真実はゴミに潜む

浅上秀

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会社の毒華

7話

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床に巻き散らかった書類を束ねたりファイルボックスを片付けながら二人の話は続く。

「俺たちにできるのは真面目に仕事をして会社をなんとかするだけだな」

「いや、梅さん、俺たちにしかできないことがあるっすよ」

デンは適当に棚に書類を押し込むと右手の人差し指を梅迫に向けた。

「なんだよ急に」

梅迫は笑いながらファイルをデンの向かい側においてある棚に戻していく。

「俺たちで社長の死の真相を暴く、ってのどうですか?なんなら真犯人捕まえたら会長からボーナスとかもらえるかも…」

「金目的かよ」

「だってなんだか後味悪いんすよ、死ね死ね言ってて本当に死なれるって」

デンは唇をとがらせた。

「死の真相を暴くなんて警察に任しておけよ。下手に素人が手を出すもんじゃね―ぞ」

「でも」

デンは不満そうだ。

「いいか、俺たちはいつも通りゴミを集めるんだ。でもその集めたゴミの中に何かあれば…もしかしたら社長の死の真相に偶然つながるかもしれないだろう」

梅迫の言葉にデンは目を見開いた。

「そうっすよね、偶然、ゴミから犯人がわかったらそれはしょうがないっすよね」

「わかったらさっさと片付け終わらせるぞ」

「了解っす!」



警察からようやく遺体が戻ってきたのは亡くなってからしばらく経ってからだった。
葬儀がしめやかに執り行われ遺体が火葬された次の日のことだ。
二人は幹雄会長から岳剛社長の家の清掃をするように言われて再びあの家を訪れることになった。

「本職、やるの久しぶりっすね」

「その久しぶりの仕事が知り合いの死んだ場所の清掃なのはちょっとなぁ」

道具を抱えて二人はインターホンを押す。
インターホンに出たのは岳剛社長の奥さんだった。
出迎えてくれた奥さんはかなり疲れているようだ。

「すみませんわざわざ。私はいらないって言ったんですけど義父様がどうしてもって」

「気にしないでください。一時間くらいで終わると思いますので。場所は…」

「こちらです」

案内された場所にはアイランドキッチンがあり、後ろには大きな冷蔵庫やオーブンレンジなど一目見ただけで高価とわかる家電が多く並んでいた。
社長はダイニングとキッチンの間の通路に倒れていたそうだ。
流し台から倒れていた床には吐しゃ物が散乱していたと幹雄会長が文句を言っていた。

「かしこまりました。奥様はごゆっくりお過ごしください」

「ありがとうございます」

二人は早速掃除に取り掛かった。
吐しゃ物などはあらかじめふき取ってあったようだが、見えにくいところにも若干飛び散っている。
玄人目線でキレイにしながらついでにキッチンまわりの他の汚れも落としていく。

「娘さんたち、今日はいないんすね」

清掃道具を出しながらデンがあたりを見回す。

「あぁ、学校にでも行ってるんじゃないか」

「それか祖父母のところかっすか」

「ありえるな」

予定していた一時間よりも少し早く清掃は終わった。
後片付けをしながら奥さんに声をかける。

「よかったら他の部屋の片づけ手伝いますよ。ゴミとか溜まってますよね」

「ありがとうございます。助かります…」

奥さんに案内されるがまま色んな部屋を片付けてゴミを回収していく。
あらかた集め終わると奥さんはすまなそうに二人にお茶を出してくれた。

「すみません、お気遣いいただいて」

「いえいえ、会社の方も大変でしょうに」

「今は代理で松岡さんが来てくれているのでなんとか」

「松岡さんは生前もお世話になったのに…」

奥さんはハンカチで何度か目頭を押さえていた。

「それで、その…警察から何か聞いたりしてますか?」

「まだ何も。ただ主人は毒物を摂取して亡くなったようだ、とだけ。最初は脳に何らかの障害が起きて意識をうしなったと言われたんです。でもお医者様が調べてくださったら体内から毒の成分が検出されたと。でもどんな毒だったかは教えてくれなかったんです。あとは警察には主人に恨みを持っている人はいるかとか聞かれましたけど…まぁあんな性格していたらどこで恨みをかってくるかわからないですよね」

梅迫もデンもなんとも返答しにくかった。

「そ、それでは我々はここで」

「あ、こんなに遅くまですみません」

腰の低い奥さんに見送られながら二人はゴミを抱えて岳剛社長の家をあとにした。




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