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第六章

56:とろけて、ひとつになれたら

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 邸に帰ると、ロイドやアメリアが泣きながら出迎えてくれた。ジョーイは温かな料理を二人分用意してくれていて、胸が熱くなった。
 二人で一緒に食事を済ませ、入浴を終える頃には、夜もすっかり更けていた。

「アレクッ、自分で歩ける……!」
「暴れるな。落ちる」

 部屋までの距離がもどかしいのか、アレクの歩幅は広い。その気持ちはマリィシャも同じだが、抱き上げられた状態では落ち着かない。せめて赤い顔を見られないようにしようと、首にしがみついた。
「マリィシャ、ドアを開けてくれ。手が塞がっている」
 部屋の前に着いて、アレクが立ち止まる。きっとアレクなら器用に開けることだってできるはずなのに、最後の最後でマリィシャに選択させるのだ。
「私はお前を手放す気はない。何があってもだ」
 この先は、ずっと離れない。マリィシャはアレクの唇に小さくキスをして、ドアノブに手を伸ばした。部屋の中に進み入り、そっとベッドに下ろされる。
 ここでは何度もつながってきたのに、まるで初めてみたいに、心臓がドキドキとうるさい。
「何を笑っているんだ?」
「ううん……ただ、アレクのこと好きだなって思ってただけ」
 マリィシャは両腕を伸ばして、アレクを抱き寄せる。お互いの真ん中で重なる唇が心地よくて、もっと深く、と誘い込んだ。
「んっ……んぅ」
 熱い舌が絡む。吸って、なでて、吐息を飲み込む。
 アレクの手のひらが肌を滑っていくのを感じながら、マリィシャは必死で舌を絡めた。
 指先が胸の粒をこね上げ、マリィシャの体が跳ねる。それに合わせて銀の髪が揺れて散らばり、ダイヤモンドのように輝いた。
「……ふ、ふふ……、本当に、全身が宝石のようだな、マリィシャ。目が離せない」
「んっ、ん……ね……もっと綺麗になるよ……ここ、アレクが磨いて……」
 つ、と自分の指先で胸の珊瑚をなでる。
 誰かに磨かれるという言葉を、こうもすんなり口にできるとは思わなかった。それは今までマリィシャにとって、良い意味ではなかったせいだ。
 だけど、アレクになら磨かれたい。愛されて、大切にされて、今よりもっと大きな気持ちでアレクを想っていたい。
「随分と私を煽るのが上手くなったな、マリィシャ。磨けというなら磨くが、根を上げるなよ。何もできないなどと思えなくなるように、めいっぱい愛してやる」
「あっ、あ……待って、あんぅ、あ……はぁ……ん」
「どんどん硬くなってくるな。ほら、分かるだろうマリィシャ」
 アレクとマリィシャ自身の指でこねられて、硬さと赤みを増していく。じんじんとうずくような快感を味わわされて、マリィシャはアレクの胸の下でのけぞった。
「アレク……あん、ぅ……はあっ……ん、気持ち、いい……」
 素直にそう答えたら、褒美だとでも言わんばかりに片方を舌でこね回され、吸われ、腰が揺れる。ひっきりなしに上がる声は、淫らな喘ぎに変わっていく。
「やだっ……あ、あぁ……んっ、はぁ……はぁっん、あ、や……、んッ」
 立ち上がる雄に絡みつく指に興奮して首を振るが、いやだと拒むふりをしておきながら、体は正直にアレクを求め、誘い込んだ。
「あぁ……っいや、そこ……っ」
 指を根元まで飲み込めば、腰が揺れる。体中そこかしこにアレクの熱を感じて、欲張りになった。
「やだ、アレク……っなぁ……もっと奥に……欲しい」
「指でいかせてほしいのか?」
「分かってるくせに、じらすなよ……っ」
 意地悪だ、と顔を背ければ、詫びのようなキスが頬に降ってくる。
 それも物足りなくて振り向き、唇へのキスをねだった。優しくて熱いキスで、さらに貪欲になる。腰を上げて押しつけ、そっとまぶたを持ち上げて視線を重ねた。
「アレク、お願い……」
「かわいいな、マリィシャ……っ」
「あ、あ……ぁっ……!」
 アレクの熱く滾る剛直が入り込んでくる。圧迫感に背をしならせても、ちゃんと抱き留めてくれる腕が嬉しい。マリィシャは大きく足を開いてアレクを受け入れ、律動に合わせて喘いだ。
 汗が、肌の上で光り落ちていく。肌がぶつかって音を立て、長い銀の髪がシーツの上を好きなように泳ぐ。のけぞった喉元に吸いつかれて、マリィシャはぞくぞくと背筋を震わせた。
「こ……んな、気持ちいいの、むり……だめ、アレク……ぅ」
「根を上げるには早すぎるぞ……まだ、愛し足りない」
 アレクの手が頬を包み、じっと見つめられたまま口づけを受ける。青い瞳にこもる熱が嬉しいのと同時に恥ずかしくて、逸らそうとするのに、もったいなくてできやしない。
「んっ、んぅ、む……んぁ……っふ」
 情欲に濡れたその瞳に、マリィシャこそ欲情する。全身を求められたいと、全身でアレクを求めて締めつけた。
「……かわいいことをするな」
「だっ……て、もっと、欲し…い、ぁ、あ……! い……っあ、ぁあッ……ん」
 熱が体を駆け巡る。
 指の先まで、髪の先まで、満ち足りていく気分だった。
「アレク、アレク……っ好き、も、おねが……もっと、もっと奥」

 この熱にとけて、とろけて、ひとつになれたらいいのに。

 そう思う気持ちが、焦るようにアレクを求める。
「マリィシャ、大丈夫だ……放さないと、言った、だろう……っ」
「あ、あっ、あ……!」
 マリィシャの不安を拭うように、アレクはゆっくりと押し込み、腰を引き、強く抱きしめてくる。じわじわと続く快感に不安が去った頃、アレクがぐっと奥まで入り込んできた。初めて感じるその刺激に、ぐんと背をしならせた。
「あ……っ」
 胸元に光るルビーとサファイアに口づけて、左手には強く指を絡めてくれる。
 ぞくぞくと歓喜が快感に変わる。
「アレク、愛してる……あい、して……っあ、あぁ……」
「愛している、マリィシャ……」
 腰が合わさって、はじけて、息が止まりそうなほどの快感の中で、幸福に包まれた。

 アレクの手が、なだめるように肩を、腕をなでてくれる。それを追いかけるかのように、またいくつもの石がこぼれ落ちてきた。
 愛して、愛されて、生まれてくる宝石。
 拾い集める暇もないほど、後から後からあふれてくる。マリィシャ自身にも止められない。
 仕方ないなというように、高められた熱をキスでなだめて癒やし、抱きしめ合って眠った。


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