おじさんとボク

浅上秀

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魅惑の水族館デート

夜の水族館は大人の場所?

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エレベーターを降りて入場料を受付で支払い、二人は館内に入った。

「うわぁ」

暗幕のような入り口のカーテンをくぐる。
入ってすぐに水槽が現れた。
ネオンに照らされた水槽にクラゲが泳いでいる。

「ほぉ」

泳ぐクラゲをしばらく黙って二人で眺めている。
館内のBGMだけが二人の耳を揺らした。
移り変わるネオンカラーに合わせるようにクラゲは自由に泳いでいる。
「おじさん」は身体の中にあった何か毒のようなものが浄化されていく気がした。
とても単純ではあるが。

「綺麗ですねぇ」

ミノルくんは人差し指で水槽のガラスに触れた。
指先からヒヤっとした感覚が伝わる。

「だね。他にも色々あるみたいだから行こうか」

「はい!」

順路の矢印に沿って二人は並んで歩き始める。
クラゲの次は海洋生物の水槽が展示されていた。

「カスピ海ってどこにあるんでしょう」

ミノルくんが水槽の横の説明書きと睨めっこしている。

「はは、カスピ海は中央アジアと東ヨーロッパの境界にある湖だよ」

「え?海じゃないんですか!?」

ミノルくんは目を白黒させている。

「不思議だよね。一応、世界最大の湖なんだよ」

「ほへぇ」

変な声を出しながら未知の海洋生物を眺めているミノルくんの横顔を眺めながら「おじさん」は思った。
会社の連中がみんなミノルくんみたいに純粋でやる気に満ち溢れていたら、と。
「おじさん」ってだけで俺のことをどいつも…となぜか先ほど癒されたはずの怒りが込み上げてきた。

「どうかされましたか?」

「い、いやいやなんでもないよ。さ、次の水槽でも見に行こうか」

「はい」

次の部屋は小さな水槽が柱のようにたくさん並んでいてまるで神殿にいるような雰囲気だ。

「うわぁ、小さなお魚さんがたくさんですね」

水槽に顔を近づけてミノルくんは覗き込んでいる。

「本当だ、かわいいね」

「おじさん」もミノルくんに習って顔を近づけて水槽を覗き込む。
小さいながらも懸命に動く魚たちを見ているとまたもや湧きあがった怒りが鎮火されていく。
飽きたら隣の水槽を覗き込み、二人でゆったりと静かな時間を過ごした。

「小さな水槽でも十分すごいですね」

「うん、大きな水族館にある巨大な水槽もいいけどこれはこれでいいなぁ」

「おじさん」は昔、家族といった有名な水族館のサメなどの巨大な魚が闊歩する水槽を思い出していた。

「ここにも大きな水槽があるみたいですよ」

パンフレットを見たミノルくんがその一部を指差す。

「そっか、行ってみるかい?」

「ぜひぜひ!」

薄暗い中でもミノルくんの目の輝きが見えた。
「おじさん」の口角は無意識に上がっていた。

「早く行きましょうよ!」

「走らなくても水槽は逃げないよ」

「えへへ」



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