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第25話 責任重大
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とにかくこれで、イチフサが何をやろうとしているかはわかった。
ただ、それならそれで、一つ気になるというか、納得できないことがある。
それを確かめるため、私は鹿王に向かって言う。
「あなた、さっき私に、イチフサには関わるなって言いましよね。それに、私を殺そうとした。どういうつもりなんです?」
投げ飛ばされ、脅しつけられたことを思い出す。
今の鹿王には、その時見せた威圧的な雰囲気はなくなっているけど、思い出すとまた怖くなってくる。
「それは俺も聞きたかった。鹿王、どういうつもりで結衣に手を出そうとした?」
イチフサも、さっきまでとはうって変わって、鋭い目で睨みつける。
だけど私は、不思議だった。
もし本当にあそこで私に何かあったら、どうなっていか。鹿王は、例え死んでも隠す方法はあるなんて言ってたけど、イチフサの話を聞いた今、そこまでする必要はないんじないかって思ってくる。
すると、鹿王は実にあっさりと言い放った。
「ああ、あのことね。あれ、演技だから」
「はっ?」
え……演技? さっきのあれ、全部演技だったって言うの!?
もちろん、こんなこと言われても、すんなり受け入れられるわけがない。
それは私以外の面々も同じで、まずは人吉くんが険しい顔で問い質す。
「本当か? 出まかせ言ってるんじゃないだろうな」
「心外だな。僕が本気で人殺しなんてするようなやつに見えるかい?」
「初対面のあんたのことなんて知らねーよ!」
こっちは真剣に聞いてるってのに、この態度。なんだか頭が痛くなってくる。
「だいたい、考えてもみなよ。里にはこうして祓い屋のお偉いさんが来てるんだ。わざわざそんな時に荒事なんて起こさないよ。君だって、おかしいと思ったから聞いてきたんだろ」
「そりゃそうだけど……じゃあ、どうしてそんな演技をしたんですか!」
例え本気で危害を加えるつもりじゃなかったとしても、こっちは凄く怖い思いをしたんだ。しっかり説明してもらわないと納得できない。
「それはね、君がどういうやつか、自分の目で確かめて見たかったからだよ」
「私を?」
「そうだよ。イチフサがこうまでするのは、君が原因だってのは明らかだ。君がイチフサに、ひいては里にこれだけの影響を与えたのなら、どういう子なのか確かめたいのも当然だろう」
殺すと脅されるのが当然かはともかく、そんな風に言われると、なんだか私まで大事に巻き込まれている気がする。
ううん。彼やこの里の妖怪達は、きっとそういう風に私を見てるんだろうな。
「それで、私を見てどう思ったんです?」
「そうだね。君は、命の危機になってもまだ、イチフサを諦めようとはしなかった。それはとても一途で、だけど同時に危うくもある」
「うっ……」
あんまり認めたくないけど、それは確かにその通り。もしも鹿王が本気だったら、今ごろどうなっていたかわからない。
「だけど、そっちの祓い屋の少年や猫を巻き込むとなると、とたんに勢いが削がれた。自分のために他を犠牲にしようとは思わなかったわけだ。もしあそこで君が我を張り続けていたら、僕は心から失望していただろうね。場合によっては、本当命を奪っていたかも」
やっぱり演技じゃなかったの!? いや、クスクスと笑っているのを見ると、もしかするとこれも演技や冗談のひとつなのかもしれない。
「まあ、今まで君を見てきた思ったのは、見ていて飽きない面白さがあるってところかな」
「なんですかそれ!」
あれだけ怖い目にあわせておいて、感想が面白いなんて、からかわれてるようにしか思えないんだけど。
「ねえイチフサ。妖怪って、みんなあんたやこの人たいに、ふざけたりからかったりするのが好きなの?」
「いや、鹿王は里の中でもかなりふざけたやつだから。って言うか、俺を一緒にしないでよ」
イチフサは心外だって顔をするけど、アンタの突拍子もない行動に振り回されたのは一度や二度じゃないんだからね。
「僕が思ったのは、今のところこんなものだ。けれどこれじゃまだ足りないからね。今度は、僕の方から聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」
「ああ。君はイチフサのことを、そして、僕ら妖怪が君達人間と交流を持つことをどう思う?」
さっきまでより、少し真面目な顔で尋ねてくる鹿王。
だけど私は、急な質問に戸惑う。
だって、イチフサのことをどう思ってるかなんて、そんなのいちいち言葉にしたことなんてない。
妖怪と人間との交流にいたっては、そんなことになってるなんて、今の今知ったばかり。
どう思うかなんて聞かれても、そんなのさっぱりわからない。
「ちなみに、僕はこう見えて、里の中でもけっこう権力はある方だから、味方にできたらお得だよ。敵に回したら厄介だけどね」
そうなの?
それって責任重大じゃない。
ええと、こういう時って、イチフサを持ち上げたり、やろうとしていることの後押しになるようなことを言ったりした方がいいのかな?
どうしようかと、チラッとイチフサの方を見る。
するとイチフサは、そんな私の迷いを察したように、ニコッと笑った。
「別に、何て答えてくれてもいいよ。なんなら、交流なんて反対だって言ってくれてもかまわない」
「いや、そういうわけにはいかないでしょ」
そんなことしたら、アンタが何のために頑張ってきたのかわからないじゃない。
「いいよ。結衣が本当にそう思っているならね。俺だって、結衣の本音は聞きたいから。俺を気遣って言ってくれる言葉じゃなくて、結衣がこうだって思ってる、本当の気持ちをね」
なによ、それ。
こんな時くらい、自分の都合を優先させなさいよ。
「本当にいいの? そのせいで、アンタのやろうとしていることが台無しになっても?」
「ああ。そうなったら残念だけど、仕方ないかな」
「私が、アンタを嫌いだって言っても?」
「それは嫌。だいたい、本音を聞きたいって言ったよね。嘘ばダメだって」
つまり、私がアンタを嫌いだとは、微塵も思っていないのね。まあ、いいけど。
ただ、それならそれで、一つ気になるというか、納得できないことがある。
それを確かめるため、私は鹿王に向かって言う。
「あなた、さっき私に、イチフサには関わるなって言いましよね。それに、私を殺そうとした。どういうつもりなんです?」
投げ飛ばされ、脅しつけられたことを思い出す。
今の鹿王には、その時見せた威圧的な雰囲気はなくなっているけど、思い出すとまた怖くなってくる。
「それは俺も聞きたかった。鹿王、どういうつもりで結衣に手を出そうとした?」
イチフサも、さっきまでとはうって変わって、鋭い目で睨みつける。
だけど私は、不思議だった。
もし本当にあそこで私に何かあったら、どうなっていか。鹿王は、例え死んでも隠す方法はあるなんて言ってたけど、イチフサの話を聞いた今、そこまでする必要はないんじないかって思ってくる。
すると、鹿王は実にあっさりと言い放った。
「ああ、あのことね。あれ、演技だから」
「はっ?」
え……演技? さっきのあれ、全部演技だったって言うの!?
もちろん、こんなこと言われても、すんなり受け入れられるわけがない。
それは私以外の面々も同じで、まずは人吉くんが険しい顔で問い質す。
「本当か? 出まかせ言ってるんじゃないだろうな」
「心外だな。僕が本気で人殺しなんてするようなやつに見えるかい?」
「初対面のあんたのことなんて知らねーよ!」
こっちは真剣に聞いてるってのに、この態度。なんだか頭が痛くなってくる。
「だいたい、考えてもみなよ。里にはこうして祓い屋のお偉いさんが来てるんだ。わざわざそんな時に荒事なんて起こさないよ。君だって、おかしいと思ったから聞いてきたんだろ」
「そりゃそうだけど……じゃあ、どうしてそんな演技をしたんですか!」
例え本気で危害を加えるつもりじゃなかったとしても、こっちは凄く怖い思いをしたんだ。しっかり説明してもらわないと納得できない。
「それはね、君がどういうやつか、自分の目で確かめて見たかったからだよ」
「私を?」
「そうだよ。イチフサがこうまでするのは、君が原因だってのは明らかだ。君がイチフサに、ひいては里にこれだけの影響を与えたのなら、どういう子なのか確かめたいのも当然だろう」
殺すと脅されるのが当然かはともかく、そんな風に言われると、なんだか私まで大事に巻き込まれている気がする。
ううん。彼やこの里の妖怪達は、きっとそういう風に私を見てるんだろうな。
「それで、私を見てどう思ったんです?」
「そうだね。君は、命の危機になってもまだ、イチフサを諦めようとはしなかった。それはとても一途で、だけど同時に危うくもある」
「うっ……」
あんまり認めたくないけど、それは確かにその通り。もしも鹿王が本気だったら、今ごろどうなっていたかわからない。
「だけど、そっちの祓い屋の少年や猫を巻き込むとなると、とたんに勢いが削がれた。自分のために他を犠牲にしようとは思わなかったわけだ。もしあそこで君が我を張り続けていたら、僕は心から失望していただろうね。場合によっては、本当命を奪っていたかも」
やっぱり演技じゃなかったの!? いや、クスクスと笑っているのを見ると、もしかするとこれも演技や冗談のひとつなのかもしれない。
「まあ、今まで君を見てきた思ったのは、見ていて飽きない面白さがあるってところかな」
「なんですかそれ!」
あれだけ怖い目にあわせておいて、感想が面白いなんて、からかわれてるようにしか思えないんだけど。
「ねえイチフサ。妖怪って、みんなあんたやこの人たいに、ふざけたりからかったりするのが好きなの?」
「いや、鹿王は里の中でもかなりふざけたやつだから。って言うか、俺を一緒にしないでよ」
イチフサは心外だって顔をするけど、アンタの突拍子もない行動に振り回されたのは一度や二度じゃないんだからね。
「僕が思ったのは、今のところこんなものだ。けれどこれじゃまだ足りないからね。今度は、僕の方から聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」
「ああ。君はイチフサのことを、そして、僕ら妖怪が君達人間と交流を持つことをどう思う?」
さっきまでより、少し真面目な顔で尋ねてくる鹿王。
だけど私は、急な質問に戸惑う。
だって、イチフサのことをどう思ってるかなんて、そんなのいちいち言葉にしたことなんてない。
妖怪と人間との交流にいたっては、そんなことになってるなんて、今の今知ったばかり。
どう思うかなんて聞かれても、そんなのさっぱりわからない。
「ちなみに、僕はこう見えて、里の中でもけっこう権力はある方だから、味方にできたらお得だよ。敵に回したら厄介だけどね」
そうなの?
それって責任重大じゃない。
ええと、こういう時って、イチフサを持ち上げたり、やろうとしていることの後押しになるようなことを言ったりした方がいいのかな?
どうしようかと、チラッとイチフサの方を見る。
するとイチフサは、そんな私の迷いを察したように、ニコッと笑った。
「別に、何て答えてくれてもいいよ。なんなら、交流なんて反対だって言ってくれてもかまわない」
「いや、そういうわけにはいかないでしょ」
そんなことしたら、アンタが何のために頑張ってきたのかわからないじゃない。
「いいよ。結衣が本当にそう思っているならね。俺だって、結衣の本音は聞きたいから。俺を気遣って言ってくれる言葉じゃなくて、結衣がこうだって思ってる、本当の気持ちをね」
なによ、それ。
こんな時くらい、自分の都合を優先させなさいよ。
「本当にいいの? そのせいで、アンタのやろうとしていることが台無しになっても?」
「ああ。そうなったら残念だけど、仕方ないかな」
「私が、アンタを嫌いだって言っても?」
「それは嫌。だいたい、本音を聞きたいって言ったよね。嘘ばダメだって」
つまり、私がアンタを嫌いだとは、微塵も思っていないのね。まあ、いいけど。
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