おじさんとボク

帰省デート

初めての帰省

「ふぅ、家事をしなくてもいいって楽ですねぇ」

一年の暮れである大晦日。
ミノルくんは実家に帰って来ていた。
こたつの中で足を温めながら母親の入れてくれたお茶を飲んでテレビを見ている。

「明日は初詣に行くのかい？」

同じくこたつで寛いでいる父親がミノルくんに尋ねる。

「うん、そのつもり」

「お友達と一緒に？」

「まぁ、そんな感じかな」

「そうかそうか」

父は嬉しそうにお茶をすすっているが、ミノルくんが明日一緒に過ごすのは本当は友達とではないのだ。

…

除夜の鐘の音を聞いているうちに日付が変わり、気付くと元日の朝を迎えていた。

「行ってきます」

「気を付けてね」

家族に送り出されてミノルくんは近所の神社の前にむかった。

「あ、来た来た、ミノルくん、こっちだよ」

「おじさん」が手招きをしている。

「先生～！！」

ミノルくんが手招きをしていた「おじさん」にトテトテと近づく。

「あけましておねでとう、ミノルくん、久しぶりだね」

「はい！先生こそお元気でしたか？」

「はは、元気だよ」

「おじさん」はミノルくんの高校の時の担任だった。
進路指導や様々な相談に乗ってくれた。
たまたま先日、SNSで連絡を取ることができて今日のデートに繋がっている。

「それじゃあ行こうか」

「はい」

…

境内はお昼を過ぎたにもかかわらず多くの人でにぎわっている。

「先生、はぐれないようにココ、掴んでてもいいですか？」

「もちろんだよ」

先生のジャンパーの裾から出ている紐をミノルくんは嬉しそうに掴む。
やっとの思いで二人は賽銭箱までたどり着き、神様にお参りをした。

「折角だし甘酒でも飲もうか」

「ぜひ」

参道の屋台で甘酒とおしるこを買った。
駐車場の奥にあるベンチには幸い誰もいなかったので二人で腰かけた。

「あっつつ」

ふーふーしながらミノルくんは甘酒を飲んでいる。
「おじさん」は嬉しそうにそんなミノルくんを眺めていた。

「元気に大学に通っているみたいで安心したよ。一人暮らしもどうだい？」

「最初はいろいろ不安だったのですがなんとか。先生のおかげで楽しいですよ」

頬を赤く染めながらミノルくんは答えた。
「おじさん」は満足そうにうなずいて自分の甘酒を一口飲んだ。

「先生は今年も学校にいらっしゃるんですか？」

「いいや、異動になりそうなんだ」

「えぇ、寂しくなります…」

「異動してもでもこうやってまた一緒に遊びに行ってくれると嬉しいなぁ」

「ももちろんですよ」

ミノルくんは口の端におしるこのあんこをつけながら満面の笑みで答える。

「ははは、かわいいなぁ、付いてるよ」

「おじさん」はミノルくんの口元に手を伸ばすとあんこを拭い指を舐めた。

「甘いな」

「ふふ、おいしいですよ。一口どうですか？」

ミノルくんがカップごと差し出す。

「いや、いいよ、一人で食べなさい」

「は～い」