君に残してあげられるもの

浅上秀

文字の大きさ
上 下
2 / 2

後編

しおりを挟む
毎日、毎日、ただ呼吸して生きていた。

「はぁ」

せっかく行きたかった大学に入学し、かわいい彼女もできて人生これからのはずなのに。
そんな時に風邪で病院に行って検査したら難病と診断され、まさかの余命は一年。
絶望感のせいで彼女とデートもする気になれなかった。

「どうしろって言うんだよ」

俺はいつ死ぬのだろうか。
その恐怖だけが毎日心を占めていた。
彼女にそっけなくしているのは感じていた。
しかしどんなに冷たくしても受け止めてくれる彼女は俺にとって救いだった。

「病院行くのめんどくさいな」

通院が本当に苦痛だった。



その日、彼女はどうしても来週のこの日に俺に会いたいと言ってきた。
しかしすでに病院の予約が入っていたので断った。
それから少しだけ彼女の様子がおかしかった気がする。

「あー、明日も病院か」

家に帰ってベットに寝転がりながら携帯を弄る。
するとカレンダーアプリに一件の通知が入った。

「忘れてた。明日誕生日だ」

明日は彼女の誕生日だった。
だから彼女は明日会いたいとごねていたのか。
病院の診察に気を取られていて何もプレゼントを用意してなかった。

「しょうがない…花でも買うか」

大学の授業終わりに花屋にでも寄ろう。



「えっと、こっちか」

彼女の家には一度だけ行ったことがあった。
それとなく家の場所と今日家にいるかは確認してある。
病院が思ったより早く終わったのでサプライズで花束を届けようと思った。
彼女には連絡せずに彼女の家に向かう。

歩いて公園の近くに差し掛かった時、後ろからけたたましい音を立てて救急車が俺を抜いていった。
救急車を視線で追いかけるとガードレールにトラックが突っ込んでいるのが見える。

「うっわ、ひどい事故だな」

俺は事故現場や人の喧騒を避けながら彼女の家にむかった。
彼女の家のインターホンをならずが誰も出てこない。

「いねぇのかよ。それとも拗ねてんのか?」

携帯を鳴らしても出ない。

「はぁ、めんどくせぇ」

結局、彼女に渡せなかった花束を持ち帰り自分の母親に手渡した。
泣いて喜んでくれたが心は晴れなかった。

夕食のカレーを食べながらテレビを見ていた時だった。

「先ほど○○で大型トラックが歩道に突っ込み通行人の女性を巻き込みました。女性は病院に搬送されましたが意識不明の重体です」

嫌な予感がした。
携帯をみると知らない番号から着信が来ている。
震える手で電話に出る。

「はい、もしもし」



「ちょっと、健!こんな時間にどこに行くの!!」

母親の声を背中に慌てて家を飛び出した。
こんなに走ったのはいつぶりだろうか。
なんとかタクシーを拾って病院に駆けつける。
ナースステーションで看護師に声をかける。

「あの、で、電話をもらった、あの、あの」

「こちらです!」

看護師の後ろを追いかける。
その時間が何時間にも感じた。
広い部屋のベットの上、管と包帯だらけの彼女が横たわっていた。
彼女は真っ白だった。
でもその手に触れるとほんのり暖かい。

「なんで、こんなことに」

手を握りながら俺の瞳から涙が零れ落ちる。

その時だった。
けたたましい機械の音が鳴り響き、医者と看護師が駆け込んできた。

「どけてください!」

彼女から俺は引きはがされる。
周りは必死で彼女をこの世につなぎとめようとしている。
心臓マッサージで彼女の身体はなんどもベットから飛び跳ねた。
しかしそのかいもなく無慈悲な機械の音が部屋中に響いた。

俺はこの時、本当の絶望に襲われたのだった。



真っ白な絶望の中、俺は夢の中にいた。

「おまえがか」

声が響く。

「誰だ」

俺の声も響いた。

「我は人の寿命を司るもの、人は我を死神と呼ぶ」

「死神」

「案ずるな、ただ伝言を頼まれただけだ」

「頼まれたって誰に…」

「おまえに命を分けた彼女に決まっているだろう」

沈黙が流れた。

「命を、分けた」

「あぁ、彼女が言ったんだ。余命いくばくのお前に彼女の命の時間を分け与えると。ついでに伝言も預かったぞ」

「待ってくれ、一体何がどうなっているんだ、ちゃんと説明を…」

「そんな時間はない」

死神は冷たく俺の言葉をあしらった。
刹那、彼女の最期の声が聞こえた。



「彼がいなきゃ私は生きていけない。でも彼は私がいなくても生きていられるから、きっと大丈夫」

それを最後に消えていった。




しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

処理中です...