開発されに通院中

初めて旅行に行きます編

1話

「なぁ、今度温泉でも行かない？」

真壁がパンフレット片手に近藤に話しかけてくる。
リビングのソファでスマホゲームをやっていた近藤は画面を閉じるとパンフレットを一緒に覗き込む。

「お、いいな」

「休み合わせて行こうよ」

真壁はスケジュールアプリを開いた。

「こことかどう？」

「いいけど…連休はやっぱり高くないか？」

「でも平日だと猛が休み取りにくくない？」

「まぁ…」

二人で話し合って来月の連休に決めた。
場所や予約などは全て真壁がやるようだ。

「はは、楽しみだね」

「そうだな」

…

そう二人で話していたのは一週間前のことだった。
その日の昼休み、近藤はやることがあったため自分のデスクで仕事をしながらおにぎりを頬張っていた。

「おお、いいなそれ」

「でしょ！」

先日飲み会の感じをしていた後輩と近藤になついている後輩女性社員の二人が笑いながら帰ってきた。

「どうしたんだ？何か面白いことでもあったのか？」

たまたまいた部長が二人に声をかける。

「今度、この部のみんなで温泉にでも行きませんか？」

女性社員が部長に言う。

「温泉？」

「この前の飲み会に参加できなかった人もいるから親睦会を兼ねてどうかって」

後輩が答える。

「慰安旅行にいいかもな」

部長は顎をさすりながら考えている。

「あ、近藤さん！近藤さんはどう思いますか？」

近藤は仕事に集中していて話を全く聞いていなかった。

「は？」

おにぎりを飲み込んで三人を見る。

「温泉旅行ですよ！」

「…いいんじゃないですか」

近藤は深く考えずに答えるとすぐにパソコンに向かう。

「ほら！近藤さんもああ言ってらっしゃいますし！」

女性社員が飛び跳ねるように言う。

「まぁ検討してみようか」

部長はふむふむと席に戻っていった。

「やったね」

「ああ」

後輩二人も嬉しそうに自分のデスクに戻っていく。
近藤は温泉旅行というワードを聞いて、真壁との旅行に思いをはせた。

「楽しみだな…」

ぼそりと呟いたのが偶然、近くを通りかかった女性社員の耳に入ったようで、勘違いした彼女は笑みを深めていた。