おじさんとボク

浅上秀

文字の大きさ
上 下
14 / 31
憧れの遊園地デート

駆け足の帰り道

しおりを挟む
「今日は本当にありがとうございました」

閉園のアナウンスが流れる中、二人でメインストリートを歩く。
ミノルくんも手にも「おじさん」の手にも、園内のお土産店の紙袋が握られている。

「いやいや、こちらこそ。ありがとう」

「おじさん」はじんわりと心の中が温まった気がしていた。
遠い昔に無くしてしまった家族との思い出のかけらを取り戻した気がしたのだ。

「ふふ、また来たいです」

大きな門を潜り抜け、振り向いた遊園地に向かってミノルくんがそうつぶやく。

「次は恋人と行ってみるといいよ」

「恋人ですか?」

ミノルくんのきょとんとした眼差しに「おじさん」は昔、妻と二人きりで来たことをミノルくんに話して聞かせる。

「妻との初めてのデートで来たときにね、色々と素敵な思い出をもらったんだ。だから子供が大きくなったらまた来ようって子供を連れてったんだけど…」

「おじさん」は話しながら遊園地から足が動かなくなってしまっていた。

「大丈夫ですか?電車、そろそろ来ちゃいますよ?」

遊園地駅が始発駅になっている電車は終電時間が早い。
腕時計を確認するとあと数分で終電が来てしまう。

「たたた、大変だ!急ごうか!」

二人は紙袋をガサガサ言わせながら改札へと走った。



「ふぅ」

「間に合ってよかったですね」

なんとか二人掛けの空いている席に滑り込んだ。
車窓からは落ちていく日の中に遊園地の後ろ姿が見える。

「楽しかったかな?」

窓の外を眺めるミノルくんに「おじさん」は尋ねる。

「はい!もちろんです!」

振り返ったミノルくんの笑顔は今日一番輝いていた。
目的の駅に着くまでの間、「おじさん」が今日撮ったミノルくんの写真を一緒に眺めながら二人で一日を振り返る。

「どのアトラクションが一番好き?」

「う~ん、決められないです…」

「おじさん」のカメラをのぞき込みながらミノルくんは答える。

「そうかいそうかい」

「おじさん」がカメラのボタンを押すたびに、ミノルくんの知らないミノルくんの表情がどんどん映し出される。

「僕、こんな顔してるんですね…」

笑顔だったり、困り顔だったり、ミノルくんの自然の表情がそこにはたくさん映し出されていた。

「はは、気に入ったのかな?後で送っておくね」

「はい!ありがとうございます!お写真撮るのお上手なんですね」

ピントがぶれたり、被写体がそれている写真がひとつもない。

「あぁ、昔からよく家族でどこか行くたびにカメラマンをしていたからかな」

「そうなんですか!じゃあ僕もカメラマンさんやってみてもいいですか?」

そういうとミノルくんは「おじさん」のカメラを拝借する。

「えへへ、ハイチーズ」

何枚かたて続けに写真を撮ったようで、シャッター音が連続して聞こえる。

「あ、あれぇ?ぶれちゃってる…」

確認するとやっぱりて慣れていないせいか、電車の揺れに負けてぶれている写真が多かった。

「でも撮ってくれて嬉しいよ。被写体なんてやったの何年ぶりかなぁ」

「おじさん」はミノルくんの撮ったぶれた写真も喜んでくれた。



あっという間にお別れの時間になってしまった。

「また、どこか行こうね」

「はい、ぜひ!」

ブンブンと手を振って離れていくミノルくんの後ろ姿を最後に一枚、カメラに収める。
自宅に向かって歩き始めた「おじさん」の携帯にメッセージが送られてきた。

「今日のお礼ですって、ミノルくんメール打つの早いなぁ」

開いてみると画像が添付されていた。

「…ははは、俺ってこんな顔で笑ってるのか」

それは「おじさん」が家族の話をしていた時にミノルくんが携帯でこっそり撮った写真だった。

「久しぶりに家族旅行でも提案してみるか」

いつもは憂鬱な自宅への帰り道が少し軽やかになった「おじさん」なのであった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ショタ18禁読み切り詰め合わせ

ichiko
BL
今まで書きためたショタ物の小説です。フェチ全開で欲望のままに書いているので閲覧注意です。スポーツユニフォーム姿の少年にあんな事やこんな事をみたいな内容が多いです。

少年はメスにもなる

碧碧
BL
「少年はオスになる」の続編です。単体でも読めます。 監禁された少年が前立腺と尿道の開発をされるお話。 フラット貞操帯、媚薬、焦らし(ほんのり)、小スカ、大スカ(ほんのり)、腸内洗浄、メスイキ、エネマグラ、連続絶頂、前立腺責め、尿道責め、亀頭責め(ほんのり)、プロステートチップ、攻めに媚薬、攻めの射精我慢、攻め喘ぎ(押し殺し系)、見られながらの性行為などがあります。 挿入ありです。本編では調教師×ショタ、調教師×ショタ×モブショタの3Pもありますので閲覧ご注意ください。 番外編では全て小スカでの絶頂があり、とにかくラブラブ甘々恋人セックスしています。堅物おじさん調教師がすっかり溺愛攻めとなりました。 早熟→恋人セックス。受けに煽られる攻め。受けが飲精します。 成熟→調教プレイ。乳首責めや射精我慢、オナホ腰振り、オナホに入れながらセックスなど。攻めが受けの前で自慰、飲精、攻めフェラもあります。 完熟(前編)→3年後と10年後の話。乳首責め、甘イキ、攻めが受けの中で潮吹き、攻めに手コキ、飲精など。 完熟(後編)→ほぼエロのみ。15年後の話。調教プレイ。乳首責め、射精我慢、甘イキ、脳イキ、キスイキ、亀頭責め、ローションガーゼ、オナホ、オナホコキ、潮吹き、睡姦、連続絶頂、メスイキなど。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

おとなのための保育所

あーる
BL
逆トイレトレーニングをしながらそこの先生になるために学ぶところ。 見た目はおとな 排泄は赤ちゃん(お漏らししたら泣いちゃう)

処理中です...