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潰れそうな工場に出資してみた

1話

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午後七時。
俺は退社して待ち合わせ場所に向かった。

俺と同じようにスーツ姿で待ち合わせをしている人が大量にいた。
メッセージボックスを確認すると連絡が来ていた。

「作業着か…」

相手は作業着を着て待っているとのことだった。
スーツの人々の中で一人、浮いているのを見つけた。

「どーも、山下さんですか?」

「は、はい、そうです…」

作業着姿の弱弱しい男が答えた。

「よろしく、じゃ、移動しよっか」

小さく頷いた山下さんは俺の後ろをついてくる。

「あんた、ホントに山下さんって名前?ああいうのって偽名で登録すんじゃねーの?」

「あ、出資してもらう側は偽名での登録が禁止なんです…」

「へー…めんどくせぇんだな」

「は、はい…その代り、お金をいただけるので…」

「まぁ、そっか」

しばらく歩くと目的地のホテルについた。

「入るぞ~」

山下さんが俺の後をおとなしくついてくる。

フロントで鍵を受け取り、エレベーターで部屋にむかう。
その間、お互いに無言だった。

部屋に入るとなんだかため息が出た。

「先にシャワーどうぞ」

山下さんに言った。
彼はおずおずと頷くとシャワールームに入っていった。

手持無沙汰だったのでテレビをかけて眺めていた。

「あ、あの…」

気付くと山下さんはシャワールームから戻ってきた。

「ん、俺、シャワー行ってくるから待ってて」

「は、はい」

俺はそそくさとシャワーを浴びて部屋に戻った。
山下さんはベットの端に腰かけてぼーっとテレビを見ていた。

年の頃は50くらいだろうか。
どことなく、いつも仕事を押し付けてくる嫌味な部長に似てる気がした。

「お待たせ」

声をかけるとビクッと山下さんが飛び上がった。

「お、おかえりなさい…」

「ふっ、ただいま」

山下さんの隣に腰かけた。

「こういうこと、するの初めて?」

「は、はい…」

「え、まじで?」

どうりで緊張感が半端ないと思った。

「工場、そんなにやばいの?」

「去年、親父が死んで、跡を継いだんですけどなかなか上手く経営できなくて…お金借りようと思ったんですけど、貸してくれるところもなくて、それで困ってたら紹介してくれる人がいて…」

「へぇ、じゃあ最近始めたばっかりなんだ」

「はい、まだ一ヶ月くらいで…でもこんなオヤジに出資してくれたの、初めてだったんです。本当にありがとうございます…」

たった50万程度で工場が立て直せるとも思えないが良かったのだろうか。

「男とやったことは?」

「な、ないです」

「家族は?」

「妻とは先月離婚しました…」

「ふーん」

なんか山下さんが捨てられた子犬のように見えてきた。
同情心が芽生えたとでも言おうか。

不意に頭を撫でてみた。
山下さんは驚いた表情でうつむいていた顔をあげた。

「苦労してんだな」

「い、いえいえ…」

「なんかやりずれーな」

「す、すいません…」

しょうがないからとびっきり優しく抱いてやろうと心にもなく思った。



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