幼馴染からの好意に気づくまでだいぶ時間がかかったある男の話

浅上秀

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苦労して実家のありがたみを感じながらもなんとか二人暮らしをしながらいよいよ大学を卒業する年になった。
卒論に追われてちょっとおかしくなったりもしながら、二人は何とか卒業要件を満たして、就活もこなして春から無事に社会人になる目途が立つ。



ユウタは兼ねてから大手の商社を狙っていた。
人当たりの良さとモテ具合が上手いくらいに作用して、採用通知があふれていた。
それに対してカイトはこのまま大学に残って研究を続けることも考えたが、院の学費や受験料を考えると母親への負担も自身の負担も厳しいことを悟り、泣く泣く就職の道を選んだのである。

「就活、どう?」

カイトとユウタは珍しく二人で夕食を共にする時間が取れたので、近くのファミレスに来ている。
ユウタが思いつめた様子のカイトに尋ねる。

「う~ん、中々内定もらえなくてしんどいし、やりたいことも別に思いつかないから面接も話しにくいし、ぶっちゃけもう辞めたい…」

ユウタは机の上に臥せったカイトの頭を撫でる。

「本当にしんどいなら僕が養うからやめてもいいんだよ?」

「なっ、ユウタにそんなことさせられねぇよ!」

「そう?いい案だと思ったんだけどな」

そんなこんなでようやく内定をもぎ取ったカイトも無事に就職先が決まったのだった。



「もう卒業だけどどうする?」

「なにが?」

二人でスーツを選んできた帰り道のことだった。

「同棲、このまま続ける?」

「俺は別にいいけど…」

カイトとしては家賃がお手頃なので助かっていた。

「最初は反対してたくせに」

「う、うるせぇ!!」

「僕も色々と助かるからしばらくお金がたまるまでは一緒に住もうか」

ユウタの何かを含んだ笑顔にカイトは違和感を覚えながらも頷くのだった。



やがて春が来て二人は新入社員として会社に勤め始めた。
お互いにそこそこ激務で毎日家に帰っては寝て、朝食を食べて出勤して、また帰宅しては眠っての繰り返しだった。
休日は昼間で惰眠をむざぼってだらだらと平日に後回しにしていた家事をする。
そんな日々が半年ほど続いてからようやく落ち着きを見せ始めたものの、顔を合わせたり会話をする時間が学生の頃より減ったのはお互いに感じていた。

カイトは営業職に就いていることもあり、飲み会に行く機会が格段に増えた。
飲み会の席では必ず、恋人の話になりがちだ。
話を開く限り、周りは皆恋人がいるようだ。

「俺、もしかしてこのままだと魔法使いになっちゃう…!?」

カイトの中で危機感がひっそりと募っていくのだった。



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