために忍者をやっている。
沖君は、おじいちゃんの忍者道具を守るため、盗られた忍者道を使って、誰かが傷つけられるのを止めるため、忍者になるって決めた。
わたしの知ってる忍者は、みんな誰かのために頑張ってる。
わたしだったそうだ。危ないってわかってて、それでもユキちゃんを助けるため、ここまで来たんだ。
「わたしたち忍者は、あんたみたいなやつから誰かを守るためにいるの。その力を、勝手なことに使わないで!」
わたしは、忍者になる気なんてない。修行だって、お父さんから言われてやってただけ。
それでも今だけは、忍者として、稲葉のことが許せない。
力いっぱい叫んだ、その時だった。
バン!
急に、大きな音をたてて部屋の扉が開く。そして、入ってきた人の姿を見た時、今まで感じていた恐怖も、稲葉への怒りも、全部どこかへ飛んでいってしまった。
「真昼ちゃん!」
「えっ。なんで…………」
そこにいたのは、あれほど逃げてほしいと心から願っていた、ユキちゃんだった。
「どうだ。これでも解けないか試してみようじゃないか!」
その巨体を大きく揺さぶり、縛っていた縄が、ミシミシと音を立てる。
まずい!
もう一度、四人の分身で一斉に鉤縄を投げようとするけど、その瞬間、本物のわたし以外の分身が、一斉に消滅する。
分身の術の限界がきたんだ。
それと同時に、一気に疲れが押し寄せてくる。
「ははっ! 残念だったな!」
稲葉が勝ち誇ったように笑うと、縛っていた縄の一部が、力任せに引きちぎられる。
まずは腕が解放され、次はその腕を使って、他のところに絡まった縄も、次々と外されていった。
(ど、どうしよう!?)
こうなったら、今のわたしが戦って勝てる相手じゃない。一目散に逃げるべきだ。
だけど、目の前に迫る恐怖が、その判断を遅らせる。それが、致命的だった。
「うぉぉぉっ!」
熊の姿のままの稲葉が、わたしを思いっきり殴り飛ばす。
「ああっ!」
部屋の壁に激突し、床に転がるわたし。
命中する直前、わずかにかわして衝撃を和らげたけど、それでも痛がひどくて、まともに動けなくなる。
そんな私を見て、稲葉はゆかいそうに笑った。
「友達を助けに来たのはいいが、やられるようじゃどうしようもないな」
わたし、どうなっちゃうんだろう。
身動きが取れなくなるような痛みと、目の前に迫る稲葉。それだけで、泣き出しそうなくらいに怖くなる。
それでもなんとか気持ちを落ち着かせよう、考える。ここにいない沖君のことを。そして、ユキちゃんのことを。
(沖君、今ごろユキちゃんといっしょに逃げてるかな?)
多分、稲葉はまだ気づいていない。わたしと一緒にいた、沖君のことを。
わたしとは、別行動をしている沖君。その目的は、ユキちゃんの救出だ。
わたしがこうして稲葉の相手をしている間に、沖君がユキちゃんを助け、家の外に逃がす。それが、わたし達の作戦だった。
それなら、たとえ稲葉を倒せなくても、ユキちゃんを助けることはできる。わたしも、ある程度時間を稼げさえすれば、あとは逃げるつもりだった。
だけど、見事にやられて動けないでいる。
稲葉が巻物を手に取るのを見逃さなかったら。縛った瞬間、すぐに逃げ出したら。
自分のミスを後悔するけど、もう遅い。
(ユキちゃんが逃げたことバレたら、わたしはどうなるんだろう。もしかしたら、殺されちゃうかも)
せっかく落ち着こうと思ったのに、また怖くなってくる。
それが、稲葉には面白くて仕方ないみたいだ。
「ガキが調子に乗るからこんなことになるんだよ。けどな、お前みたいなのがここまでできなんて、忍者ってのはすげえんだな」
そう言うと、稲葉は変化の術の巻物を手に取り、愉快そうにながめる。
「俺だって、こいつのおかげでこんな凄い力を手に入れることができた。使い方次第で、大きな悪事だってはたらける。まったく、忍者様々だぜ」
「────っ!」
なんでだろう。こんな時だってのに、稲葉の言葉に、無性に腹が立った。
忍者のこと、そんな風に言われたのが、我慢できなかった。
「────ちがう」
ポツリと小さく言う。
その声は震えていた。こんなこと言ったら、ますます稲葉を怒らせるかもしれない。それでも、これだけはどうしても言いたかった。
「忍者の力は、あんたなんかが使うためにあるんじゃない!」
お父さんは、犯罪者から人を守るために忍者をやっている。
沖君は、おじいちゃんの忍者道具を守るため、盗られた忍者道を使って、誰かが傷つけられるのを止めるため、忍者になるって決めた。
わたしの知ってる忍者は、みんな誰かのために頑張ってる。
わたしだったそうだ。危ないってわかってて、それでもユキちゃんを助けるため、ここまで来たんだ。
「わたしたち忍者は、あんたみたいなやつから誰かを守るためにいるの。その力を、勝手なことに使わないで!」
わたしは、忍者になる気なんてない。修行だって、お父さんから言われてやってただけ。
それでも今だけは、忍者として、稲葉のことが許せない。
力いっぱい叫んだ、その時だった。
バン!
急に、大きな音をたてて部屋の扉が開く。そして、入ってきた人の姿を見た時、今まで感じていた恐怖も、稲葉への怒りも、全部どこかへ飛んでいってしまった。
「真昼ちゃん!」
「えっ。なんで…………」
そこにいたのは、あれほど逃げてほしいと心から願っていた、ユキちゃんだった。
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