さよならをする前に一回ヤらせて

本編

1話

ショウがものごころついた時には父親は存在しなかった。
中学校に入学するまで、母親が一人でショウのことを育ててくれたのだ。

…

中学二年になったある日、部活の遠征から帰ってきたところ母親にリビングに呼び出された。

「実はお母さんね、再婚しようと思ってるの」

ショウの母は頬を赤く染めながらショウにそう告げた。

「再婚？」

ショウには全く、寝耳に水だった。

「会社の同僚の紹介で知り合ったんだけどね、とってもいい人で…」

ショウの耳には母親の話は一切、入ってこなかった。

「…俺に勝手に決めやがって…」

とても小さな声で呟いたせいか母親の耳には届いていなかった。

「今晩、ショウにご挨拶に来るからよろしくね」

「は？」

…

その数時間後、一人の男性がショウの家を訪れた。

「はじめまして。」

「ど、どうも…」

男はどう見ても母より若い。
しかし見るからに好青年でどこか緩い雰囲気を纏っている。

「イツキっていいます。これからよろしくね」

ニコリと悪意のない笑みをショウに向けてくる。
どんな悪い男かと警戒していたショウは牙を抜かれた気分だった。

「よ、よろしく…」

恐る恐るショウは差し出された手を握った。
とても暖かい手だった。

「さて、ご飯にしましょうか」

母が張り切って作った料理を3人で仲良く食べた。
そしてその日からイツキはショウの新しい家族になったのだった。