真実はゴミに潜む

浅上秀

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会社の毒華

8話

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事務所に戻ってきた二人はいつもゴミを仕分けたり処分したりするために使っている部屋に移動して岳剛社長の家から回収したゴミを広げる。

「とりあえずこれで社長の家から回収できたゴミは全部っすね」

「あぁそうだな」

「さすがに証拠に近いものは警察が持って行ってるっすね」

回収したゴミはやはり生活ゴミといええるものばかりだった。

「そうだな。それに事件近辺のゴミはさすがに処分済みだからな」

時間が経ってしまっていることが痛手である。

「…まだゴミはあるぞ」

梅迫はそういうと事務所を飛び出した。
デンもその背中を追いかける。

「なんすかここ」

事務所を出て歩いて数分で雑木林にたどり着いた。
その中を迷いもなく梅迫は歩いていく。

「警察がくるって前もってわかってたからヤバイものは全部ここに隠してたんだ」

辿り着いたのは一件のプレハブ小屋だった。
扉には鍵がかかっている。

「へぇ、こんなんあったんすね」

梅迫は慣れた手つきで開錠した。
二人で少し錆びついた扉を開けて中に入る。

「げぇ、ホコリすごいっすね」

「仮にも清掃業者の持ち物じゃないよな」

会社では個人情報を収集し終わったゴミは全て専用の裁断機に入れて細かく切って提携の施設で燃やしている。
その個人情報の取引履歴や帳簿などはアナログにも紙で保存しているためこうして隠し場所が必要だったようだ。
二人で棚を漁ってみるが特段、事件と関係のありそうなものは見つからなかった。

「ここにもないか…」

「ここのこと知ってるのは梅さんだけっすか?」

「あとは会長と社長だな。松岡さんもたぶん知らないと思うぞ」

「松岡さんも知らないんすね」

「あぁ役員とはいえあんまり会長が信用していないみたいでな」

デンは初めて聞いた話だった。

「もし会長か俺が犯人ならココに隠すかなと思ったんだよ」

「てことは会長は犯人じゃないってことっすね」

「その可能性が高いな…おい、これ見てみろ」

「なんすか」

このプレハブは滅多に来ないので梅迫も知らない資料が置いてあったようだ。

「どうやらこれで社長と会長が揉めていたみたいだな」

それは名簿買い取り業者からの入金票だった。

「見てみろ、ココ、ある年を境に口座の名義人が変更になっている。どれも聞いたことのない名前だがもし社長が会長に無断で振込口座を変更していたのだとしたら動機としては十分にあり得るだろう」

「なるほど。でももし会長が犯人ならこんなわかりやすいもの残しておきますかね?」

「う~ん、会長はそこまで計画性がないからどうだろうな」

「計画性のない人間なら毒殺選ぶのもおかしくないっすか?」

「どうしたデン、今日は冴えてるな」

「昨日2時間ミステリー見て勉強してきたんで」

梅迫は思わずずっこけた。

「たしかに会長がもし社長を殺すなら衝動的だろうな」

「ですよね…計画性のありそうな人っていったらやっぱり奥さんとか?」

「それなら家からなにか見つかりそうなもんだ」

とりあえず二人は狭いプレハブ小屋から出て事務所に戻った。
事務所のガラス扉の前でデンが立ち止まる。

「どうした、デン」

「もしかしてなんすけど…ゴミを隠すならゴミの中ってことないっすかね」

「どういうことだ」

デンは事務所の裏にあるゴミ捨て場に向かった。
そこにはここ一週間ほど捨てていなかったゴミたちが溜まっている。

「そういえば先週の分、葬儀と回収の日が重なっちまったから出せなかったんだよな」

実際、事件の日以降、会社がバタバタしていてゴミを捨てに処理場に行く時間も取れていなかったのだ。

「警察が来るって事前にわかってたじゃないすか。だから梅さんはあの小屋に書類を隠せた。ってことは犯人も会社から何かを持ち出した可能性、高くないすか?」

「なる、ほどな」

「それで葬儀が終わってほとぼりが冷めてからゴミとして出してしまえば警察に回収されることもない」

「でも自分の家で捨てないのはなんでだ」

「もし万が一、疑われているさなかゴミに捨てたら犯人ですって自分で言ってるようなもんじゃないすか」

「たしかにそうなるか…しかしデン、おまえ一体なんのサスペンス見たんだよ」

「愛人が奥さんと別れろって脅してきたから殺した男の話っす」

「まぁたずいぶん定番な設定だな」

二人は会話を続けながらとりあえずゴミ袋を仕分け始めた。





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