さよならをする前に一回ヤらせて

本編

4話

むしゃくしゃしたままショウは帰宅した。

「おかえり、授業参観どうだった？」

何も知らない母親は能天気にそう尋ねる。

「知らねぇ」

ショウはそういうと母親を押しのけて自分の部屋に飛び込んだ。

「ショウ！ちょっと！」

階下からは母親のショウを呼ぶ声がするが無視をした。

「いいよ、俺が何かいけないことしちゃったみたいで怒ってるんだ」

イツキが母を宥める声がする。
そのうちリビングに入ったのか二人の声はショウにははっきりとは聞こえなくなった。

「なんなんだよ」

苛立ちに任せて床に荷物を叩きつける。
しかし心の中の靄は晴れなかった。

…

夕食になり、ショウは黙ったまま食事を口に運ぶ。
今まで食事時は母親がおしゃべりをしてショウが適当に相槌を打っていた。
しかしイツキが来てからは、イツキと母が会話をしており、ショウは疎外感を覚えていた。

「久しぶりに学校に行ってみたけど、案外楽しいもんだね」

イツキが嬉しそうに参観の様子を母に話している。

「たしかに懐かしいこととかあるわよね」

母も参観日に学校に訪れた時のことを思い出しているようだった。

「ショウの様子はどうだったの？」

母がイツキに尋ねる。

「うーん、そうだなぁ…楽しそうだったよ。友達もたくさんいるみたいだし、ね？」

イツキがショウに笑顔で問いかける。
ショウはそれを無視してひたすら食事を続けた。

「ショウ、無視はよくないわよ。さっきもだけど返事くらいしなさいよ」

母がショウに説教をした。

「うるせぇ」

ショウはぼそりと呟いた。

「なんですって」

母親の耳に届いたのか、彼女が声をあげる。

「まぁまぁ、部活もあって疲れてるだろうし。しょうがないよ」

イツキがショウのことをわかった風に語る様子についに我慢ができなくなり、ショウは大声でイツキに怒鳴った。

「赤の他人のくせにうるせぇんだよ。俺のこと何も知らねぇくせに偉そうなこと言うな」

ショウはバンと卓上に箸を叩きつけると、食事を辞めて足早に部屋に戻る。
去り際に目についた母の驚いた顔がしばらく頭から離れなかった。