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第14話 お仕事に行くお父さん

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 沖くんがやって来てから、しばらく。一緒に修行するのは、これで何度目だろう。
 今日の修行は、最初にやった時と同じような、直接対決。手裏剣に鉤縄、忍法を使っての攻防戦を繰り返し、今は二人とも刀をぶつけ押しあう。
 その途中、沖くんがわたしの足を引っかけ、転ばせた。

「うわっ!」

 声をあげ、床に転がるわたし。受身をとったから痛くはないけど、この隙を見逃す沖くんじゃなく、一気に勝負を決めようと、刀を振り上げる。
 だけど、わたしだって負けないんだから!

 ちょうど転んだところに、さっきまで使っていた鉤縄が転がっていた。
 とっさにそれを掴むと、沖くんに向かって投げつける。

「なにっ!?」

 鉤縄が沖くんの体に巻きつき、動きを封じる。そこに、ピタリと刀を突き立てた。
 それを見て、お父さんの声が飛ぶ。

「それまで!」

 これで、この勝負は終わり。沖くんとは勝ったり負けたりを繰り返してるけど、今日はわたしの勝ちだね。
 と思ったら……

「この勝負、引き分け!」
「えぇっ! なんで!?」

 これ、どう見てもわたしの勝ちじゃない!

「真昼、背中を見てごらん」
「背中? ──あっ、何これ!?」

 お父さんに言われて、背中を見ると、そこには豆粒くらいの大きさの、小さなチップがくっついていた。

「発信機だ。戦いの途中、こっそりつけておいた」
「忍者の役目は、相手を倒すこととは限らないからな。例え戦いで勝てなくても、真昼がこのまま発信機に気づかなければ、家の場所や移動先といった、色んな情報を盗めるようになるかもしれない。戦う時はそういうのにも注意するようにって、この前いったよな」
「そりゃそうだけどさ……」

 わたし、機械は苦手だから、こういうのはどうしても沖くんの方が上なんだよね。

「でも、戦いでは今日はわたしの方が勝ってたもんね」
「まあな。お前、鉤縄の使い方うまいな」

 最後動きを封じられたのは、沖くんも悔しそう。
 実は鉤縄を使った捕縛術は、得意技なんだよね。

「二人とも、競い合って腕を磨いて、大いにけっこう。この調子で、切磋琢磨し合うんだよ」

 お父さんがそう言って、今朝の修行はこれでおしまい。
 それから沖くんも一緒に、三人で朝ごはんを食べたんだけど、その途中お父さんが言う。

「そうそう。実はこれからしばらく、僕の忍者の仕事が忙しくなるんだ。泊まりがけでの任務になるから、その間家には帰って来れなくなる」
「えっ、そうなの?」

 ずいぶんと突然な話。
 お父さんの仕事が急に忙しくなることは今までにも何度かあったけど、ここまでいきなりなのは初めてかも。

「そこでだ。沖くん、僕がいない間、うちに泊まって、真昼についてやってくれないか」
「えっ。わたしひとりで大丈夫だよ」

 今までお父さんが泊まりがけの仕事に行く時は、親戚のうちに預けられることが多かったけど、もう一人で留守番くらい平気だよ。

「沖くんだって、ひとりで暮らしてるんだよ。お父さんがいないから泊まりに来てなんて言ったら、笑われちゃうよ」
「そ、そうかい」

 今だって、笑ってるんじゃないの?
 そう思って沖くんを見たけど、沖くんは別のことが気になったみたい。

「忙しいって、何かあったんですか? あっ、そういうの、聞いちゃダメですよね」

 忍者の仕事は基本的に秘密で、家族や弟子でも、そう簡単には話せないんだよね。
 だけど、今日のお父さんはちょっとだけ違った。

「うーん。沖くんには、少し話した方がいいかもしれないな」
「俺に?」
「ああ。前に、君の家から盗まれた忍者道具。その行方の一部がわかったかもしれないんだ」
「えっ!?」

 思わず声をあげる沖くん。もちろん、わたしだって驚いた。

「どこにあるんですか!?」
「正直に言うと、場所はまだわからない。ただ、持っていそうな人物がわかってきたんだ」
「誰なんですか?」

 沖くんにはいつになく声をあげるけど忍者道具はおじいちゃんの形見なんだから、気になるのも当然だよね。
 お父さんは、どこまで話せばいいか考えてるみたいだったけど、それからまた、少しずつ話し始める。

「仲間の忍者が調べた結果、浮かんできた人物の名は、稲葉十蔵。一言で言うと、犯罪者だ」
「犯罪者……」
「稲葉自身は忍者ではないんだけど、沖くんの家に忍び込んだ奴らと繋がりがあって、忍者道具のいくつかを譲り受けたらしい。それを使って、盗みや誘拐、脅迫を繰り返しているようなんだ。忍者の力をそんな風に悪用したらいかに危険かは、わかるよね」
「はい。じいちゃんの残したものが、そんなのに使われるなんて……」

 沖くんが、悔しそうに手を握る。
 わたしも、今の話を聞いて、嫌な気持ちになっていく。
 わたしたちが修行してる忍者の技や力をそんなことに使われるなんて、すごく嫌だ。

 するとお父さんは、そんなわたし達を安心させるように、明るく話す。

「大丈夫だよ。稲葉のやつ、今度はある会社のことを鍵回ってるみたいだけど、実はそこの社長さんは、忍者協会の関係者なんだ。だからすぐに協会に連絡が来て、僕や他の忍者が、その稲葉ってやつを捕まえるために動いてる」
「本当?」

 そういえば忍者協会には、忍者以外にも一般の人の協力者が何人もいるって言ってたっけ。

「けど師匠。わざわざそんな人を狙ったのって、偶然なんですか? 忍者の関係者だって、知っててやったんじゃ?」
「もちろん、その可能性もある。忍者協会そのものにダメージを与えるのが目的かもしれないからね。それを含めて、しっかり捜査するつもりだよ」

 大丈夫かな?
 ちょっと心配だけど、さすがにこれは、修行中のわたし達じゃどうすることもできないよね。

「お父さん、気をつけてね」
「ああ。まかせなさい」

 そうして、お父さんは仕事に、わたしたちは学校に行く。
 わたしは忍者になるつもりはないけど、こんな時何もできないのは、ちょっとだけ残念だった。
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