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本編
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初出勤は思った以上に重労働だった。
机の上にパソコンを置いて一日中向かい合っているのかと思ったらそうではない。
本社にいる社員たちに挨拶回りをしたり来客を社長室に案内したりと一日梶原と一緒に走り回った。
それから物の場所や部屋の場所など覚えなければいけないこともたくさある。
「お疲れ様です。今日は定時で上がっていただいて構いませんよ」
社長の来客をエントランスに送り届けて秘書室に戻ってきたとき、梶原は海野に言った。
「え、でもこの書類」
机の上にはまだ確認できていない書類が残っている。
「明日でも大丈夫です。海野さんは少し仕事の湯煎順位がつけられるようになるともう少し楽になると思いますよ」
「は、はい」
梶原の机の上は常用の筆記用具とファイルボックスが一つ、そして電話しか置かれておらずとてもきれいだ。
それに対して海野の机の上は初日にもかかわらず、書類や筆記用具、飲み残りのペットボトル、昼に食べたサンドイッチの袋や野菜ジュースの紙パックなどが散乱していた。
「ちょっとだけ片付けてから帰りますね」
海野は机の上のものをワタワタと片付け始める。
「ではその間に社長にお声がけしてきます」
梶原はそんな海野の姿を横目に社長室に入っていった。
…
なんとか海野の新品の机の天板が見えたころ、梶原と神山が二人で秘書室に入ってきた。
「もう帰れるかな」
「は、はい大丈夫です」
三人でエレベーターに乗り込むと地下駐車場で降りる。
そして車の後部座席に神山と海野が乗り込み、梶原が運転席に乗った。
「海野くん、お疲れ様。何か美味しいものでも食べて帰ろうか」
折角の神山の誘いだったが海野は断る。
「いえ、今日は早めに帰って休みたいです」
社長車のシートの乗り心地の良さに眠気が襲ってくる。
「そうかそれもそうだな。梶原、家で食べるからコンビニにでも寄ってくれるかな。今冷蔵庫が空っぽなんだよ」
「この近くのスーパーでしたらまだ開店しておりますが」
「う~ん、でも今週は今日くらいしか帰れなさそうだからなぁ」
「社長はお帰りにならなくても海野さんは食材がないとお困りでしょう」
「え、まぁ、はい」
半分夢見心地に二人の会話を聞いていた海野はあまり料理が得意ではない。
同居して少しして神山もそれを察していた。
「まぁいっか、じゃあスーパーに寄ってくれ」
「かしこまりました」
…
スーパーで食材や日用品を買い込んで神山の家に戻る。
「梶原も食べていくか?」
「いえ、私は少し明日の来週の例の件が残ってますので今日はこれで」
「そうかもう来週なのか」
「えぇ、それではまた明日」
「梶原さん、今日もありがとうございました。お気をつけて」
梶原は海野の言葉に一瞬目を見開いたが嬉しそうにほほ笑んだ。
「こちらこそ。ゆっくり休んでくださいね」
…
海野は神山から少しでも料理を習おうと夕食づくりを手伝い、食べ終わった後の片付けも率先して行った。
「おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
書斎に入っていった神山と早めに別れ、海野は入浴して自室にこもるとベットに寝転がる。
慣れない疲労感に瞼が下がるが、脳内では今日の失敗や覚えなければいけないことが頭を巡りだす。
しかし眠気の方に軍配が上がりそのまま海野は朝までぐっすりと眠りについた。
…
それからしばらく初日とは比べ物にならないほど忙しくなった。
新ブランドのプレスリリース日が刻一刻と迫ってきているのだ。
センセーショナルな宣伝のために各SNS媒体向けの広告運営や店舗との関係強化に余念がない。
神山は基本的に終日、外出しており梶原もそれに同行している。
ホテルに泊まることも多くなってきたため神山と朝の出勤前に会うことも最近はなくなってきた。
「はぁ」
海野はしばらく秘書室にやってくる仕事をなんとか自分で対処できるものとできないもの、急ぐものとそうではないものに分けるだけでも精いっぱいだった。
毎日、神山についていて忙しいはずの梶原の仕事を余計に増やしているような気までしてくる。
それに海野は撮影にモデルとして呼ばれることもあった。
しかし以前までのように呼ばれる日にちがあらかじめ決まっているわけではなく、突然呼ばれることの方が多い。
そのため日頃からのスキンケアや体系管理が必須になってきている。
少しだが今まではなかったプロ意識のようなものが海野の中に芽生え始めていた。
「お疲れ様です、梶原さん」
「海野さん、お疲れ様です。社長は接待でお戻りにならないそうです」
「わかりました。これが終わったら電車で帰ります」
梶原は疲れた様子を一切見せずに海野が机の上に置いた書類を裁いている。
「プロモーションが佳境に入ってきたので来週までしばらく席を外すことが多いと思われます。外出していてもわからないことや判断に迷ったときには絶対に連絡をくださいね」
書類に目線をやりながら海野に声をかけてくれた。
「梶原さん…ありがとうございます」
海野は思わず泣きそうになってしまった。
慌てて手元の書類と向き合いそれをごまかすのだった。
机の上にパソコンを置いて一日中向かい合っているのかと思ったらそうではない。
本社にいる社員たちに挨拶回りをしたり来客を社長室に案内したりと一日梶原と一緒に走り回った。
それから物の場所や部屋の場所など覚えなければいけないこともたくさある。
「お疲れ様です。今日は定時で上がっていただいて構いませんよ」
社長の来客をエントランスに送り届けて秘書室に戻ってきたとき、梶原は海野に言った。
「え、でもこの書類」
机の上にはまだ確認できていない書類が残っている。
「明日でも大丈夫です。海野さんは少し仕事の湯煎順位がつけられるようになるともう少し楽になると思いますよ」
「は、はい」
梶原の机の上は常用の筆記用具とファイルボックスが一つ、そして電話しか置かれておらずとてもきれいだ。
それに対して海野の机の上は初日にもかかわらず、書類や筆記用具、飲み残りのペットボトル、昼に食べたサンドイッチの袋や野菜ジュースの紙パックなどが散乱していた。
「ちょっとだけ片付けてから帰りますね」
海野は机の上のものをワタワタと片付け始める。
「ではその間に社長にお声がけしてきます」
梶原はそんな海野の姿を横目に社長室に入っていった。
…
なんとか海野の新品の机の天板が見えたころ、梶原と神山が二人で秘書室に入ってきた。
「もう帰れるかな」
「は、はい大丈夫です」
三人でエレベーターに乗り込むと地下駐車場で降りる。
そして車の後部座席に神山と海野が乗り込み、梶原が運転席に乗った。
「海野くん、お疲れ様。何か美味しいものでも食べて帰ろうか」
折角の神山の誘いだったが海野は断る。
「いえ、今日は早めに帰って休みたいです」
社長車のシートの乗り心地の良さに眠気が襲ってくる。
「そうかそれもそうだな。梶原、家で食べるからコンビニにでも寄ってくれるかな。今冷蔵庫が空っぽなんだよ」
「この近くのスーパーでしたらまだ開店しておりますが」
「う~ん、でも今週は今日くらいしか帰れなさそうだからなぁ」
「社長はお帰りにならなくても海野さんは食材がないとお困りでしょう」
「え、まぁ、はい」
半分夢見心地に二人の会話を聞いていた海野はあまり料理が得意ではない。
同居して少しして神山もそれを察していた。
「まぁいっか、じゃあスーパーに寄ってくれ」
「かしこまりました」
…
スーパーで食材や日用品を買い込んで神山の家に戻る。
「梶原も食べていくか?」
「いえ、私は少し明日の来週の例の件が残ってますので今日はこれで」
「そうかもう来週なのか」
「えぇ、それではまた明日」
「梶原さん、今日もありがとうございました。お気をつけて」
梶原は海野の言葉に一瞬目を見開いたが嬉しそうにほほ笑んだ。
「こちらこそ。ゆっくり休んでくださいね」
…
海野は神山から少しでも料理を習おうと夕食づくりを手伝い、食べ終わった後の片付けも率先して行った。
「おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
書斎に入っていった神山と早めに別れ、海野は入浴して自室にこもるとベットに寝転がる。
慣れない疲労感に瞼が下がるが、脳内では今日の失敗や覚えなければいけないことが頭を巡りだす。
しかし眠気の方に軍配が上がりそのまま海野は朝までぐっすりと眠りについた。
…
それからしばらく初日とは比べ物にならないほど忙しくなった。
新ブランドのプレスリリース日が刻一刻と迫ってきているのだ。
センセーショナルな宣伝のために各SNS媒体向けの広告運営や店舗との関係強化に余念がない。
神山は基本的に終日、外出しており梶原もそれに同行している。
ホテルに泊まることも多くなってきたため神山と朝の出勤前に会うことも最近はなくなってきた。
「はぁ」
海野はしばらく秘書室にやってくる仕事をなんとか自分で対処できるものとできないもの、急ぐものとそうではないものに分けるだけでも精いっぱいだった。
毎日、神山についていて忙しいはずの梶原の仕事を余計に増やしているような気までしてくる。
それに海野は撮影にモデルとして呼ばれることもあった。
しかし以前までのように呼ばれる日にちがあらかじめ決まっているわけではなく、突然呼ばれることの方が多い。
そのため日頃からのスキンケアや体系管理が必須になってきている。
少しだが今まではなかったプロ意識のようなものが海野の中に芽生え始めていた。
「お疲れ様です、梶原さん」
「海野さん、お疲れ様です。社長は接待でお戻りにならないそうです」
「わかりました。これが終わったら電車で帰ります」
梶原は疲れた様子を一切見せずに海野が机の上に置いた書類を裁いている。
「プロモーションが佳境に入ってきたので来週までしばらく席を外すことが多いと思われます。外出していてもわからないことや判断に迷ったときには絶対に連絡をくださいね」
書類に目線をやりながら海野に声をかけてくれた。
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海野は思わず泣きそうになってしまった。
慌てて手元の書類と向き合いそれをごまかすのだった。
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