真実はゴミに潜む

浅上秀

文字の大きさ
上 下
11 / 12
会社の毒華

11話

しおりを挟む
「とりあえず話を進めましょう。前田さんはキダチチョウセンアサガオのつぼみがオクラに似ていることを利用して社長に食べさせたんだ。オクラを買ったけどちょっと苦かったから食べてみてほしいといえば簡単に毒とは疑わずに食べただろう」

「仮に、仮にですよ、私があの花に毒があると知っていたとしても社長に毒を盛るだなんて恐ろしいこと考えませんよ。第一、私には動機がないんですから」

ここでデンの出番だった。

「それはあんたが社長と不倫してたからっすよ」

「不倫?そんな証拠どこにあるんですか」

「これっす」

デンが取り出したのは偽の自身と梅迫の出張の旅程表を取り出した。

「社長の愛人との旅程表っす。あんたのSNSに同じ日にここの宿の写真が載ってたの、あれは偶然っすかね?」

「ぐ、偶然よ!偶然に決まっているわ」

「宿の人に電話して確認してみたんすよ。経費に不備があったんだけどあの日社長と来たのは誰でしたかって。そしたら女性だったって答えたんすよ。予約客の名前が男だからおかしいなって思ったけど男っぽい名前の女性もいるから突っ込まなかったって」

「でもその女性が私だっていう証拠はないでしょ。奥様だったかもしれないじゃない」

「警察に言えば防犯カメラとかで確認してもらえると思うんすけどね…まぁもっと確実な証拠がこっちにはあるんで」

「確実な、証拠?」

事務員は一瞬後ずさった。

「これ探すのが一番大変だったすよ」

それはデンと梅迫が鉢植え以外にあのゴミ山から見つけたとあるものだ。

「なんでそれが…あっ」

事務員はそれを見て思わず口を滑らせてしまったようだ。

「これが何かわかるんすね」

「し、知らない、そんなメモ知らないわ」

「メモって言ったことが証拠っすよ」

デンは裏返しにしたくしゃくしゃの紙を見せただけだった。
紙を表面にすると金に縁どられた可愛らしいカードが現れる。
その中心には少し特徴的な岳剛社長の癖のある太字でメッセージが書かれていた。

「今日、17時に君の家でってこれ社長の字っすよね?携帯で連絡を取り合うと不倫の証拠が残りやすいからあえてメモを使ったみたいっすね。おおかた社長室にお茶を持っていったときにでもやり取りしてたんでしょ。いつもはこのメモをシュレッダーにかけてたみたいっすけど、あの日のあんたは毒のことで頭がいっぱいだったんすね」

岳剛社長の残した最後のメモが彼女との逢引の証拠として残ってしまったのだ。
ちなみにこのメモはたまたまデンが何気なくゴミ袋の山を漁っていたら出てきたもので二人には偶然の副産物だった。
しかしもしこれが決定的な証拠になる可能性があるならと彼女の前に提示してみたのである。

「オレも梅さんもこのメモのことは知らないし見たこともない。松岡さんや会長に聞いてみてもいいんすよ、社長からこんなメモもらいましたかって。それともあんたの家の防犯カメラ映像、あの日の17時くらいのやつ確認したらいいっすかね。ばっちり社長が入っていくところ映ってるんじゃないすか?きっとそこまでは気が回ってなかったでしょ。だってこんなメモ、シュレッダーにかけずに丸めて捨てちゃったくらいだから」

「それから前田さんのデスクにこれと同じ柄の白紙のメモ用紙がストックされてますよね?あなたのメモを勝手に社長が使って第三者にメッセージを残したとも考え難いだろうな」

「うっ…」

事務員は両手で顔を覆って床に崩れ落ちた。
そして彼女はようやく自分の罪を認めたのだ。

「本当に殺す気はなかったのよ。ただちょっと彼が具合悪いでも悪くなったらって思ってただそれだけ」

「関係は無理やりだったって言いたいんすか?」

「違うわ、そうは言わない。最初は無理やりだったかもしれないけど、それでもだんだんと私の大切な人になっていったの。だから具合が悪くなったら家に帰らずにそばにいてくれるかなって」

結局、彼女の出した手料理を口にして泊まることなく社長は家に帰ってしまったと彼女は涙ながらに語ったのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。 飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。 ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた—— 「そこに、"何か"がいる……。」 科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。 これは幽霊なのか、それとも——?

秘められた遺志

しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?

幽霊探偵 白峰霊

七鳳
ミステリー
• 目撃情報なし • 連絡手段なし • ただし、依頼すれば必ず事件を解決してくれる 都市伝説のように語られるこの探偵——白峰 霊(しらみね れい)。 依頼人も犯人も、「彼は幽霊である」と信じてしまう。 「証拠? あるよ。僕が幽霊であり、君が僕を生きていると証明できないこと。それこそが証拠だ。」 今日も彼は「幽霊探偵」という看板を掲げながら、巧妙な話術と論理で、人々を“幽霊が事件を解決している”と思い込ませる。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

最後の灯り

つづり
ミステリー
フリーライターの『私』は「霧が濃くなると人が消える」という伝説を追って、北陸の山奥にある村を訪れる――。

俺が咲良で咲良が俺で

廣瀬純一
ミステリー
高校生の田中健太と隣の席の山本咲良の体が入れ替わる話

Strange Days ― 短編・ショートショート集 ―

紗倉亞空生
ミステリー
ミステリがメインのサクッと読める一話完結タイプの短編・ショートショート集です。 ときどき他ジャンルが混ざるかも知れません。 ネタを思いついたら掲載する不定期連載です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...