アイシャドウの捨て時

浅上秀

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社会人編

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仕事納めが終わり、実家に帰省したルリ子は自室で怠惰な一日を過ごしていた。

「はぁ、家事しなくていいっていいわね」

ゴロゴロしていると携帯に寺嶋からメッセージが入っている。

「ルリ子ちゃんは実家にいるんだね。僕は今日、仕事納めだよ」

「実家には帰られないんですか?」

「うん、明後日からすぐに仕事初めだからね」

「お忙しいんですね」

寺嶋は空き時間なのかポンポンと返信をくれる。

「そんなことないよ。ルリ子ちゃんさえ良ければ、年明けの連休に一緒にどこか行かない?ちょうどその頃ならあきそうなんだ」

ルリ子は思わぬ誘いに驚いた。

「はい、ぜひ」

「よかった。どこか行きたいところとかあるかな?」

ルリ子は先日、テレビで見たある施設を思い浮かべた。

「最近できた水族館にいってみたいです」

プロジェクションマッピングと水族館の融合という最先端技術の水族館が気になっていたのだ。

「いいね!じゃあそこにしようか。近くなったら待ち合わせ場所とか時間は近くなったら決めよう」

「はい!お仕事納め、頑張ってください」

「ありがとう」

ルリ子は口角が上がるのを抑えられなかった。
こんなに年明けが待ち遠しいのはいつぶりだろうか。

「ルリ子~おせち作るの手伝って~」

母がルリ子を呼び声がする。

「はーい!今行きます」

ルリ子は思わずスキップで母のもとに向かうのだった。



大みそかの日、寺嶋以外にサキからメッセージが入っていた。
マリを含めたグループメールに来ており、内容は毎年一緒に行っている初詣のお誘いだった。
もしマリが子供と旦那を優先してこないのであれば、サキと二人きりになってしまう。
ルリ子は先日のこともあり、サキと二人きりになる状況を避けたいと感じてしまったが、返信をしないわけにもいかないので、メッセージ画面を開き、行くと返事をしたのだった。

「あけましておめでとう!今年もよろしくね」

「こちらこそ」

年が明けて二日目、ルリ子はサキとマリと一緒に初詣に来ている。

「マリ、お子さん大丈夫なの?」

「うん、旦那と旦那の親が預かってくれてるけど、なるべく早く帰んなきゃいけないの、ごめんね」

「全然!こっちこそ来てくれてありがとう」

「いいの、私が二人に会いたかったから」

「ならよかった」

鳥居をくぐると神楽殿までけっこう人が並んでいた。

「二日でも混んでるね」

「まぁしょうがないよね」

「おみくじどうする?」

三人はまるで学生時代に戻ったかのようにはしゃぎながらお参りをして、社務所でお守りやおみくじを買って騒いだ。

「やばい、恋愛運、危険な恋に注意だって」

サキが慌てて末吉と書かれたおみくじを見せてくる。
ルリ子は思わず当たってると口に出しそうになったが寸でのところでやめた。

「私は仕事運に精進せよって書かれてるわ」

ルリ子は中吉だった。
恋愛運の欄はあまり見ないようにしたが、用心せよと不穏なことが書かれている。

「ルリ子、おみくじが言うんだから精進しなよ」

「もう!」

マリは大吉だったようで一人ご満悦だ。
三人でおみくじを結んでから屋台を眺める。
寒かったので甘酒を買ってイートインエリアの椅子に腰かけた。

「マリ、子育て大変?」

「そりゃね、慣れないことも多いし…でもサキが一喝してくれたおかげで旦那は真面目になったから助かってる」

サキとルリ子はマリの携帯に保存されている子供の写真を眺めながらそのかわいさに癒されていた。

「男の子ならどんどんやんちゃになりそうね」

「もう片鱗は見え始めてる…ちょっと離れたらおもちゃありえない方向に飛んでたりとかね」

「うわぁ…」

マリの話を聞いていたらあっという間に時間が来てしまったようだ。

「マリ、まだ時間大丈夫?」

「あ、そろそろ授乳しに帰らなきゃ…」

「家まで送ってくよ」

三人は甘酒のカップを片付けて神社を出る。
歩いて十数分のマンションにマリは住んでいる。

「なんかこうやって三人で歩いていると高校生に戻ったみたい」

「放課後何してたっけ」

「全然覚えてない」

「だって…7年くらい前の話だもの」

「え、やだそんなに前だっけ?」

三人は笑い声を響かせながら歩く。
あっという間にマリのマンションのエントランスについてしまった。

「じゃあ、またね」

「うん」

「また」

エントランスに入ってエレベーターに乗り込むマリを見送るとサキとルリ子は無言でマンションを出た。
ルリ子はやはりサキと二人きりになるとなんだか気まずい。
話題を探して頭をフル回転させる。

「…ねぇ、サキ」

「ん?」

先を歩いていたサキが振り返る。

「そういえばあのラジオ、なんで聞かなくなってしまったの?」

「ラジオ…?あぁ、あれね。なんでって放送終わったからってだけだけど」

「そう、なのね」

本当に放送が終わったからだけなのだろうか。
ルリ子がさらに尋ねようとした時だった。

「あ、思い出した。あの人結婚してるらしいよ」

「え?あの人って?」

「ラジオの、寺嶋さん」

「え?」

ルリ子は思わず立ち止まる。

「知らなかった?ネットで出回ってたよ。あの一緒にラジオに出てる女性いるでしょ?あの人と結婚してるって」

「ええ、知らなかったわ…」

クリスマスの日に会った寺嶋の指には指輪はなかったと思う。
それに寺嶋自身、そんなことは一言も言っていなかった。
いや、言う必要はないのだが。

「結婚してるんじゃないかって、ネットで一時期有名だったよ。女性の方のSNSで匂わせてた、みたいな」

「そうなのね…」

ルリ子はショックのあまりそこからサキの話をあまり聞いていなかった。

「じゃあ、またね」

「えぇ…」



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