上 下
1 / 13

1

しおりを挟む
ここに一人の男がいる。
彼は居酒屋で何杯目かカウントするのも忘れたほど飲んだビールのジョッキを片手に管を巻いている。

「だぁああああー!なんで!俺には!恋人ができねぇんだ!!!」

ダンっと鈍い音を立てて空になったビールのジョッキが机に叩きつけられる。

「おいおい、飲みすぎだって」

さめざめと泣き始めた彼の向かい側に座っている男はとても冷静に彼の手からジョッキを取り上げる。
そしてジョッキの代わりに水の入ったグラスを握らせた。

「だってよぉ…」

すると男は水をガブガブ飲みながら再び嘆き始めた。
空のジョッキを隅によけた男はあきれ顔で眺めている。

「別にいいと思うぞ、年齢イコール恋人いない歴だとしても」

「よくねぇよ!」

彼は再び机に勢いよくグラスを叩きつけた。
今度は水がたっぷり入っていたので、びちゃりと机の上にこぼれてしまった。

「落ち着けって」

向かい側に座る男はこぼれた水を机に備え付けられた紙ナプキンで丁寧に拭っていく。

「おまえはいいよな!昔っから同性にも異性にもモテモテでよぉ!恋人途切れたとこ見たことねぇぞ…それに対して俺は…」

今度は机の上に突っ伏して号泣し始めてしまった。

「はぁ…」

紙ナプキンを端によけた男はため息をつくのだった。



酔うと泣き上戸になり、己の現状を嘆いているのは男の名はカイト。
今年で年は24歳になる。
彼曰く今まで生きていて一度も恋人ができたことはない、らしい。

そんな彼の向かい側に座っていてすべてを冷静に事を処理し続ける男、ユウタ。
カイトとは幼少のころからの幼馴染である。
彼は同性からも異性からもモテ続けて24年。
恋人が途切れたことはないともっぱらの噂だがその真相やいかに…。

この世界では異性だけの恋愛だけでなく、同性との恋愛、結婚も広く認められている。
それだけでなく、愛には年齢なんて関係ないと言わんばかりに年の差恋愛も推奨されている。
そのため幼いころから様々な恋愛沙汰に巻き込まれて生きている人間がほとんどだ。

幼稚園児が三角関係の修羅場、小学生が三股、中学生が…子供に限ってバイオレンスになりがちなこの世の中に生まれて荒波に飲まれる人が多い中で、これらのこととほぼほぼ無縁に生きてきたカイト。

彼自身、どうして自分に恋人ができないのかわからない。
外見もさして悪いわけでもなく、内面も優しく穏やかだ。
そう、いい意味でも悪い意味でも特徴のない男。

そしてユウタはというと修羅場に初めて巻き込まれたのは三歳のころだった。
当時の保育園の先生と園児に取り合いになった時である。
ちなみに当事者のユウタには全く修羅場の自覚はなかった。

カイトは長年、ユウタが爆裂にモテる様子を隣で観察しながら、自分の活かそうとして失敗したことしかなかった。

「なぁ、おまえ、覚えてるか?」

泣き顔を机からようやくあげたカイトがユウタに尋ねる。

「なにを?」

ユウタは机の向かい側から手を伸ばして新しい温かいおしぼりでカイトの涙をぬぐう。

「その…俺と…会った日のこと…」

カイトは顔を拭かれながらつぶやく。

「もちろん」

ユウタは笑顔で答える。
カイトはユウタの顔を眺めながらお酒も相まってぼんやりし始めた意識の中で、カイトは今までの人生を思い返していた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

女装趣味がバレてイケメン優等生のオモチャになりました

都茉莉
BL
仁科幸成15歳、趣味−−女装。 うっかり女装バレし、クラスメイト・宮下秀次に脅されて、オモチャと称され振り回される日々が始まった。

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川パナ
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

俺にはラブラブな超絶イケメンのスパダリ彼氏がいるので、王道学園とやらに無理やり巻き込まないでくださいっ!!

しおりんごん
BL
俺の名前は 笹島 小太郎 高校2年生のちょっと激しめの甘党 顔は可もなく不可もなく、、、と思いたい 身長は170、、、行ってる、、、し ウルセェ!本人が言ってるんだからほんとなんだよ! そんな比較的どこにでもいそうな人柄の俺だが少し周りと違うことがあって、、、 それは、、、 俺には超絶ラブラブなイケメン彼氏がいるのだ!!! 容姿端麗、文武両道 金髪碧眼(ロシアの血が多く入ってるかららしい) 一つ下の学年で、通ってる高校は違うけど、一週間に一度は放課後デートを欠かさないそんなスパダリ完璧彼氏! 名前を堂坂レオンくん! 俺はレオンが大好きだし、レオンも俺が大好きで (自己肯定感が高すぎるって? 実は付き合いたての時に、なんで俺なんか、、、って1人で考えて喧嘩して 結局レオンからわからせという名のおしお、(re 、、、ま、まぁレオンからわかりやすすぎる愛情を一思いに受けてたらそりゃ自身も出るわなっていうこと!) ちょうどこの春レオンが高校に上がって、それでも変わりないラブラブな生活を送っていたんだけど なんとある日空から人が降って来て! ※ファンタジーでもなんでもなく、物理的に降って来たんだ 信じられるか?いや、信じろ 腐ってる姉さんたちが言うには、そいつはみんな大好き王道転校生! 、、、ってなんだ? 兎にも角にも、そいつが現れてから俺の高校がおかしくなってる? いやなんだよ平凡巻き込まれ役って! あーもう!そんな睨むな!牽制するな! 俺には超絶ラブラブな彼氏がいるからそっちのいざこざに巻き込まないでくださいっ!!! ※主人公は固定カプ、、、というか、初っ端から2人でイチャイチャしてるし、ずっと変わりません ※同姓同士の婚姻が認められている世界線での話です ※王道学園とはなんぞや?という人のために一応説明を載せていますが、私には文才が圧倒的に足りないのでわからないままでしたら、他の方の作品を参照していただきたいです🙇‍♀️ ※シリアスは皆無です 終始ドタバタイチャイチャラブコメディでおとどけします

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

処理中です...