初恋と幽霊

無月兄

文字の大きさ
上 下
39 / 47

実験1

しおりを挟む
【三島side】

 部室へと続く階段を、俺はゆっくりと上っていた。

 藤崎のことを有馬先輩に任せて、あとは邪魔にならないよう、部室には近寄らないようにしよう。
 そう決めて、意味無く校舎をウロウロと歩き回って時間を潰していたけど、それももう限界だった。

 無事に話は終わったのか、藤崎は元気になったのか、気になって仕方ない。

 いい加減、部室に行って二人の様子を見てみよう。
 そう思ってここまで来たのはいいけど、部室の扉の前に立ったところで、足が止まる。

(これって、今中に入って大丈夫なのか?)

 二人の話が終わったのかわからない以上、下手に顔を出すと台無しにしてしまうかもしれない。
 そう思うと、つい躊躇してしまう。

(し、仕方ねえよな)

 迷った挙句、俺は部室の扉を少しだけ開け、そっと中の様子を見る。
 つまりは覗き見だ。

 二人だけで話をしろって言っておいて、こんなまねをするのは気が引ける。
 けどこうでもしなきゃ中に入るタイミングがわからないし、何より俺がお膳立てをしなきゃ、二人が話し合うことだって無かった。
 だから、ほんの少しくらいなら見る権利はあるはずだ。

 無茶苦茶だって? わかってるよそんなこと!

 そうして、こっそり覗いた部室の中。
 そこには思った通り、藤崎と有馬先輩の姿があった。

 けど、それを見て首を傾げる。

(あいつら、何やってるんだ?)

 どういうわけか、藤崎と有馬先輩は、前後に並ぶように立っていた。
 藤崎が前、有馬先輩が後ろ。話をするにしては、どう見ても変な立ち位置だ。

 妙に思いながらしばらく見ていると、後ろに立ってる有馬先輩が、藤崎に向かって手を伸ばす。
 それから、覆い被さるように、体を近づけていった。

(ちょっ、ちょっと待て。二人とも、ほんとに何やってるんだよ。これって、バックハグってやつじゃねえのか! 話し合えとは言ったけど、こんなことしろとは言ってねえぞ!)

 黙って見ていられたのはそれまでだ。
 気が付けば、勢い置く扉を開け叫んでた。

「待て待て待て! お前ら、何やってるんだよーーーーっ!」

 喉が潰れそうなくらいの大声が部室に響く。
 それに驚いたのか、二人がキョトンとした顔でこっちを見た。

「三島? いったいどうしたの?」
「どうしたのじゃねえよ! お前たち、いったい何してる!?」

 まさか、仲直りできただけでなく、そこからさらにいい雰囲気になって、その結果がバックハグとか?

 藤崎には元気になってほしいけど、そんなのはちっとも望んじゃいない。

 けれどそこで、有馬先輩が全く予想外のことを言い出した。

「何って、実験かな」
「はっ? 実験?」

 実験って何のだよ。

 一瞬、嘘をついているのかとも思ったけど、それにしてはあまりにも意味不明だ。

 それに二人とも、バックハグなんてラブシーンの現場を見られたにしては、あまりに落ち着きすぎている。

 有馬先輩はどうか知らないが、藤崎がそんなことになったら、顔を真っ赤にしてあたふたしていそうだ。

(……もしかして、俺の早とちりだったのか?)

 ヤバいヤバいヤバい。
 それであんな大声を出したなら、かなり恥ずかしい。

 嫌な汗が吹き出てくるけど、そこで藤崎が話しかけてきた。

「あっ、あのさ、三島……」
「……な、なんだよ」
「ユウくんから聞いたよ、私のこと、凄く心配してたって。その……私達に話をさせるためにわざと遅れてきたんだよね? ありがとう」
「────っ!」

 今度は、さっきのとは別の種類の恥ずかしさが襲ってきた。

 もちろん、全部藤崎の言う通りなんだけど、わざわざ面と向かってそれを言われると、どうしたらいいのかわからなくなる。
 って言うか有馬先輩、藤崎に喋ったのかよ!

「べ、別に、俺は何もしてねえだろ」

 ボソッと呟いた言葉は、謙遜じゃなくて本心だ。
 色々と動きはしたけど、ありがとうなんて言われるもんじゃない。
 俺じゃどうにもできそうにないから、有馬先輩を焚き付けた。それだけだ。

 けれど今度は、その有馬も一緒になって言ってくる。

「いや、三島が背中を押してくれなかったら、俺は多分、今もちゃんと話せてなかったと思う」
「心配かけてごめんね」

 そうして、二人揃って笑顔を見せる。
 今日一日、決して見る事の無かった笑顔だ。

「その調子だと、もう大丈夫なんだよな?」

 すると藤崎と有馬先輩は、一瞬だけ目を合わせる。
 それから、藤崎が答えた。

「うん。おかげさまでね」
「そうか」

 これで、藤崎も有馬先輩も、元の仲のいい二人に戻る。
 そう思うと少しモヤモヤするけど、藤崎が笑顔でいられるなら、今はそれでもいいかと思った。
 
「三島、本当にありがとね」
「お……おう」

 もう一度、改めてお礼を言われたもんだから、つい恥ずかしくなって目を逸らす。
 けど悪い気はしなかった。って言うか、めちゃめちゃ嬉しい。

 このたった一言で嬉しくなるんだから、我ながら安上がりだ。

 このままだと、嬉しすぎて藤崎の顔をまともに見られなくなりそうだ。

 ここは、何か別の話に移らないと。

「と、ところで、さっき言ってた実験ってなんなんだよ?」

 実験というと、化学か何かか?
 けどあのバックハグもどきじゃ、いったい何をしたかったのか、さっぱり見当がつかない。

「えっとね。ユウくんが私にとり憑けるかどうかの実験」
「はぁ?」

 藤崎が答えてくれたけど、それを聞いて、俺はますますわけがわからなくなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

切り裂かれた髪、結ばれた絆

S.H.L
青春
高校の女子野球部のチームメートに嫉妬から髪を短く切られてしまう話

坊主女子:学園青春短編集【短編集】

S.H.L
青春
坊主女子の学園もの青春ストーリーを集めた短編集です。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

バッサリ〜由紀子の決意

S.H.L
青春
バレー部に入部した由紀子が自慢のロングヘアをバッサリ刈り上げる物語

礼儀と決意:坊主少女の学び【シリーズ】

S.H.L
青春
男まさりでマナーを知らない女子高生の優花が成長する物語

坊主の決意:ちひろの変身物語

S.H.L
青春
### 坊主のちひろと仲間たち:変化と絆の物語 ちひろは高校時代、友達も少なく、スポーツにも無縁な日々を過ごしていた。しかし、担任の佐藤先生の勧めでソフトボール部に入部し、新しい仲間たちと共に高校生活を楽しむことができた。高校卒業後、柔道整復師を目指して専門学校に進学し、厳しい勉強に励む一方で、成人式に向けて髪を伸ばし始める。 専門学校卒業後、大手の整骨院に就職したちひろは、忙しい日々を送る中で、高校時代の恩師、佐藤先生から再び連絡を受ける。佐藤先生の奥さんが美容院でカットモデルを募集しており、ちひろに依頼が来る。高額な謝礼金に心を動かされ、ちひろはカットモデルを引き受けることに。 美容院での撮影中、ちひろは長い髪をセミロング、ボブ、ツーブロック、そして最終的にスキンヘッドにカットされる。新しい自分と向き合いながら、ちひろは自分の内面の強さと柔軟性を再発見する。仕事や日常生活でも、スキンヘッドのちひろは周囲に驚きと感動を与え、友人たちや同僚からも応援を受ける。 さらに、ちひろは同級生たちにもカットモデルを提案し、多くの仲間が参加することで、新たな絆が生まれる。成人式では、ロングヘアの同級生たちとスキンヘッドの仲間たちで特別な集合写真を撮影し、その絆を再確認する。 カットモデルの経験を通じて得た収益を元に、ちひろは自分の治療院を開くことを決意。結婚式では、再び髪をカットするサプライズ演出で会場を盛り上げ、夫となった拓也と共に新しい未来を誓う。 ちひろの物語は、外見の変化を通じて内面の成長を描き、友情と挑戦を通じて新たな自分を見つける旅路である。彼女の強さと勇気は、周囲の人々にも影響を与え、未来へと続く新しい一歩を踏み出す力となる。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

窓際の君

気衒い
青春
俺こと如月拓也はとある一人の女子生徒に恋をしていた。とはいっても告白なんて以ての外。積極的に声を掛けることすら出来なかった。そんなある日、憂鬱そうに外を見つめるクラスメイト、霜月クレアが目に入る。彼女の瞳はまるでここではないどこか遠くの方を見ているようで俺は気が付けば、彼女に向かってこう言っていた。 「その瞳には一体、何が映ってる?」 その日を境に俺の変わり映えのしなかった日常が動き出した。

処理中です...