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第一章
08:未練すら抱き潰して
しおりを挟む「あっ、あ、あ、……やあ……っ」
立てた膝が揺れる。体中の熱がそこに集中していくのが分かって、都はいやだと首を振った。この行為に慣れていないわけではない。浅ましい自分を目の当たりにするようで、羞恥がよみがえる。
「あう、ん……っあ、あぁ」
だが男の手に根元からしごき上げられ、緩急のついた快楽の波が押し寄せてくる。それに合わせるように腰が浮き上がり、沈むたびにベッドが音を立てた。
「あ、やっ……!」
胸を離れた男の指先が、二つの珠の奥のくぼみをつつく。都がのけぞるのと同じタイミングで、その指が深く入り込んできた。それは押し広げるように突き進み、引き抜かれて二本に増えた。バラバラに動かされる指に都は息を呑み、
「や、だめ……っ、正広さんっ……!」
男の指がそこを撫でた瞬間、思わず声を上げていた。前を、後ろを同時に責め立てていた男の指先が、一瞬置いてピタリと止まる。
それに気がついて、都は自分が何を口走ったのか自覚し、慌てて口を押さえた。今確かに、正広、と叫んでしまった。
気まずい思いを抑えて恐る恐る男を見上げると、当然ながら不快そうに眉を寄せている。
「……別れた男か」
「ご、ごめ……」
低く囁く声には、呆れと怒りが含まれているように思えた。当然だ。ベッドの上でコトに及んでいるというのに、別れた男の名前を呼ぶなんて、マナー違反だ。誰だって気分が悪いはず。
「ふ……ん、未練がましいな。マサヒロとやらの抱き方に似ていたか?」
「やっ……に、似てないよッ……こんな意地悪、しなかっ……ぁあっ!」
ずぐりと二本の指がギリギリまで埋められる。男の怒りに、都は無意識に抵抗した。
「だいたい、アンタが……名前も、教えないからっ……」
責任を八つ当たり気味に転嫁して、未練と言われた事実を否定する。名も知らない他人に言われるのが、腹立たしかった。
「自分の未練を俺のせいにするな」
「あ、や、ちょっと……待っ……!」
突然指が引き抜かれたかと思ったら、両足を大きく押し広げられ、まだほぐし切れていないそこに、勃ちきった雄を突き立てられた。
「い……っ」
まだ受け入れる体制が整いきっていないというのに、男は構わず腰を押し進めてくる。
「待っ、てって……言って、……ん、のにっ……」
都の顔が、苦痛に歪む。
「ん、ん……ぅあ……っふ」
突き進んでくる男の質量にのけぞり、胸を上下させ呼吸を繰り返し、少しでも楽になるようにと努力はしてみた。
「ベッドの中で他の男の名前を呼ぶような馬鹿に、優しくできると思うのか?」
それは全面的に申し訳ないと思うものの、痛みはありがたくない。
「いっ……あ、ん……っんん」
男の脚が、都の尻に当たる。間を置かずに開始された緩やかな抜き差しに、萎えかけていた欲情が舞い戻ってくる。痛みさえも快楽に変わってしまう頃には、都は我を忘れて男にしがみついていた。
「あ、あっ、や……待ってこんな……奥、おく……やあっ……」
右脚を抱え上げられ、ずっと奥まで男を感じる。
その質量と、体験したことのない位置とが、都の昂ぶりをさらに高めていく。
肌のぶつかる音とベッドの軋む音、呼吸と一緒に喘ぐ声、時折詰まるような男の吐息。
それら全部が、バラバラでありつつも、重なって室内に響き渡った。
「あっあっ、んん、ん、うぅ……――」
やがて、こらえきれずに勃ちきった己に手を伸ばすと、男はそれを阻止するように手を搦め捕ってくる。達せない苦痛を、睨みつける視線で抗議してみたが、気にも留めない唇で呼吸を奪われた。
食われてしまうのではないかと思うほど、強くて深い口づけに、都の心臓がドクドクと音を立てる。
喘ぎ過ぎて痛む喉を、混ざった唾液が通り過ぎた。
「楽にイけると思うなと……言ったはずだがな?」
「……性格、悪ィ……」
顔は好みなのにと付け加えてやると、男はふっと口元を緩めてもう一度キスしてきた。押しつけるだけ押しつけて、ゆっくりと腰を引く。
ぞくぞくとせり上がってくる快感に、都はぐんとのけぞった。
「あ……っ、……あ、あ、あっ」
快楽が恐ろしいのか、逃げてずり上がる都の腰を抱え込み、男は強く引き寄せる。都はいやいやと首を振るが、男の責め立ては容赦なかった。
「やだっ、や……はあっ……ぁん、ああっ……」
体が揺さぶられて心許なく、しがみついた肩に思わず爪を立ててしまったらしい。ずんと突き上げられて悲鳴を上げる。
待ってほしいと懇願したのに、男は面白そうに囁いてきた。
「イきたいか……?」
わざと抜き差しする速度を緩めてまで、朦朧としていた都の意識を引き戻してくる。その策略にハマッてしまった都は涙目で見上げるが、雄を締め付ける指が緩むことはなかった。
「う……っんん、ん……」
「イかせてほしいと言うくらい、お前の生意気な口でもできるだろう」
「なっ……」
涙で歪む視界に、笑う男の口元が映る。
「ほら……」
「あぅっ……」
とん、と軽く突かれて、都は背をしならせて声を上げた。
「ず、ずる……い、こんなのっ……」
こんな状況では、都の方が圧倒的に不利だ。
とろとろにとろかされた意識と唇。熱に酔う男の吐息と、耳元の湿った声。汗で額に張り付いた黒髪と、しっとり濡れた素肌が、サイドスタンドの灯りに浮かび上がる。
「んっ……」
促すように、濡れた指で唇を撫でられた。それは都の情欲を煽って、唇を開かせるのに充分だ。
「いか、いかせて……お願い、イかせ……て、もう、なんでも、いい、からぁっ……」
「――いい子だ」
「やっ、あ、あっあっ……」
解放をせき止めていた男の手が、濡れた音をまとって都をしごき上げ、その音に呼応するように男のものが都の中をえぐる。
「い、……っい、いい、あ……っ、そこ、やだ、いや、ああ……っん」
喘ぐ唇を撫で上げ、それを追うように舌が追う。
それをキスに変えたのは、男の方だったか、それとも都の方だったか。
「んんっ、んっ……ん、ん……」
恋人同士みたいに情熱的に深く口づけ合い、都は息を詰めて達する。時をほぼ同じくして、男の体液が都の中に吐き出された。
「……っぷは、はあっ、はあっ、はぁ……ん、は……ッ」
苦しい、と男の体を押しやる。あまり力を要さなかったのは、相手の方も力が抜けていたせいだろう。荒い呼吸のせいで、胸から腰にかけてが激しく上下した。
(しぬ、かと、思った……)
疲労感がものすごい。呼吸は整ってきたが、今は起き上がることはおろか、腕を上げることさえ億劫だ。
「……死ぬほど良かったのか?」
同じく呼吸の整ったらしい男が呟いた言葉に、都は目を瞠った。心で唱えただけだと思っていたのに、
「え、俺……声に出して、た……って、ちょ……」
どうやら素直にも声に出していたらしく、男は満足そうに笑っていた。吐息がかかるほど近くにいるせいで、鼓動が速い。
「なんで、またっ……」
だけど自分の鼓動より、また中で硬さを取り戻してきた男のものが気にかかった。先ほど達したばかりだというのに、なぜそんなにも回復が早いのか。
「お前の期待に応えてやっているんだろう」
「い、いらなっ……、あ……!」
息もつけないようなあんな激しい行為、立て続けにできるものか。
そう言って押しやりたかったのだが、その手も搦め捕られ、いちばん感じたところを擦り上げられ、結局は快楽に負けることになってしまうのだった。
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