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社会人編
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「でしょ?」
ルリ子の隣の男性が微笑む。
「口の中から旨味が全身に広がっていく感じがします。すごいですね、これ」
ルリ子は思わず感嘆の声をあげてしまった。
「君、初めてなのによくブイヤベースを選んだね。フランス料理すきだったりする?」
「い、いえ、そういうわけでは…」
ルリ子は悩んだ。
ここでラジオで聞いたと言えば彼が本当にあのラジオパーソナリティなのか確かめられる。
もし彼が自身の身元を隠したいのであればここでラジオの話をするのは野暮だ。
「おまたせいたしました」
ルリ子がもだもだしているうちに、彼の元にワインとブイヤベースが運ばれてきた。
「あぁ、この味、落ち着く…」
彼はワインとブイヤベースを堪能している。
ルリ子も彼から視線をそらし、自身の皿とグラスに集中する。
あっという間に皿は空っぽになってしまった。
「今日も美味しかったよ」
彼がカウンターの中にいる店員と話し始める。
ルリ子はブイヤベースだけでは物足りず、何か追加で注文しようかとメニューを開く。
「お、まだ何か食べられそう?」
彼がルリ子と一緒にメニューを覗き込んでくる。
「あ、は、はい」
大食いだと思われただろうか。
「どのくらいお腹すいてるの?」
「け、けっこう空いてます…」
ルリ子が恥ずかしそうにお腹を摩ると彼は微笑んで一つのメニューを指さしてくれる。
クリスマスのメインともいえる七面鳥のグリルだ。
「これ、結構ボリュームあるんだけど、もし良かったら僕とシェアして食べない?初対面の人とシェアとか嫌かな?」
ルリ子はこくこくと頷く。
「全然嫌じゃないです!よろしければぜひ!!」
「はは、それじゃあ、これ一つで二人で食べるから取り皿もお願いします」
「かしこまりました」
カウンター内の店員は一瞬、驚いたように目を大きく見開いたが注文を聞くと恭しく厨房に向かった。
「このお店、初めてだよね?よく入ろうと思ったね」
ルリ子はその話題に戻るのか、とドキっとした。
「あ、はい、その、前にラジオで紹介してるのを聞いて…」
「へぇ、若いのにラジオとか聞くんだ」
彼は意外そうにルリ子の見る。
「は、はい、その方のラジオを聞くと心が落ち着くので」
「それはきっとそのラジオをやってる人は仕事冥利に尽きるだろうね」
「いやいや、そんなことないですよ、きっと」
ルリ子は気恥ずかしくなり、誤魔化すためにワインをぐいっと飲む。
「僕もね、実はラジオやってたんだ」
「え、そうなんですか!?」
ルリ子はやっぱり、と思った。
「うん、もう三年も前に終わっちゃったんだけどね」
彼はワインを飲み干すと店員を呼んで新しいワインを注文した。
「何か飲む?」
ルリ子のグラスが空に近いことに聞いた彼はルリ子に尋ねる。
「あ、はい、では七面鳥に合うのをお願いします」
「かしこまりました」
「あ、じゃあ僕も彼女と同じので」
「はい、かしこまりました」
店員が運んできたのは赤ワインだった。
「ラジオ、もうやられていないんですか?」
「うん、今はもう少し違う仕事してる。君は?」
「私はしがない会社員です」
「そっか。あ、まだ名乗ってなかったね。僕、寺嶋、寺嶋浩太」
寺嶋と言われて、ルリ子は飲みかけの水を思わず吹き出しそうになった。
「あ、小宮ルリ子と申します…」
「小宮さん…ルリ子ちゃんって呼んでも良いかな?あれ、ちゃん付けって古かったりする?」
「い、いいえ、どうぞ呼びやすい呼び方で」
「じゃあ、ルリ子ちゃんね。僕のことも下の名前で読んでよ」
ルリ子はグイグイくる寺嶋に若干、引きながら頷いた。
それから二人は連絡先を交換して、七面鳥を食べてワインを食べながらいろんなことを話した。
「ふぅ、もうお腹いっぱい」
「ごちそうさまでした。すみません、私の分まで…」
寺嶋は会計する時にルリ子の分まで払ってくれてしまったのだ。
「ルリ子ちゃんさえ良ければまた一緒に美味しい物食べに行ってくれたりする?その時はルリ子ちゃん払ってよ」
「あ、はい、もちろん、です!」
ルリ子は何度も頷いた。
二人で歩いているとすぐに駅についてしまった。
「それじゃあ、連絡するね」
「はい、私もご連絡させていただきます」
「うん、じゃあ、僕こっちだから、またね」
「はい!また」
寺嶋の後ろ姿を見送るルリ子はしばらく放心状態だった。
携帯に追加された連絡先を何度も見返し、今日の出来事が夢のように思えるが現実であると確かめる。
「あ、大変、終電!」
ホームに駆け込んで何とか終電に乗り込んで帰宅する。
電車の中でマッチングアプリに来ていたメッセージを確認すると、今日ドタキャンしてきた男性からもう一度チャンスが欲しいという趣旨のメッセージが来ていた。
ドタキャンしてきた時点で拒否一択である。
「寺嶋さん…浩太さんに会う前だったら、承諾してたかもだけど、ないわね」
お断りの文章を送り、そのままアプリを退会してアンインストールする。
「やっぱり私には向いていないのよね」
電車の窓の外の景色が普段よりキレイに見える気がするルリ子だった。
ルリ子の隣の男性が微笑む。
「口の中から旨味が全身に広がっていく感じがします。すごいですね、これ」
ルリ子は思わず感嘆の声をあげてしまった。
「君、初めてなのによくブイヤベースを選んだね。フランス料理すきだったりする?」
「い、いえ、そういうわけでは…」
ルリ子は悩んだ。
ここでラジオで聞いたと言えば彼が本当にあのラジオパーソナリティなのか確かめられる。
もし彼が自身の身元を隠したいのであればここでラジオの話をするのは野暮だ。
「おまたせいたしました」
ルリ子がもだもだしているうちに、彼の元にワインとブイヤベースが運ばれてきた。
「あぁ、この味、落ち着く…」
彼はワインとブイヤベースを堪能している。
ルリ子も彼から視線をそらし、自身の皿とグラスに集中する。
あっという間に皿は空っぽになってしまった。
「今日も美味しかったよ」
彼がカウンターの中にいる店員と話し始める。
ルリ子はブイヤベースだけでは物足りず、何か追加で注文しようかとメニューを開く。
「お、まだ何か食べられそう?」
彼がルリ子と一緒にメニューを覗き込んでくる。
「あ、は、はい」
大食いだと思われただろうか。
「どのくらいお腹すいてるの?」
「け、けっこう空いてます…」
ルリ子が恥ずかしそうにお腹を摩ると彼は微笑んで一つのメニューを指さしてくれる。
クリスマスのメインともいえる七面鳥のグリルだ。
「これ、結構ボリュームあるんだけど、もし良かったら僕とシェアして食べない?初対面の人とシェアとか嫌かな?」
ルリ子はこくこくと頷く。
「全然嫌じゃないです!よろしければぜひ!!」
「はは、それじゃあ、これ一つで二人で食べるから取り皿もお願いします」
「かしこまりました」
カウンター内の店員は一瞬、驚いたように目を大きく見開いたが注文を聞くと恭しく厨房に向かった。
「このお店、初めてだよね?よく入ろうと思ったね」
ルリ子はその話題に戻るのか、とドキっとした。
「あ、はい、その、前にラジオで紹介してるのを聞いて…」
「へぇ、若いのにラジオとか聞くんだ」
彼は意外そうにルリ子の見る。
「は、はい、その方のラジオを聞くと心が落ち着くので」
「それはきっとそのラジオをやってる人は仕事冥利に尽きるだろうね」
「いやいや、そんなことないですよ、きっと」
ルリ子は気恥ずかしくなり、誤魔化すためにワインをぐいっと飲む。
「僕もね、実はラジオやってたんだ」
「え、そうなんですか!?」
ルリ子はやっぱり、と思った。
「うん、もう三年も前に終わっちゃったんだけどね」
彼はワインを飲み干すと店員を呼んで新しいワインを注文した。
「何か飲む?」
ルリ子のグラスが空に近いことに聞いた彼はルリ子に尋ねる。
「あ、はい、では七面鳥に合うのをお願いします」
「かしこまりました」
「あ、じゃあ僕も彼女と同じので」
「はい、かしこまりました」
店員が運んできたのは赤ワインだった。
「ラジオ、もうやられていないんですか?」
「うん、今はもう少し違う仕事してる。君は?」
「私はしがない会社員です」
「そっか。あ、まだ名乗ってなかったね。僕、寺嶋、寺嶋浩太」
寺嶋と言われて、ルリ子は飲みかけの水を思わず吹き出しそうになった。
「あ、小宮ルリ子と申します…」
「小宮さん…ルリ子ちゃんって呼んでも良いかな?あれ、ちゃん付けって古かったりする?」
「い、いいえ、どうぞ呼びやすい呼び方で」
「じゃあ、ルリ子ちゃんね。僕のことも下の名前で読んでよ」
ルリ子はグイグイくる寺嶋に若干、引きながら頷いた。
それから二人は連絡先を交換して、七面鳥を食べてワインを食べながらいろんなことを話した。
「ふぅ、もうお腹いっぱい」
「ごちそうさまでした。すみません、私の分まで…」
寺嶋は会計する時にルリ子の分まで払ってくれてしまったのだ。
「ルリ子ちゃんさえ良ければまた一緒に美味しい物食べに行ってくれたりする?その時はルリ子ちゃん払ってよ」
「あ、はい、もちろん、です!」
ルリ子は何度も頷いた。
二人で歩いているとすぐに駅についてしまった。
「それじゃあ、連絡するね」
「はい、私もご連絡させていただきます」
「うん、じゃあ、僕こっちだから、またね」
「はい!また」
寺嶋の後ろ姿を見送るルリ子はしばらく放心状態だった。
携帯に追加された連絡先を何度も見返し、今日の出来事が夢のように思えるが現実であると確かめる。
「あ、大変、終電!」
ホームに駆け込んで何とか終電に乗り込んで帰宅する。
電車の中でマッチングアプリに来ていたメッセージを確認すると、今日ドタキャンしてきた男性からもう一度チャンスが欲しいという趣旨のメッセージが来ていた。
ドタキャンしてきた時点で拒否一択である。
「寺嶋さん…浩太さんに会う前だったら、承諾してたかもだけど、ないわね」
お断りの文章を送り、そのままアプリを退会してアンインストールする。
「やっぱり私には向いていないのよね」
電車の窓の外の景色が普段よりキレイに見える気がするルリ子だった。
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