13 / 31
社会人編
6
しおりを挟む
仕事納めが終わり、実家に帰省したルリ子は自室で怠惰な一日を過ごしていた。
「はぁ、家事しなくていいっていいわね」
ゴロゴロしていると携帯に寺嶋からメッセージが入っている。
「ルリ子ちゃんは実家にいるんだね。僕は今日、仕事納めだよ」
「実家には帰られないんですか?」
「うん、明後日からすぐに仕事初めだからね」
「お忙しいんですね」
寺嶋は空き時間なのかポンポンと返信をくれる。
「そんなことないよ。ルリ子ちゃんさえ良ければ、年明けの連休に一緒にどこか行かない?ちょうどその頃ならあきそうなんだ」
ルリ子は思わぬ誘いに驚いた。
「はい、ぜひ」
「よかった。どこか行きたいところとかあるかな?」
ルリ子は先日、テレビで見たある施設を思い浮かべた。
「最近できた水族館にいってみたいです」
プロジェクションマッピングと水族館の融合という最先端技術の水族館が気になっていたのだ。
「いいね!じゃあそこにしようか。近くなったら待ち合わせ場所とか時間は近くなったら決めよう」
「はい!お仕事納め、頑張ってください」
「ありがとう」
ルリ子は口角が上がるのを抑えられなかった。
こんなに年明けが待ち遠しいのはいつぶりだろうか。
「ルリ子~おせち作るの手伝って~」
母がルリ子を呼び声がする。
「はーい!今行きます」
ルリ子は思わずスキップで母のもとに向かうのだった。
…
大みそかの日、寺嶋以外にサキからメッセージが入っていた。
マリを含めたグループメールに来ており、内容は毎年一緒に行っている初詣のお誘いだった。
もしマリが子供と旦那を優先してこないのであれば、サキと二人きりになってしまう。
ルリ子は先日のこともあり、サキと二人きりになる状況を避けたいと感じてしまったが、返信をしないわけにもいかないので、メッセージ画面を開き、行くと返事をしたのだった。
「あけましておめでとう!今年もよろしくね」
「こちらこそ」
年が明けて二日目、ルリ子はサキとマリと一緒に初詣に来ている。
「マリ、お子さん大丈夫なの?」
「うん、旦那と旦那の親が預かってくれてるけど、なるべく早く帰んなきゃいけないの、ごめんね」
「全然!こっちこそ来てくれてありがとう」
「いいの、私が二人に会いたかったから」
「ならよかった」
鳥居をくぐると神楽殿までけっこう人が並んでいた。
「二日でも混んでるね」
「まぁしょうがないよね」
「おみくじどうする?」
三人はまるで学生時代に戻ったかのようにはしゃぎながらお参りをして、社務所でお守りやおみくじを買って騒いだ。
「やばい、恋愛運、危険な恋に注意だって」
サキが慌てて末吉と書かれたおみくじを見せてくる。
ルリ子は思わず当たってると口に出しそうになったが寸でのところでやめた。
「私は仕事運に精進せよって書かれてるわ」
ルリ子は中吉だった。
恋愛運の欄はあまり見ないようにしたが、用心せよと不穏なことが書かれている。
「ルリ子、おみくじが言うんだから精進しなよ」
「もう!」
マリは大吉だったようで一人ご満悦だ。
三人でおみくじを結んでから屋台を眺める。
寒かったので甘酒を買ってイートインエリアの椅子に腰かけた。
「マリ、子育て大変?」
「そりゃね、慣れないことも多いし…でもサキが一喝してくれたおかげで旦那は真面目になったから助かってる」
サキとルリ子はマリの携帯に保存されている子供の写真を眺めながらそのかわいさに癒されていた。
「男の子ならどんどんやんちゃになりそうね」
「もう片鱗は見え始めてる…ちょっと離れたらおもちゃありえない方向に飛んでたりとかね」
「うわぁ…」
マリの話を聞いていたらあっという間に時間が来てしまったようだ。
「マリ、まだ時間大丈夫?」
「あ、そろそろ授乳しに帰らなきゃ…」
「家まで送ってくよ」
三人は甘酒のカップを片付けて神社を出る。
歩いて十数分のマンションにマリは住んでいる。
「なんかこうやって三人で歩いていると高校生に戻ったみたい」
「放課後何してたっけ」
「全然覚えてない」
「だって…7年くらい前の話だもの」
「え、やだそんなに前だっけ?」
三人は笑い声を響かせながら歩く。
あっという間にマリのマンションのエントランスについてしまった。
「じゃあ、またね」
「うん」
「また」
エントランスに入ってエレベーターに乗り込むマリを見送るとサキとルリ子は無言でマンションを出た。
ルリ子はやはりサキと二人きりになるとなんだか気まずい。
話題を探して頭をフル回転させる。
「…ねぇ、サキ」
「ん?」
先を歩いていたサキが振り返る。
「そういえばあのラジオ、なんで聞かなくなってしまったの?」
「ラジオ…?あぁ、あれね。なんでって放送終わったからってだけだけど」
「そう、なのね」
本当に放送が終わったからだけなのだろうか。
ルリ子がさらに尋ねようとした時だった。
「あ、思い出した。あの人結婚してるらしいよ」
「え?あの人って?」
「ラジオの、寺嶋さん」
「え?」
ルリ子は思わず立ち止まる。
「知らなかった?ネットで出回ってたよ。あの一緒にラジオに出てる女性いるでしょ?あの人と結婚してるって」
「ええ、知らなかったわ…」
クリスマスの日に会った寺嶋の指には指輪はなかったと思う。
それに寺嶋自身、そんなことは一言も言っていなかった。
いや、言う必要はないのだが。
「結婚してるんじゃないかって、ネットで一時期有名だったよ。女性の方のSNSで匂わせてた、みたいな」
「そうなのね…」
ルリ子はショックのあまりそこからサキの話をあまり聞いていなかった。
「じゃあ、またね」
「えぇ…」
「はぁ、家事しなくていいっていいわね」
ゴロゴロしていると携帯に寺嶋からメッセージが入っている。
「ルリ子ちゃんは実家にいるんだね。僕は今日、仕事納めだよ」
「実家には帰られないんですか?」
「うん、明後日からすぐに仕事初めだからね」
「お忙しいんですね」
寺嶋は空き時間なのかポンポンと返信をくれる。
「そんなことないよ。ルリ子ちゃんさえ良ければ、年明けの連休に一緒にどこか行かない?ちょうどその頃ならあきそうなんだ」
ルリ子は思わぬ誘いに驚いた。
「はい、ぜひ」
「よかった。どこか行きたいところとかあるかな?」
ルリ子は先日、テレビで見たある施設を思い浮かべた。
「最近できた水族館にいってみたいです」
プロジェクションマッピングと水族館の融合という最先端技術の水族館が気になっていたのだ。
「いいね!じゃあそこにしようか。近くなったら待ち合わせ場所とか時間は近くなったら決めよう」
「はい!お仕事納め、頑張ってください」
「ありがとう」
ルリ子は口角が上がるのを抑えられなかった。
こんなに年明けが待ち遠しいのはいつぶりだろうか。
「ルリ子~おせち作るの手伝って~」
母がルリ子を呼び声がする。
「はーい!今行きます」
ルリ子は思わずスキップで母のもとに向かうのだった。
…
大みそかの日、寺嶋以外にサキからメッセージが入っていた。
マリを含めたグループメールに来ており、内容は毎年一緒に行っている初詣のお誘いだった。
もしマリが子供と旦那を優先してこないのであれば、サキと二人きりになってしまう。
ルリ子は先日のこともあり、サキと二人きりになる状況を避けたいと感じてしまったが、返信をしないわけにもいかないので、メッセージ画面を開き、行くと返事をしたのだった。
「あけましておめでとう!今年もよろしくね」
「こちらこそ」
年が明けて二日目、ルリ子はサキとマリと一緒に初詣に来ている。
「マリ、お子さん大丈夫なの?」
「うん、旦那と旦那の親が預かってくれてるけど、なるべく早く帰んなきゃいけないの、ごめんね」
「全然!こっちこそ来てくれてありがとう」
「いいの、私が二人に会いたかったから」
「ならよかった」
鳥居をくぐると神楽殿までけっこう人が並んでいた。
「二日でも混んでるね」
「まぁしょうがないよね」
「おみくじどうする?」
三人はまるで学生時代に戻ったかのようにはしゃぎながらお参りをして、社務所でお守りやおみくじを買って騒いだ。
「やばい、恋愛運、危険な恋に注意だって」
サキが慌てて末吉と書かれたおみくじを見せてくる。
ルリ子は思わず当たってると口に出しそうになったが寸でのところでやめた。
「私は仕事運に精進せよって書かれてるわ」
ルリ子は中吉だった。
恋愛運の欄はあまり見ないようにしたが、用心せよと不穏なことが書かれている。
「ルリ子、おみくじが言うんだから精進しなよ」
「もう!」
マリは大吉だったようで一人ご満悦だ。
三人でおみくじを結んでから屋台を眺める。
寒かったので甘酒を買ってイートインエリアの椅子に腰かけた。
「マリ、子育て大変?」
「そりゃね、慣れないことも多いし…でもサキが一喝してくれたおかげで旦那は真面目になったから助かってる」
サキとルリ子はマリの携帯に保存されている子供の写真を眺めながらそのかわいさに癒されていた。
「男の子ならどんどんやんちゃになりそうね」
「もう片鱗は見え始めてる…ちょっと離れたらおもちゃありえない方向に飛んでたりとかね」
「うわぁ…」
マリの話を聞いていたらあっという間に時間が来てしまったようだ。
「マリ、まだ時間大丈夫?」
「あ、そろそろ授乳しに帰らなきゃ…」
「家まで送ってくよ」
三人は甘酒のカップを片付けて神社を出る。
歩いて十数分のマンションにマリは住んでいる。
「なんかこうやって三人で歩いていると高校生に戻ったみたい」
「放課後何してたっけ」
「全然覚えてない」
「だって…7年くらい前の話だもの」
「え、やだそんなに前だっけ?」
三人は笑い声を響かせながら歩く。
あっという間にマリのマンションのエントランスについてしまった。
「じゃあ、またね」
「うん」
「また」
エントランスに入ってエレベーターに乗り込むマリを見送るとサキとルリ子は無言でマンションを出た。
ルリ子はやはりサキと二人きりになるとなんだか気まずい。
話題を探して頭をフル回転させる。
「…ねぇ、サキ」
「ん?」
先を歩いていたサキが振り返る。
「そういえばあのラジオ、なんで聞かなくなってしまったの?」
「ラジオ…?あぁ、あれね。なんでって放送終わったからってだけだけど」
「そう、なのね」
本当に放送が終わったからだけなのだろうか。
ルリ子がさらに尋ねようとした時だった。
「あ、思い出した。あの人結婚してるらしいよ」
「え?あの人って?」
「ラジオの、寺嶋さん」
「え?」
ルリ子は思わず立ち止まる。
「知らなかった?ネットで出回ってたよ。あの一緒にラジオに出てる女性いるでしょ?あの人と結婚してるって」
「ええ、知らなかったわ…」
クリスマスの日に会った寺嶋の指には指輪はなかったと思う。
それに寺嶋自身、そんなことは一言も言っていなかった。
いや、言う必要はないのだが。
「結婚してるんじゃないかって、ネットで一時期有名だったよ。女性の方のSNSで匂わせてた、みたいな」
「そうなのね…」
ルリ子はショックのあまりそこからサキの話をあまり聞いていなかった。
「じゃあ、またね」
「えぇ…」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
想い出は珈琲の薫りとともに
玻璃美月
恋愛
第7回ほっこり・じんわり大賞 奨励賞をいただきました。応援くださり、ありがとうございました。
――珈琲が織りなす、家族の物語
バリスタとして働く桝田亜夜[ますだあや・25歳]は、短期留学していたローマのバルで、途方に暮れている二人の日本人男性に出会った。
ほんの少し手助けするつもりが、彼らから思いがけない頼み事をされる。それは、上司の婚約者になること。
亜夜は断りきれず、その上司だという穂積薫[ほづみかおる・33歳]に引き合わされると、数日間だけ薫の婚約者のふりをすることになった。それが終わりを迎えたとき、二人の間には情熱の火が灯っていた。
旅先の思い出として終わるはずだった関係は、二人を思いも寄らぬ運命の渦に巻き込んでいた。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる