7 / 27
第7話 蛍を見に行こう
しおりを挟む
そんなこんなでかき氷を食べ終えて、ご満悦のイチフサ。
それから、こんなことを言い出した。
「近くに蛍の綺麗な場所があるけど、見に行く?」
「行く」
するとイチフサ、大きく羽を羽ばたかせ、夜空を一気に進んでいく。向かう先は、私たちが待ち合わせしていた山のすぐ近く。そこに、小さな小川が流れていた。
イチフサが地面に降り立ち、抱えていた私を下ろす。小川を眺めると、イチフサの言ってた通り、何匹もの蛍が瞬いていた。
「きれい──」
蛍なんて昔はどこでも見ることが出来たらしいけど、こんな田舎でも、最近ではだんだん見なくなってるって聞く。
私は屈みこむと、蛍に向かってそっと手を伸ばす。近寄ってきた蛍の光で、手の平が緑色に照らされた。
「気にいった?」
「まあ、イチフサにしては悪くないじゃない。まるで……」
そこで私は口にしかけた言葉を呑み込む。まるでデートみたい。そう言いそうになっていた。
だけどそんなの言ったら、何だかイチフサのことを異性として意識しているみたいになる。そんなの恥ずかしくて、絶対言えない。
そんなことを思っていると、近くの茂みがガサガサと音を立てて動く。
なに? 目を向けると、そこからおかしな姿をし奴らが現れた。
「あっ、いたいた。イチフサ様~、結衣さん~」
それは、小さいサイズの妖怪たちだった。一反木綿に、豆狸に、カワウソ。
そいつらは私たちを見かけたとたん、わらわらとこっちにやってくる。目当ては、イチフサの持っている、袋に入った食べ物だ。
「おぉっ、これがお祭りグルメ!」
「どれもおいしそう」
「食べたい食べたい!」
この子たちは、イチフサと同じく、あの山に住んでいる妖怪だ。
そしてイチフサがあんなに大量の食べ物を買ったのは、この子たちに食べさせるためでもあったんだ。
なのにイチフサは、この子たちを見たとたん、ちょっぴり残念そうに言う。
「みんな、山で待ってろって言ってただろ。せっかくのデートを邪魔するなんて、野暮なことしない」
「な、何がデートよ! そんなんじゃないでしよ!」
こいつ、私が恥ずかしくて口に出せなかったこと、あっさり言った!
もう。そんなこと言われたら、どうすればいいかわからなくなるじゃない!
動揺を隠すように、イチフサから袋のひとつを引ったくり、その子たちに差し出す。
イチフサも本気で気を悪くしてたわけじゃないみたいで、他の袋を開けては、食べ物を取り出していた。
「わ、我々も、食べ物のためだけに来たわけではないのですよ。イチフサ様が山を離れるのが心配で、大丈夫かと様子を見に来たのです。それはそうと、これ、食べていいですか?」
「いいよ」
「やった!」
そのとたん、一反木綿たちは我先にと掴み取り、すごい勢いで食べ始める。
「相変わらず、凄い食べっぷりね」
この子たちに食べ物をあげたことは何度かあるけど、いつもいつもものすごくおいしそうに食べている。
「どれもこれも、妖怪の世界にはない食べ物ばかりだからね。みんなにとってはご馳走だよ。もちろん、俺にもね」
イチフサはそう言うと、自分もベビーカステラをひとつつまんで口に入れた。
「イチフサ様、結衣さん、買ってきてくれてありがとうございます!」
一反木綿が、食べながらお礼を言う。ちなみにこの子たちがイチフサのことを様なんてつけて呼んでいるのは、イチフサがあの山の中では、かなり上の立場にいる妖怪だかららしい。
けどそのおかげか、この子たちもイチフサの知り合いである私のことは慕っていて、こうして懐かれている。
ふと右手にはめた腕輪に目をやった。以前、イチフサにもらった、木のツタで作った妖怪除けの腕輪の、バージョンアップ版だ。
最初私がダサいって言ったのが嫌だったらしく、何度も作り直した結果、最近じゃ葉っぱや木の実で飾り付けられていて、それなりに見栄えのするものになっているんだけど、最近じゃ、わざわざ妖怪よけをする必要もあまりないかも。
もちろん、妖怪の中には相変わらず怖いやつもいて、簡単に気を許しちゃいけないって、今でも思ってる。
けどイチフサやこの子たちのように、そうじゃないやつもいる。
妖怪とこんな風に楽しくすごすなんて、昔は考えもしなかったな。
自分用に買ったりんご飴を食べながら、そんなことを思う。
だけどその時、それまで食べるのに夢中になってたイチフサが、不意にこんなことを言ってきた。
「そう言えば結衣、中学では、他の子たちとうまくやれてる?」
その瞬間、凍りついたように、私の表情が固まった。
それから、こんなことを言い出した。
「近くに蛍の綺麗な場所があるけど、見に行く?」
「行く」
するとイチフサ、大きく羽を羽ばたかせ、夜空を一気に進んでいく。向かう先は、私たちが待ち合わせしていた山のすぐ近く。そこに、小さな小川が流れていた。
イチフサが地面に降り立ち、抱えていた私を下ろす。小川を眺めると、イチフサの言ってた通り、何匹もの蛍が瞬いていた。
「きれい──」
蛍なんて昔はどこでも見ることが出来たらしいけど、こんな田舎でも、最近ではだんだん見なくなってるって聞く。
私は屈みこむと、蛍に向かってそっと手を伸ばす。近寄ってきた蛍の光で、手の平が緑色に照らされた。
「気にいった?」
「まあ、イチフサにしては悪くないじゃない。まるで……」
そこで私は口にしかけた言葉を呑み込む。まるでデートみたい。そう言いそうになっていた。
だけどそんなの言ったら、何だかイチフサのことを異性として意識しているみたいになる。そんなの恥ずかしくて、絶対言えない。
そんなことを思っていると、近くの茂みがガサガサと音を立てて動く。
なに? 目を向けると、そこからおかしな姿をし奴らが現れた。
「あっ、いたいた。イチフサ様~、結衣さん~」
それは、小さいサイズの妖怪たちだった。一反木綿に、豆狸に、カワウソ。
そいつらは私たちを見かけたとたん、わらわらとこっちにやってくる。目当ては、イチフサの持っている、袋に入った食べ物だ。
「おぉっ、これがお祭りグルメ!」
「どれもおいしそう」
「食べたい食べたい!」
この子たちは、イチフサと同じく、あの山に住んでいる妖怪だ。
そしてイチフサがあんなに大量の食べ物を買ったのは、この子たちに食べさせるためでもあったんだ。
なのにイチフサは、この子たちを見たとたん、ちょっぴり残念そうに言う。
「みんな、山で待ってろって言ってただろ。せっかくのデートを邪魔するなんて、野暮なことしない」
「な、何がデートよ! そんなんじゃないでしよ!」
こいつ、私が恥ずかしくて口に出せなかったこと、あっさり言った!
もう。そんなこと言われたら、どうすればいいかわからなくなるじゃない!
動揺を隠すように、イチフサから袋のひとつを引ったくり、その子たちに差し出す。
イチフサも本気で気を悪くしてたわけじゃないみたいで、他の袋を開けては、食べ物を取り出していた。
「わ、我々も、食べ物のためだけに来たわけではないのですよ。イチフサ様が山を離れるのが心配で、大丈夫かと様子を見に来たのです。それはそうと、これ、食べていいですか?」
「いいよ」
「やった!」
そのとたん、一反木綿たちは我先にと掴み取り、すごい勢いで食べ始める。
「相変わらず、凄い食べっぷりね」
この子たちに食べ物をあげたことは何度かあるけど、いつもいつもものすごくおいしそうに食べている。
「どれもこれも、妖怪の世界にはない食べ物ばかりだからね。みんなにとってはご馳走だよ。もちろん、俺にもね」
イチフサはそう言うと、自分もベビーカステラをひとつつまんで口に入れた。
「イチフサ様、結衣さん、買ってきてくれてありがとうございます!」
一反木綿が、食べながらお礼を言う。ちなみにこの子たちがイチフサのことを様なんてつけて呼んでいるのは、イチフサがあの山の中では、かなり上の立場にいる妖怪だかららしい。
けどそのおかげか、この子たちもイチフサの知り合いである私のことは慕っていて、こうして懐かれている。
ふと右手にはめた腕輪に目をやった。以前、イチフサにもらった、木のツタで作った妖怪除けの腕輪の、バージョンアップ版だ。
最初私がダサいって言ったのが嫌だったらしく、何度も作り直した結果、最近じゃ葉っぱや木の実で飾り付けられていて、それなりに見栄えのするものになっているんだけど、最近じゃ、わざわざ妖怪よけをする必要もあまりないかも。
もちろん、妖怪の中には相変わらず怖いやつもいて、簡単に気を許しちゃいけないって、今でも思ってる。
けどイチフサやこの子たちのように、そうじゃないやつもいる。
妖怪とこんな風に楽しくすごすなんて、昔は考えもしなかったな。
自分用に買ったりんご飴を食べながら、そんなことを思う。
だけどその時、それまで食べるのに夢中になってたイチフサが、不意にこんなことを言ってきた。
「そう言えば結衣、中学では、他の子たちとうまくやれてる?」
その瞬間、凍りついたように、私の表情が固まった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
ミズルチと〈竜骨の化石〉
珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。
一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。
ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。
カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。
トウシューズにはキャラメルひとつぶ
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。
小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。
あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。
隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。
莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。
バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
examination
伏織綾美
ファンタジー
幽霊や妖怪が見える主人公・大国くん。
ある日、危ない所を助けてくれたクラスメートの羽生さんに目を付けられ、彼女の“商売”の手伝いをさせられることに!
マゾっ子属性の主人公と不謹慎すぎる毒舌のヒロインが織り成す、ハートフルラブストーリーです(ハートフルラブストーリーとは言ってない)
所々、HTMLタグを消し忘れてるところがあるかもです。申し訳ない。
【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる