妖怪が見えるボッチな私の初めての友達は妖怪でした。

無月兄

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最終話 エピローグ

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 学校に入る前、一度スマホを開いて、メッセージをチェックする。
 イチフサからのメッセージはゼロだった。

「まだまだ忙しいみたいね」

 人吉くんやお煎餅と一緒に妖怪の里に行き、イチフサが何をしようとしているのか聞いたのが、今から数日前。
 それからは、またイチフサからスマホにメッセージが届くようになったけど、その数は以前と比べると、目に見えて減っていた。

 って言っても、それは仕方ないこと。
 なんて思っていると、後ろから声をかけられる。

「よう、錦。何してるんだ」
「あっ、人吉くん。イチフサから連絡ないか見てたのよ。ひとつも来てなかったけどね」
「そうか。まあ、向こうは相当忙しくなってるらしいからな」

 妖怪の里は、これから人間との交流を考え動き出すけど、そのためイチフサは、これからすっごく忙しくなるそうだ。前みたいにしょっちゅう連絡することはできなくなるかもって言っていた。

 寂しくない、なんてことはない。だけど我慢はできる。少なくとも、前みたいにいきなり一切の連絡がなくなるよりは、はるかにマシだ。

「大変って言ったら、祓い屋協会の方はどうなの? 妖怪達ともっともっと交流するってことになるなら、そっちも大変になるんじゃない?」
「ああ。上の方はバタバタしてるみたいだし、場合によってはトラブルが起きるかもしれないから、今まで以上に鍛えておけって爺ちゃんから言われたよ」

 人吉くんも人吉くんで苦労してるみたいだ。
 私の知らないところで、色んなものが大きく動いている。その中心にいるのがイチフサだって思うと、なんだか不思議だ。

 すると、またもや私達に声をかけてきたのが一人。
 湯前さんだ。

「瞬。それに錦さんも、二人でなに話してるの?」
「えっ? えっと……」

 どうしよう。湯前さんは妖怪の事情なんて知らないし、正直に話すわけにはいかないわよね。

 こんな時、とっさにごまかすことができたらいいんだけど、相変わらず対人スキルの低い私には難しい。
 人吉くん、かわりに何か言ってくれない?

 するとそんな思いが通じたのか、あわあわやってる私を押しのけ、人吉くんが言う。

「こいつの彼氏の話。最近なかなか連絡がとれないんだってさ」

 ふぁっ!?
 人吉くん。いったい何言ってるのよ! ごまかすにしても、もっとマシなやり方があるでしょ!

「えっ。錦さんって、彼氏いるの?」
「い、いないから!」

 ほら。湯前さん、誤解しそうになってるじゃない。どうしてくれるのよ!

「違うのか? てっきり付き合ってるんだと思ってたんだが」
「ちがーう! 何をどうしたらそんな風に見えるのよ!」

 まさか、本当にそう思ってたの?

 ちなみにこれ、ごまかしとしても相当に失敗だった。
 一般的に、女の子ってのは恋の話が好きなもの。湯前さんも例外じゃなくて、その場を離れて教室に行ってもなお、色々質問攻めにあってしまった。
 私としては逃げ出したくなるような話題だけど、誤解されたままってのも居心地が悪い。

「だから、彼氏なんていないから!」

 そう叫んだところで、ホームルームを告げるチャイムが鳴る。
 湯前さんも自分の席に戻って行ったけど、彼氏なんていないってこと、さすがにわかってくれたわよね。
 まだ授業も始まってないってのに、なんだかすっごく疲れた気がする。

 机の上にうつ伏せていると、教室の扉が開いて、先生が入ってくる。なんてことのない、いつもの風景──そのはずだったんだけど、直後、私はとんでもないものを見た。

 先生のすぐ後に、制服を一人の男子が入ってくる。その顔を見たとたん、私は声をあげそうになる。

(い、イチフサ!?)

 一瞬、見間違えかと思ったけど、そんなはずない。教室に入ってきたのは、間違いなくイチフサ本人だった。

 なんでイチフサが学校にいるのよ!
 あまりの出来事に呆然とするけど、さらにそこから、先生が信じられないことを言った。

「急な話だが、うちのクラスに転校してきた、木上イチフサだ」

 て、転校!? 転校ってどういうことよ! 木上って、アンタ苗字なんてあったの? って言うか、先生イチフサのこと見えてる?

 ううん。先生だけじゃなく、教室のみんなも、妖怪であるイチフサのことを、当たり前のように認識できていた。
 妖怪の姿は、普通の人間には見えないはずなのに。

 そんな中、私以外にもう一人、信じられないような顔でイチフサを見ている生徒がいた。人吉くんだ。
 そりゃ、驚くわよね。同じ思いを共有する仲間として、なんだか親近感がわいてくる。
 ──なんて言ってる場合じゃない。

 再びイチフサに目をやると、向こうも私を見ていたみたいで、バッチリ目が合う。するとそのとたん、イチフサはニコッと笑った。
 あっ、なんだか嫌な予感。

「結衣、同じクラスだね!」

 嬉しそうに笑いながら、手を振って話しかけてくるイチフサ。
 ちょっと。なにいきなり名前呼んでるのよ!

 思わずその口をふさいでやりたくなるけど、もう遅い。教室中の視線が、突き刺さるように私に降り注ぐ。

 ちょっと、何してくれてるのよーっ!



 ◆◇◆◇◆◇




「いったい、何がどうなってるのよ!」

 人気のない校舎裏。私はイチフサの襟首を掴んで締め上げていた。

 転校生が来た後は、クラスの子達による質問タイムってのが定番だろうけど、そうなる前に、即声をかけ、ここまで連れてきた。

「い、痛い痛い。首が絞まる。慌てなくても話すから、落ち着いて」

 落ち着けるわけないでしょ! それでも一応手を離すと、イチフサはわざとらしく咳き込んだ後、話し始める。

「人間との交流計画の一つだよ。まだまだ俺達は、少しずつ知っていく段階だからね。試しに、一人がしばらくの間、人間として生活してみようってなったんだ」
「それが、アンタってわけ?」
「そう。元々この計画の発案者は俺だからね。自分で言い出した以上、責任はとらないと。転校の手続きとかは、祓い屋の権力と一部の妖怪の妖術でなんとかしたよ。あっ、木上って苗字は、この辺の地名から適当にとったものだから」

 苗字はともかく、なんか後半、サラッとヤバそうなこと言ってるんだけど。大丈夫なの?
 よし。この件は、これ以上聞くのはやめておこう。
 そのかわり、聞きたいことは他にもある。

「どうしてみんなにもアンタの姿が見えてるのよ」
「それは、これのおかげだよ」

 そぅ言ったところで、イチフサは左手を突き出す。そこには、前にイチフサが私に作ってくれたのと似た、腕輪が一つ巻かれていた。

「言っただろ。祓い屋には、普通の人間にも妖怪が見えるようにする術があるって。それがこれさ。この腕輪を巻いていると、俺の姿が人間にも見えるようになるんだ。ただ、巻いてるだけでかなり力を吸い取られるから、力の弱い妖怪はまともに使うこともできないけどね」
「じゃあ、アンタも今、力が吸い取られてるのよね。大丈夫なの?」
「羽を生やして飛んだり、強い風を起こしたりするのは難しいかな。体の動きも、普通の人間並ってとこだと思う。けどこれも、祓い屋の人達がもっと使いやすいように研究を始めるって言ってたよ。俺がこうしてここに来たのは、この腕輪のモニターの役目もあるんだよね。なんたって計画の発案者だから、やることも多くて大変だよ」

 さっきからやたらと、発案者だの責任だのを強調するイチフサ。
 確かに、大変なのも確かかもしれない。だけど私は、それを言葉通り受け取ることはできなかった。

「で、本音はどうなの? 責任だのなんだの、アンタはそんなんで頑張るようなやつじゃないでしょ」
「さすが結衣、俺のことわかってる。計画の今後について話し合ってる時、これならうまいこと理由をつけて、結衣と同じ学校に通えるかもって」
「やっぱりそんな理由かい!」

 まあ、予想はついていたけどね。
 それに、それをいい加減とも思わない。そういうことに真剣になれるからこそ、こんな大それた計画を立てるんだってことくらい、私にだってわかるから。

「と言うわけで、今日から晴れて、結衣と同級生だから」

 嬉しそうに、ニコニコと微笑むイチフサ。
 逆に、私はなんだか憂鬱よ。イチフサと一緒の学校生活なんて、絶対振り回されるに決まってるじゃない。この後だって、転校生にいきなり名前を呼ばれた挙句に二人していなくなったってことで、私まで質問攻めにあうの確定じゃない。

 なのに、イチフサは呑気に言ってくる。

「どお、結衣。嬉しい?」

 まったくコイツは。
 私の気持ちなんて知る由もないイチフサに向かって、はーっと大きくため息をついてから、言い放つ。

「教えない」
「えぇーっ!」

 イチフサは不満そうに声をあげるけど、こればかりは絶対に言ってやるもんか。
 イチフサと一緒にいられて嬉しいとか、学校が楽しくなりそうとか、そんなの、恥ずかしくて言えるわけないじゃない。だから、絶対に秘密。

 そうは思いながらも、思わず笑いが込み上げてくるのだけは、どうにも止めるのが難しかった。


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