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第一章 初めての夜
1話
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それは突然のことだった。
その日、グレンはクエストの完了報告をしにギルドを訪れていた。
「ねぇ聞いた?騎士団のあの有名なマルク様の話!」
「えぇ、何でもついにご婚約なさったとか」
「だって騎士団長に一番近い存在って言われてらっしゃるものね」
「ほんと、学生時代から婚約者がいらっしゃらないことが不思議だったくらいよね」
ギルドの受付嬢たちが会話しているのを偶然耳にしてしまったのだ。
内容は幼馴染のマルクの話。
マルクは昔から賢くて器用だった。
学生時代から首席で出世街道まっしぐら。
なのに一度も彼女がいたことはなく、婚約者も存在しなかった。
「今になって…なんでだよ…」
グレンはかなわないと思いながらも幼いころからマルクに恋慕の情を抱いていた。
たしかに騎士団長ともなれば社交界に顔を出す機会も増え、パートナーも必要になるだろう。
またマルクは長男なので跡取りのことも考えなくてはならない。
それに反して自分はただの冒険者であり、いつもマルクに対して引け目があった。
クエストをこなしてお金を稼ぐ日々。
頭が良い訳でもないし出世街道にのっているわけでもない。
しかし持ち前の運動能力、剣術を生かして幼いころから憧れていた冒険者になったのだ。
またグレンは三男なので跡取りや嫁のことはそんなに考えていなかった。
「もう、いいかな…」
グレンは無意識に自分のアッシュグレーの髪を片手でかきまぜた。
マルクへの思いを断ち切り、これを機に一人で生きていこうかなどと考えていた。
そんな時だった。
「おーい、グレン、次のクエストは決まった?」
前に別のクエストで一緒になった冒険者が声をかけてきた。
「よぉ、今帰ってきたばっかりだから、全然考えてなかった」
「おぅ、それはお疲れ」
彼は笑顔でグレンの背を叩いた。
「グレンに相談なんだけどよ、俺含めた何人かの冒険者でパーティ組んで例のダンジョンに行こうと思っててさ。お前も一緒にどうよ?」
「え、例のダンジョンってまさか…」
「そうよ、国内最難関のあ そ こ」
グレンの国にはいくつかダンジョンがあり、その中でも最高難易度のダンジョンは毎年命を落とすものも多くいる危険なものだった。
グレンは命を捧げてまで冒険をしたいと考えていなかったため今まで挑戦したことはなかった。
「まぁ命の保証はできねぇけど、一生の思い出にはなんだろ?考えといてくれよ」
「あ、あぁ…」
「良い返事、期待してるぜ」
そういうと彼は片手をひらひらさせて去っていった。
…
グレンはあのあとギルドを出て行ったん帰宅した。
シャワーを浴びて普段着に着替えているとマルクから連絡が入った。
久しぶりに一緒に飲まないかというお誘いだった。
グレンは二つ返事で了承した
「最難関のダンジョンかぁ…行くの、ありかもな…」
マルクが本当に婚約したのであればもう自分の思いは報われない。
いっそのことダンジョンに行って命を散らしてしまった方が何も未練は残らないんじゃないか。
そしてグレンは決意した。
「よし、明日、行くって返事してこよう」
…
待ち合わせの飲み屋に行くとマルクはまだ来ていなかった。
先にビールとおつまみを注文してグレンは待っていた。
しばらくするとマルクが現われ足早にグレンのいるテーブルに近づいて来た。
「やあ、グレン、久しぶり」
「お、おう、久しぶりだな、マルク」
マルクは皺ひとつない真っ白なシャツに革のベルトに剣をさし、黒のスラックスを身につけていた。
彼のハニーブロンドの髪はあいかわらずサラサラとしていて、オリーブ色の瞳がグレンを捉えていた。
「先に注文しといた」
「あ、遅くなってごめんね。ありがとう」
「別に…忙しいんだろ?」
「うん、まぁね…ようやくひと段落付いたとこ。これからちょっとは暇になるといいな」
ビールで乾杯してから、おつまみを食べながら他愛もない話をしていた。
ある程度に酔いが回ってきたグレンはマルクにあの話題を切り出した。
「そういえばマルク、婚約したんだって?おめでとう」
「え、その話どこで?」
「今日、ギルドに行ったらみんなが噂してたよ」
「あ、そうなんだ…」
「で、相手は?どんな子なんだ?」
「あー、いや、その話、今はいいだろ?グレンこそ、なんかないのかよ」
「俺はなんもないよ…」
グレンはマルクにはぐらされたことに気付いていた。
楽しく話していた気持ちがしぼんでいく。
「仕事とか、なんかあるだろ?」
「うーん、仕事か…」
ふとダンジョンの話を思い出した。
「そういえば、あのダンジョンに行こうと思ってるんだ」
「あのダンジョンってまさか…」
「うん、一番難しいとこ」
マルクの表情が急に険しくなった。
その日、グレンはクエストの完了報告をしにギルドを訪れていた。
「ねぇ聞いた?騎士団のあの有名なマルク様の話!」
「えぇ、何でもついにご婚約なさったとか」
「だって騎士団長に一番近い存在って言われてらっしゃるものね」
「ほんと、学生時代から婚約者がいらっしゃらないことが不思議だったくらいよね」
ギルドの受付嬢たちが会話しているのを偶然耳にしてしまったのだ。
内容は幼馴染のマルクの話。
マルクは昔から賢くて器用だった。
学生時代から首席で出世街道まっしぐら。
なのに一度も彼女がいたことはなく、婚約者も存在しなかった。
「今になって…なんでだよ…」
グレンはかなわないと思いながらも幼いころからマルクに恋慕の情を抱いていた。
たしかに騎士団長ともなれば社交界に顔を出す機会も増え、パートナーも必要になるだろう。
またマルクは長男なので跡取りのことも考えなくてはならない。
それに反して自分はただの冒険者であり、いつもマルクに対して引け目があった。
クエストをこなしてお金を稼ぐ日々。
頭が良い訳でもないし出世街道にのっているわけでもない。
しかし持ち前の運動能力、剣術を生かして幼いころから憧れていた冒険者になったのだ。
またグレンは三男なので跡取りや嫁のことはそんなに考えていなかった。
「もう、いいかな…」
グレンは無意識に自分のアッシュグレーの髪を片手でかきまぜた。
マルクへの思いを断ち切り、これを機に一人で生きていこうかなどと考えていた。
そんな時だった。
「おーい、グレン、次のクエストは決まった?」
前に別のクエストで一緒になった冒険者が声をかけてきた。
「よぉ、今帰ってきたばっかりだから、全然考えてなかった」
「おぅ、それはお疲れ」
彼は笑顔でグレンの背を叩いた。
「グレンに相談なんだけどよ、俺含めた何人かの冒険者でパーティ組んで例のダンジョンに行こうと思っててさ。お前も一緒にどうよ?」
「え、例のダンジョンってまさか…」
「そうよ、国内最難関のあ そ こ」
グレンの国にはいくつかダンジョンがあり、その中でも最高難易度のダンジョンは毎年命を落とすものも多くいる危険なものだった。
グレンは命を捧げてまで冒険をしたいと考えていなかったため今まで挑戦したことはなかった。
「まぁ命の保証はできねぇけど、一生の思い出にはなんだろ?考えといてくれよ」
「あ、あぁ…」
「良い返事、期待してるぜ」
そういうと彼は片手をひらひらさせて去っていった。
…
グレンはあのあとギルドを出て行ったん帰宅した。
シャワーを浴びて普段着に着替えているとマルクから連絡が入った。
久しぶりに一緒に飲まないかというお誘いだった。
グレンは二つ返事で了承した
「最難関のダンジョンかぁ…行くの、ありかもな…」
マルクが本当に婚約したのであればもう自分の思いは報われない。
いっそのことダンジョンに行って命を散らしてしまった方が何も未練は残らないんじゃないか。
そしてグレンは決意した。
「よし、明日、行くって返事してこよう」
…
待ち合わせの飲み屋に行くとマルクはまだ来ていなかった。
先にビールとおつまみを注文してグレンは待っていた。
しばらくするとマルクが現われ足早にグレンのいるテーブルに近づいて来た。
「やあ、グレン、久しぶり」
「お、おう、久しぶりだな、マルク」
マルクは皺ひとつない真っ白なシャツに革のベルトに剣をさし、黒のスラックスを身につけていた。
彼のハニーブロンドの髪はあいかわらずサラサラとしていて、オリーブ色の瞳がグレンを捉えていた。
「先に注文しといた」
「あ、遅くなってごめんね。ありがとう」
「別に…忙しいんだろ?」
「うん、まぁね…ようやくひと段落付いたとこ。これからちょっとは暇になるといいな」
ビールで乾杯してから、おつまみを食べながら他愛もない話をしていた。
ある程度に酔いが回ってきたグレンはマルクにあの話題を切り出した。
「そういえばマルク、婚約したんだって?おめでとう」
「え、その話どこで?」
「今日、ギルドに行ったらみんなが噂してたよ」
「あ、そうなんだ…」
「で、相手は?どんな子なんだ?」
「あー、いや、その話、今はいいだろ?グレンこそ、なんかないのかよ」
「俺はなんもないよ…」
グレンはマルクにはぐらされたことに気付いていた。
楽しく話していた気持ちがしぼんでいく。
「仕事とか、なんかあるだろ?」
「うーん、仕事か…」
ふとダンジョンの話を思い出した。
「そういえば、あのダンジョンに行こうと思ってるんだ」
「あのダンジョンってまさか…」
「うん、一番難しいとこ」
マルクの表情が急に険しくなった。
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