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第22話 稲葉の目的
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ユキちゃんが稲葉にさらわれた後、わたしはすぐにお父さんに電話した。
普通なら警察に知らせるべきかもしれないけど、忍法を使うやつにさらわれたなんて、とても言えない。
話を聞いたお父さんはすっごく驚いてたけど、まずはすぐに家に帰って、しっかり鍵をかけること。それから電話して、詳しい話をするようにって言われたの。
言われた通り家に戻って、改めてお父さんに電話する。
「真昼、だいじょうぶか? 沖君も、どこもケガしてないか?」
心配そうなお父さんの声。それを聞いて、今までこらえていた涙がポロポロこぼれてきた。
「ごめんなさい。わたし、ユキちゃんがさらわれたのに、何もできなかった」
「俺も、黙って見てることしかできなかった」
もっとちゃんと、何があったか話さなきゃいけないのに、うまく言葉が出てこない。
沖君も泣いてはいなかったけど、その声は苦しそう。
それでもわたし達は、稲葉が坪内さんに化けていたこと、最初からユキちゃんが狙いだって言ってたこと、全部を一つ一つ話した。
「二人とも、怖い思いをしたね。けど、これだけは言っておくよ。悪いのは稲葉だ。二人が自分を責める必要なんて何もない」
「お父さん……」
それを聞いて、ほんの少しだけ心が落ち着く。
けどいくら悪くないって言われても、目の前でさらわれた悔しさはなくならない。それに、お父さんには聞きたいことがあった。
「稲葉って、忍者協会を攻撃しようとしてたんじゃないの?」
なのに稲葉は、ユキちゃんが狙いだって言ってた。どういうことだか、わけわかんない。
「真昼。少し電話を変わってもいいかい?」
「えっ? うん……」
ここで電話を変わるなんて、相手はいったい誰だろう。不思議に思ってると、電話の向こうから、お父さんとは違う男の人の声がした。
「真昼ちゃんだね。小雪のために悲しい思いをさせてごめんよ」
「あの、あなたは……?」
ユキちゃんのこと、小雪ってちゃんとした名前で呼んでるけど、この人は誰?
そしたら、またお父さんの声がする。
「声だけじゃわからないか。この人はね、ユキちゃんのお父さんだよ」
「えっ!?」
ユキちゃんのお父さん!?
言われてみると、確かにこんな声だったような気がする。
でも、なんで二人が一緒にいるの!?
「稲葉が、ある会社にを嗅ぎ回ってるって話はしたよね」
「うん。確か、社長さんが忍者協会の関係者だったよね」
忍者協会のことはよく知らないけど、確か、大きな会社の人や政治家の人たちが入ってるんだっけ。
って、ちょっと待って!
「じゃあ、ユキちゃんのお父さんも、忍者協会の関係なの!?」
「実はそうなんだよ。けどね、親同士が仕事でつながっていると、子ども達がそれを気にすることもある。真昼やユキちゃんにはそんな窮屈な思いはさせたくないから、今まで思ってたんだ」
「そうなんだ……」
じゃあユキちゃんのお父さん、うちが忍者一家だって知ってたんだ。すっごい衝撃の事実だけど、今はそれよりも、もっともっと大事なことがある。
「どうして稲葉は、ユキちゃんをさらったりしたの?」
すると、それに答えたのはユキちゃんのお父さんだった。
「それは多分、わたしのせいだろうね」
「おじさんの?」
「ああ。世の中には、君のお父さんのような良い忍者だけでなく、その力を悪事に使う悪い忍者がいる。忍者協会の役目のひとつに、そんなやつらの捜査や逮捕があって、わたしはそのための支援をしているんだが、そのせいで私を恨む者も多くてね。今までにも、嫌がらせや攻撃を受けたことはなんどかあるんだ」
「そんなの、逆恨みじゃないですか!」
「その通り。けど世の中には、そんな理屈の通じないやつもいる。恐らく稲葉は、そんなやつらから、忍者道具をもらうかわりに私への攻撃を頼まれたのだろう。それを察して真昼ちゃんのお父さんに守ってもらうことにして、念の為、小雪を巻き込まないよう、日本に帰るのをやめたんだ。なのに、こんなことになるとは」
ユキちゃんのお父さんの声は震えてた。
急に帰って来れなくなったのには、そんな理由があったんだ。
「少し前から、稲葉がこっちに来ているかもしれないって情報が入ってたんだけど、それは全部罠だったんだろうな。君のお父さんは優秀だからね。稲葉の狙いは最初から小雪で、少しでも遠ざけておきたかったんだろう」
「そんな……」
じゃあユキちゃんは、そんな勝手な理由でお父さんに会えなくなって、さらわれたって言うの?
改めて、稲葉に怒りが湧いてくる。
「お父さん、お願い。稲葉を捕まえて」
「もちろんだよ。準備ができたら、すぐに日本に戻るから」
よかった。お父さんなら、きっとなんとかできるよね。
そう思ったけど、日本に戻るっていうのが気になった。
そういえばユキちゃんのお父さん、外国にいるんだって。もちろん、お父さんだっているのは外国だよね
「海外からだと、帰ってくるのに時間かかるよね?」
「そうなるな。きっと稲葉も、そこまで考えて仕掛けてきたんだろう」
それじゃ、すぐにユキちゃんを助けに行けるってわけじゃないんだ。
「ねえ、わたしに何かできることない?お父さんが戻って来るまでの間に、色々調べたりできるかも」
ユキちゃんが危ない目にあっているかもしれないのに、じっとしているなんてできない。
するとそこで沖君が、びっくりすることを言い出した。
「あの。実は、稲葉が今どこにいるか、わかるかもしれないんです」
「えぇっ!」
それってつまり、ユキちゃんもいるってことだよね。凄い情報なんじゃないの?
「どうしてそんなの分かるの!?」
「さっき稲葉の車から出る時、発信器をつけておいたんだ」
発信機。今どきの忍者に必須のハイテク機器で、前にわたしも修行中につけられたやつだ。
沖君は、スマホを取り出すと、地図アプリを表示させる。その中に一ヶ所、赤く光る点が表示されていた。
沖君、すごい!
「すごいじゃないか。沖君、お手柄だ!」
これには、お父さんも驚く。
だけど褒められてるのに、なぜか沖君は、浮かない顔をしていた。
「けど、いくら居場所がわかっても、師匠はすぐには来れないんですよね? 稲葉だってバカじゃないだろうし、この発信機だって、いつ気づかれるかわからない」
そうだ。お父さんが来れないんじゃ、すぐに捕まえることなんてできないんだ。
「沖君の言う通りだ。どんなに急いでも、僕がそっちに行くのは、明日になるだろう。それまでに稲葉がどう動くかはわからない」
「じゃあ、他の忍者を呼ぶことはできますか?」
「それもできない。今忍者の数はとても少なくて、すぐに動ける者がほとんどいないんだ」
そんな。それじゃあ、せっかくユキちゃんがどこにいるかわかったのに、どうすることもできないの?
握った手が、プルプルと震える。何もできないのが心の底から悔しかった。
そして気がつくと、こうを言っていた。
「なら、わたしが行く! わたしが、ユキちゃんを助けに行く!」
普通なら警察に知らせるべきかもしれないけど、忍法を使うやつにさらわれたなんて、とても言えない。
話を聞いたお父さんはすっごく驚いてたけど、まずはすぐに家に帰って、しっかり鍵をかけること。それから電話して、詳しい話をするようにって言われたの。
言われた通り家に戻って、改めてお父さんに電話する。
「真昼、だいじょうぶか? 沖君も、どこもケガしてないか?」
心配そうなお父さんの声。それを聞いて、今までこらえていた涙がポロポロこぼれてきた。
「ごめんなさい。わたし、ユキちゃんがさらわれたのに、何もできなかった」
「俺も、黙って見てることしかできなかった」
もっとちゃんと、何があったか話さなきゃいけないのに、うまく言葉が出てこない。
沖君も泣いてはいなかったけど、その声は苦しそう。
それでもわたし達は、稲葉が坪内さんに化けていたこと、最初からユキちゃんが狙いだって言ってたこと、全部を一つ一つ話した。
「二人とも、怖い思いをしたね。けど、これだけは言っておくよ。悪いのは稲葉だ。二人が自分を責める必要なんて何もない」
「お父さん……」
それを聞いて、ほんの少しだけ心が落ち着く。
けどいくら悪くないって言われても、目の前でさらわれた悔しさはなくならない。それに、お父さんには聞きたいことがあった。
「稲葉って、忍者協会を攻撃しようとしてたんじゃないの?」
なのに稲葉は、ユキちゃんが狙いだって言ってた。どういうことだか、わけわかんない。
「真昼。少し電話を変わってもいいかい?」
「えっ? うん……」
ここで電話を変わるなんて、相手はいったい誰だろう。不思議に思ってると、電話の向こうから、お父さんとは違う男の人の声がした。
「真昼ちゃんだね。小雪のために悲しい思いをさせてごめんよ」
「あの、あなたは……?」
ユキちゃんのこと、小雪ってちゃんとした名前で呼んでるけど、この人は誰?
そしたら、またお父さんの声がする。
「声だけじゃわからないか。この人はね、ユキちゃんのお父さんだよ」
「えっ!?」
ユキちゃんのお父さん!?
言われてみると、確かにこんな声だったような気がする。
でも、なんで二人が一緒にいるの!?
「稲葉が、ある会社にを嗅ぎ回ってるって話はしたよね」
「うん。確か、社長さんが忍者協会の関係者だったよね」
忍者協会のことはよく知らないけど、確か、大きな会社の人や政治家の人たちが入ってるんだっけ。
って、ちょっと待って!
「じゃあ、ユキちゃんのお父さんも、忍者協会の関係なの!?」
「実はそうなんだよ。けどね、親同士が仕事でつながっていると、子ども達がそれを気にすることもある。真昼やユキちゃんにはそんな窮屈な思いはさせたくないから、今まで思ってたんだ」
「そうなんだ……」
じゃあユキちゃんのお父さん、うちが忍者一家だって知ってたんだ。すっごい衝撃の事実だけど、今はそれよりも、もっともっと大事なことがある。
「どうして稲葉は、ユキちゃんをさらったりしたの?」
すると、それに答えたのはユキちゃんのお父さんだった。
「それは多分、わたしのせいだろうね」
「おじさんの?」
「ああ。世の中には、君のお父さんのような良い忍者だけでなく、その力を悪事に使う悪い忍者がいる。忍者協会の役目のひとつに、そんなやつらの捜査や逮捕があって、わたしはそのための支援をしているんだが、そのせいで私を恨む者も多くてね。今までにも、嫌がらせや攻撃を受けたことはなんどかあるんだ」
「そんなの、逆恨みじゃないですか!」
「その通り。けど世の中には、そんな理屈の通じないやつもいる。恐らく稲葉は、そんなやつらから、忍者道具をもらうかわりに私への攻撃を頼まれたのだろう。それを察して真昼ちゃんのお父さんに守ってもらうことにして、念の為、小雪を巻き込まないよう、日本に帰るのをやめたんだ。なのに、こんなことになるとは」
ユキちゃんのお父さんの声は震えてた。
急に帰って来れなくなったのには、そんな理由があったんだ。
「少し前から、稲葉がこっちに来ているかもしれないって情報が入ってたんだけど、それは全部罠だったんだろうな。君のお父さんは優秀だからね。稲葉の狙いは最初から小雪で、少しでも遠ざけておきたかったんだろう」
「そんな……」
じゃあユキちゃんは、そんな勝手な理由でお父さんに会えなくなって、さらわれたって言うの?
改めて、稲葉に怒りが湧いてくる。
「お父さん、お願い。稲葉を捕まえて」
「もちろんだよ。準備ができたら、すぐに日本に戻るから」
よかった。お父さんなら、きっとなんとかできるよね。
そう思ったけど、日本に戻るっていうのが気になった。
そういえばユキちゃんのお父さん、外国にいるんだって。もちろん、お父さんだっているのは外国だよね
「海外からだと、帰ってくるのに時間かかるよね?」
「そうなるな。きっと稲葉も、そこまで考えて仕掛けてきたんだろう」
それじゃ、すぐにユキちゃんを助けに行けるってわけじゃないんだ。
「ねえ、わたしに何かできることない?お父さんが戻って来るまでの間に、色々調べたりできるかも」
ユキちゃんが危ない目にあっているかもしれないのに、じっとしているなんてできない。
するとそこで沖君が、びっくりすることを言い出した。
「あの。実は、稲葉が今どこにいるか、わかるかもしれないんです」
「えぇっ!」
それってつまり、ユキちゃんもいるってことだよね。凄い情報なんじゃないの?
「どうしてそんなの分かるの!?」
「さっき稲葉の車から出る時、発信器をつけておいたんだ」
発信機。今どきの忍者に必須のハイテク機器で、前にわたしも修行中につけられたやつだ。
沖君は、スマホを取り出すと、地図アプリを表示させる。その中に一ヶ所、赤く光る点が表示されていた。
沖君、すごい!
「すごいじゃないか。沖君、お手柄だ!」
これには、お父さんも驚く。
だけど褒められてるのに、なぜか沖君は、浮かない顔をしていた。
「けど、いくら居場所がわかっても、師匠はすぐには来れないんですよね? 稲葉だってバカじゃないだろうし、この発信機だって、いつ気づかれるかわからない」
そうだ。お父さんが来れないんじゃ、すぐに捕まえることなんてできないんだ。
「沖君の言う通りだ。どんなに急いでも、僕がそっちに行くのは、明日になるだろう。それまでに稲葉がどう動くかはわからない」
「じゃあ、他の忍者を呼ぶことはできますか?」
「それもできない。今忍者の数はとても少なくて、すぐに動ける者がほとんどいないんだ」
そんな。それじゃあ、せっかくユキちゃんがどこにいるかわかったのに、どうすることもできないの?
握った手が、プルプルと震える。何もできないのが心の底から悔しかった。
そして気がつくと、こうを言っていた。
「なら、わたしが行く! わたしが、ユキちゃんを助けに行く!」
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