初恋と幽霊

無月兄

文字の大きさ
上 下
29 / 47

三島啓太のやること3

しおりを挟む
【三島side】

「ひとつ聞くぞ。藤崎の様子がおかしいのは、先輩が原因っぽいんだな」
「ああ、多分な」

 やっぱりそうだよな。
 それだけわかれば、もうこれ以上詳しい話は聞かなくてもいい。

 最初は、有馬先輩の態度次第では、しつこく問い詰め怒りをぶつけようかとも思っていた。
 けど先輩も、本気で藍のことを心配しているのがわかって、いつの間にかそんな気も失せていた。

「なあ。大沢先生って、今日は教職員会議で遅くなるって言ってたよな?」
「ああ、言ってたけど?」
「俺も、今日は部活に来るのが遅れる。だから放課後になってしばらくは、ここには先輩と藤崎しかいなくなる。その時に、二人で話せ」

 できればこんなこと言いたくなかった。
 お膳立てだけしておいて、後は全部任せるなんて、自分には何もできないって言ってるようなもんだ。

 けどその通りだ。俺が藤崎に何か言っても、解決できるとは思えない。
 だが、有馬先輩は違う。

 先輩が原因だからってのももちろんあるけど、例え藤崎が全く別のことで落ち込んでいたとしても、こいつならきっと力になってくれるって思った。

 そんなの認めたくないし、できることなら俺がこの手で何とかしてやりたい。
 けど、そんな気持ちを押さえながら言う。

「何があったか知らねえけど、あんたが原因だって言うなら、何とかしてくれ」
「三島……」

 俺にとってこの人は、恋敵みたいなもの。
 そんなやつと藤崎とを仲直りさせようなんて、本当なら絶対にしたくない。
 それでも、落ち込んでいる藤崎の姿を見ていると、こうするしかなかった。

 先輩は、俺の言葉に驚いていたようだったけど、それからしっかりと頷いた。

「ああ。ありがとな」

 感謝なんてされても、ちっとも嬉しくない。なのに先輩は、俺を真っ直ぐに見つめながら、きちんと礼を言う。

(まったく、幽霊のくせに、色々人を振り回しすぎなんだよ)

 この人は幽霊で、本来ならとっくに過去の人になっているべき存在だ。
 なのに、未だにその言動で藤崎を一喜一憂させ続けている。
 俺には、それがすごく悔しかった。

 きっと先輩は、俺がこんなこと考えてるなんて知らないだろう。

「悪いな。色々気を使わせて」

 ほらこれだ。
 人がこんなに悔しがっているのに、当の本人はこの調子だ。こんな態度をとられたら、腹は立っても、嫌いだとは思えなくやってしまう。
 だからこそ、心がザワつくんだ。

「そんなのいいから、藤崎のことを頼むぞ」

 精一杯の強がりを言いながら、いっそこいつが、もっと嫌な奴ならよかったのにと思う。
 もっとも、そんな奴ならそもそも藤崎に好かれることは無かっただろうけど。

 そこまで話したところで、入ってきた扉を開いて、部室を後にする。

 バタンと扉を閉めた途端、一気に汗が吹き出て、全身に疲れを感じた。
 今のやりとりの最中、自分でも気づかないうちに緊張していたようだ。
 疲れを吐き出すように、深く長いため息をつく。

(何やってるんだろうな、俺)

 これで、俺にできることは終わり。後は有馬先輩に期待する他無い。
 そう思うと、どんどん気持ちが沈んでいく。

 それでも、こうするしかなかった。落ち込んでいる藤崎を見てると、なりふりなんて構ってられなかった。

「……ったく、しっかりしろよ」

 誰に言い聞かせるでも無く呟いたその言葉。
 それは、藤崎がこうなった原因を作った有馬先輩と、何もできない自分、その両方に向けられていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

コウカイ列車に乗って

天咲 琴葉
青春
偶然乗り合わせた電車は別世界行きだった――?! ある日の朝、何時もの電車に乗る筈が、異世界に行く電車に誤って乗車してしまった主人公。 その電車に乗っていたのは、得体の知れない車掌にツンデレ女子高生?! 後悔を晴らすまで下車は許されない――。 果たして、主人公は無事に現世に戻って来られるのか……!

青天のヘキレキ

ましら佳
青春
⌘ 青天のヘキレキ 高校の保健養護教諭である金沢環《かなざわたまき》。 上司にも同僚にも生徒からも精神的にどつき回される生活。 思わぬ事故に巻き込まれ、修学旅行の引率先の沼に落ちて神将・毘沙門天の手違いで、問題児である生徒と入れ替わってしまう。 可愛い女子とイケメン男子ではなく、オバちゃんと問題児の中身の取り違えで、ギャップの大きい生活に戸惑い、落としどころを探って行く。 お互いの抱えている問題に、否応なく向き合って行くが・・・・。 出会いは化学変化。 いわゆる“入れ替わり”系のお話を一度書いてみたくて考えたものです。 お楽しみいただけますように。 他コンテンツにも掲載中です。

文バレ!②

宇野片み緒
青春
文芸に関するワードを叫びながらバレーをする、 謎の新球技「文芸バレーボール」── 2113年3月、その全国大会が始まった! 全64校が出場する、2日間開催のトーナメント戦。 唄唄い高校は何者なのか? 万葉高校は? 聖コトバ学院や歌仙高校は全国でどう戦うのか? 大会1日目を丁寧に収録した豪華な中巻。 皆の意外な一面が見られるお泊り回も必見! 小題「★」は幕間のまんがコーナーです。 文/絵/デザイン他:宇野片み緒 ※2018年に出した紙本(絶版)の電子版です。

【完結】ツインクロス

龍野ゆうき
青春
冬樹と夏樹はそっくりな双子の兄妹。入れ替わって遊ぶのも日常茶飯事。だが、ある日…入れ替わったまま両親と兄が事故に遭い行方不明に。夏樹は兄に代わり男として生きていくことになってしまう。家族を失い傷付き、己を責める日々の中、心を閉ざしていた『少年』の周囲が高校入学を機に動き出す。幼馴染みとの再会に友情と恋愛の狭間で揺れ動く心。そして陰ではある陰謀が渦を巻いていて?友情、恋愛、サスペンスありのお話。

私の話を聞いて頂けませんか?

鈴音いりす
青春
 風見優也は、小学校卒業と同時に誰にも言わずに美風町を去った。それから何の連絡もせずに過ごしてきた俺だけど、美風町に戻ることになった。  幼馴染や姉は俺のことを覚えてくれているのか、嫌われていないか……不安なことを考えればキリがないけれど、もう引き返すことは出来ない。  そんなことを思いながら、美風町へ行くバスに乗り込んだ。

OH MY CRUSH !!

文月 七
青春
一目惚れした女の子を探すために、倖尊は奔走する!

処理中です...