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第16話 お泊まり会

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「ユキちゃん、沖君、いらっしゃい」

 わが家の居間で、二人に挨拶する。

「真昼ちゃん。誘ってくれてありがとう」
「ううん。ユキちゃんこそ、来てくれてありがとね」
 
 急遽、お父さんが帰ってこれなくなったユキちゃん。
 仕方ないって言ってたけど、本当は寂しがってるよね。

 なんとか元気にしてあげたいって考えて、思いついたのが、このお泊まり会。たくさん遊べば、少しは気持ちも晴れるかなって思ったの。

 ユキちゃんは最初すごくビックリしてたけど、すぐに頷くと、一度家に帰って準備をしてから来てくれたんだ。

「なあ。俺も来てよかったのか? お前と要の、二人だけの方が楽しいんじゃないか?」

 沖くんが、わたしにだけ聞こえるように、そっと囁く。

「たくさんいた方が、ユキちゃんの気も紛れるかなって思って。もしかして、迷惑だった? ユキちゃんの前だと、いつもの修行もできないよね」

 お父さんがいない間も、沖くんはうちに来て修行をする予定だったけど、ユキちゃんがいるんじゃ無理っぽい。
 それは、沖くんにとって嫌かも。

「いや。お前と要のジャマにならないならそれでいい。さっきの要を見て、放っておくのも嫌だからな」

 沖くんも、ユキちゃんのことが心配だったみたい。
 そのユキちゃんはというと、持ってきた荷物の中から、ひとつの箱を取り出した。

「ケーキ持ってきたけど、みんなで食べない?」
「ほんと。ありがとう!」

 どこかお店で買ってきたのかなって思ったけど、よく見ると手作りっぽい。
 多分これも、帰ってくるお父さんのために焼いたんだろうな。けどわざわざそれを言うと空気が重くなりそうだから、黙っておくことにした。

 ケーキは晩御飯の後みんなで食べて、すごく美味しかったけど、だからなおさら、ユキちゃんのお父さんにも食べさせてあげたいって思った。

 それからは、みんなでゲーム。可愛いキャラクターを操って、競走したりパズルを解いたりしながら順位を決めるやつで、わたしとユキちゃんがゲームする時は、たいていこれ。
 けど沖君がやるのは初めてで、ほとんどビリになっていた。

「くそっ、また負けた!」
「初めてなんだし、仕方ないよ」
「も、もう一回だ!」

 実は沖くん、最初はゲームには興味ないって言ってたけど、すっかり夢中になってる。
 わたしもユキちゃんもそれがおかしくて、二人とも声をあげて笑った。

 こうしているうちに、ユキちゃんの寂しさも、少しは紛れてくれたらいいんだけどな。

 その夜、ふと目を覚ますと、隣でユキちゃんがスヤスヤと寝息をたてていた。
 ゲームではしゃぎすぎて疲れがたまったのか、ちょっとやそっとじゃ起きそうにない。

 時計を見ると、午前0時。わたしもまた寝ようと思ったけど、喉が乾いてたから、そっと部屋から抜け出して、台所に行って水を飲む。

 それからまた部屋に戻ろうとすると、廊下で小さな物音が聞こえる。見ると、沖君がトイレから出てきてた。

「沖君、こんな時間に起きてきたんだ」
「お前もな」

 沖君は、お父さんの部屋で寝てるの。
 最初、わたしとユキちゃんの隣に布団を並べようと思ったんだけど、沖君が断固別の部屋にするって言い張ったの。

「要はどうしてる?」
「寝てるよ。ちょっと疲れたのかも」

 さっきゲームやってた時、一番はしゃいでたのがユキちゃんだった。普段はちょっぴり大人しいから、そういうのは珍しい。

 それだけ楽しかったのならいいけど、多分理由はそれだけじゃないよね。

「お父さんのこと、大丈夫そうか?」
「うーん。平気だとは言ってるんだけどね」

 けどずっと仲のよかったわたしには、やっぱりどこか無理してるってわかっちゃう。

「俺、今は父さんや母さんとは離れてるけど、要はもっと小さくころからなんだろ」
「うん。それでも今くらいには、毎年お父さんも帰ってきてたんだけどね」
「今年はそれも無理になったか。少しだけでも会えたらいいんだけどな」

 揃って悩むわたし達。けど、こればっかりはどうしようもないのかな。

「忍法でもつかって、ユキちゃんのお父さんをパッと瞬間移動できたらいいのに」
「そんな忍法聞いたこともないぞ。だいたい俺たちが使える忍者って、お前の霧隠れと分身。それに、俺の変化の術だけだろ」
「だよね」

 やっぱりダメか。
 けどそう思ったその時、沖君は何か考えるように、大きくうーんとうなった。

「どうしたの?」
「ちょっと思ったんだ。要の父さんが帰ってこれないなら、俺が変化の術で要の父さんに化けて、帰ってきたふりをすればいいんじゃないかってな」
「へっ?」

 沖君が、ユキちゃんのお父さんに化ける?
 それだ! 変化の術なら、何にだって化けられる!

「そうだよ。そうすれば、ユキちゃんをお父さんに会わせてあげられる!」
「バカ、大声だすな。要に聞こえるだろ」

 わたしの口をふさぐ沖君。危ない危ない。
 それに、沖君は言ってみたものの、あまり乗り気じゃないみたい。

「自分で言っといてなんだけど、この方法は無理がある。俺が要の父さんに化けたとしても、その後本物と話したらどうする」
「それは……」
「絶対変に思われるし、下手すると、俺が忍者ってこともバレるかもしれない」
「そ、それは……ダメだよね」

 せっかく会えたお父さんが偽物だったってわかったらショックだろうし、沖君が忍者だってバレたら、どうなることか。

「この話は忘れてくれ」

 そう言って、ため息をつく沖君。
 
 けど、本当に諦めていいのかな?
 確かに偽物だってバレたら大変だけど、だからってすぐに諦めるのは、なんだかもったいない気がした。

「ねえ。もう少しだけ、何とかできないか考えてみない? 二人で考えれば、いい方法が思いつくかもしれないよ」

 ユキちゃんを元気にしたい。けどこの作戦は沖君がいなきゃできないし、考えるなら一人より二人の方がずっといい。

「そうだな。俺も、こんなんで終わっちゃスッキリしないし、もう少しだけ考えてみるか」

 やった!
 よーし。そうと決まれば、作戦会議開始だ。
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