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本編
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海野も一歩遅れて完食する。
「ごちそうさまでした」
神山のあとを追って食器を持って立ち上がってシンクに向かう。
「水につけといてくれるだけでいいよ」
「いえ、洗いますよ」
「食洗機に入れるからそのままで。それよりコーヒーでもどうかな」
神山がコーヒーメーカーを指差す。
「お腹いっぱいなので大丈夫です」
海野は久しぶりに朝からお腹いっぱいなので断った。
「俺はこれから商談があるから出るけど海野くんはどうする?」
「か、帰ります」
「わかったよ」
海野は借りた服を着替えようと部屋に戻る。
「あの、昨日着てた僕の服はどこに?」
「あぁ、洗濯しておいたよ。せっかくなら俺の服着て帰らない?ちょっと着せたい服があるんだけど」
「え、あ、はい」
昨日も入ったクローゼット部屋に二人で向かう。
「これね、よろしく」
神山は棚から深緑のニットとラックから黒のスラックスを渡してくる。
「は、はい」
借りていたスウェットを脱いで気がついたが下着まで神山が用意してくれたものを身につけていた。
「全身神山さんに着替えさせてもらったてことかよ…恥ずかしすぎる」
海野はその羞恥心から逃れるべく、急いで渡された服に着替えた。
「あの、どうでしょうか」
深緑のニットは今まで触れたことのないくらい少し硬くいポリエステルのような生地で少しダボっとしたシルエットになっている。
春先にはちょうどいい薄さだと思う。
下は反対にタイトめなスキニーっぽいシルエットだが生地は少しジャージに似ていて伸縮性があって着心地がいい。
「うんうん、いい感じだね。それ今度のブランド用の新作。海野くんのサイズにあってたね」
「ありがとうございます」
鏡に映る自分に驚くくらい似合っている。
海野の着せ替えに満足した神山は洗濯し終わった昨日の服を紙袋に入れて渡してくれた。
「梶原がもう迎えにくるって。一緒に車に乗っていくよね?」
携帯のメッセージを確認した神山が海野に問いかける。
「いえ、申し訳ないので歩いて帰ります」
「う~ん、ハッキリ言うね。話したいことがあるから一緒に車に乗ってくれるかな」
「わかり、ました」
…
「お、おはようございます。梶原さん」
「おはようございます、海野さん、社長」
梶原はなぜか冷たい目で神山のことを見ている。
「梶原、断じて俺は何もしていない。手は出していないぞ」
「ハッ、どうだか」
梶原さっさと二人を置いて歩いて行ってしまう。
「はぁ」
神山はため息を立てながら梶原を追いかける。
海野も首を傾げながらその後ろに続く。
…
後部座席に海野と神山の二人で乗り込んだことを確認して梶原は車を動かした。
「なぁ梶原」
「はい、なんでしょう」
「お前は海野くんが俺の家に一緒に住むって言ったらどう思う?」
「おめでとうございます。進展があったようで何よりです」
「おいおい待て待て、何か勘違いしてないか。お、俺は今後のデザインのために…」
「おや、違うのですか。まぁでも帰る家が一緒だと運転係としては楽ですがね」
梶原と神山はテンポ良く海野を同居させる方向へと話を進めていく。
「僕は申し訳ないのでお断りしたいのですが」
海野が小さい声で小さな抵抗を試みるが全くの無駄である。
「海野さん、何がご不満でしょう。通勤時、退勤時は基本的に送迎付き、家賃もいらないし弊社以外のハイブランド服からアクセサリーまで着用し放題ですよ。どこぞのコレクションとかで新作だったりツテで世の中に出回る前のブランド品やら非売品も触れられる。これからファッションに携わるとしたらこれ以上ない環境かと思われますが」
梶原はほぼノンブレスで海野に言った。
海野も思わず頷いてしまった。
「やった、海野くんが頷いてくれた。さすが梶原だね」
神山がなぜか誇らしげだった。
「では海野さんは早急にお引越し準備をお願いしますね。社長はあのほとんど倉庫みたいにされているあの部屋、明日までに片付けますよ」
「わかりました」
海野はどこから片付けるか考え始める。
それに対して神山は梶原の言葉に非常に狼狽えた。
「え、マジかよ。無理だよ明日までなんて。今日これからアポが四本に夜には接待だぞ」
「えぇ、知ってます」
「鬼がいる」
「最近、私のことを振り回してくださったお返しですよ」
「はぁ」
神山のため息と一緒に車が停車した。
「着きましたよ」
「はぁ、それじゃ行ってくるわ」
「いってらっしゃい、神山さん」
シートで項垂れていた神山が驚いたように目を見開いて海野を見てくる。
「海野くん」
「はい?」
「今のいいね、もう一回言って…ったぁ」
後部座席の神山側の扉を開いた梶原が神山の頭を叩いた。
「何してんだセクハラ親父、さっさと行ってこい」
「梶原、社長の扱い酷くないか」
神山はブツブツと言いながらビルのエントランスに向かって歩き出した。
「海野さん、すみませんが少々こちらでお待ちいただいてよろしいでしょうか。弊社のポンコツ社長を送り届けて参りますので」
「あ、もちろんです」
「それでは」
苦笑まじりに海野は二人がビルの自動ドアの向こうに行くのを眺めていた。
「ごちそうさまでした」
神山のあとを追って食器を持って立ち上がってシンクに向かう。
「水につけといてくれるだけでいいよ」
「いえ、洗いますよ」
「食洗機に入れるからそのままで。それよりコーヒーでもどうかな」
神山がコーヒーメーカーを指差す。
「お腹いっぱいなので大丈夫です」
海野は久しぶりに朝からお腹いっぱいなので断った。
「俺はこれから商談があるから出るけど海野くんはどうする?」
「か、帰ります」
「わかったよ」
海野は借りた服を着替えようと部屋に戻る。
「あの、昨日着てた僕の服はどこに?」
「あぁ、洗濯しておいたよ。せっかくなら俺の服着て帰らない?ちょっと着せたい服があるんだけど」
「え、あ、はい」
昨日も入ったクローゼット部屋に二人で向かう。
「これね、よろしく」
神山は棚から深緑のニットとラックから黒のスラックスを渡してくる。
「は、はい」
借りていたスウェットを脱いで気がついたが下着まで神山が用意してくれたものを身につけていた。
「全身神山さんに着替えさせてもらったてことかよ…恥ずかしすぎる」
海野はその羞恥心から逃れるべく、急いで渡された服に着替えた。
「あの、どうでしょうか」
深緑のニットは今まで触れたことのないくらい少し硬くいポリエステルのような生地で少しダボっとしたシルエットになっている。
春先にはちょうどいい薄さだと思う。
下は反対にタイトめなスキニーっぽいシルエットだが生地は少しジャージに似ていて伸縮性があって着心地がいい。
「うんうん、いい感じだね。それ今度のブランド用の新作。海野くんのサイズにあってたね」
「ありがとうございます」
鏡に映る自分に驚くくらい似合っている。
海野の着せ替えに満足した神山は洗濯し終わった昨日の服を紙袋に入れて渡してくれた。
「梶原がもう迎えにくるって。一緒に車に乗っていくよね?」
携帯のメッセージを確認した神山が海野に問いかける。
「いえ、申し訳ないので歩いて帰ります」
「う~ん、ハッキリ言うね。話したいことがあるから一緒に車に乗ってくれるかな」
「わかり、ました」
…
「お、おはようございます。梶原さん」
「おはようございます、海野さん、社長」
梶原はなぜか冷たい目で神山のことを見ている。
「梶原、断じて俺は何もしていない。手は出していないぞ」
「ハッ、どうだか」
梶原さっさと二人を置いて歩いて行ってしまう。
「はぁ」
神山はため息を立てながら梶原を追いかける。
海野も首を傾げながらその後ろに続く。
…
後部座席に海野と神山の二人で乗り込んだことを確認して梶原は車を動かした。
「なぁ梶原」
「はい、なんでしょう」
「お前は海野くんが俺の家に一緒に住むって言ったらどう思う?」
「おめでとうございます。進展があったようで何よりです」
「おいおい待て待て、何か勘違いしてないか。お、俺は今後のデザインのために…」
「おや、違うのですか。まぁでも帰る家が一緒だと運転係としては楽ですがね」
梶原と神山はテンポ良く海野を同居させる方向へと話を進めていく。
「僕は申し訳ないのでお断りしたいのですが」
海野が小さい声で小さな抵抗を試みるが全くの無駄である。
「海野さん、何がご不満でしょう。通勤時、退勤時は基本的に送迎付き、家賃もいらないし弊社以外のハイブランド服からアクセサリーまで着用し放題ですよ。どこぞのコレクションとかで新作だったりツテで世の中に出回る前のブランド品やら非売品も触れられる。これからファッションに携わるとしたらこれ以上ない環境かと思われますが」
梶原はほぼノンブレスで海野に言った。
海野も思わず頷いてしまった。
「やった、海野くんが頷いてくれた。さすが梶原だね」
神山がなぜか誇らしげだった。
「では海野さんは早急にお引越し準備をお願いしますね。社長はあのほとんど倉庫みたいにされているあの部屋、明日までに片付けますよ」
「わかりました」
海野はどこから片付けるか考え始める。
それに対して神山は梶原の言葉に非常に狼狽えた。
「え、マジかよ。無理だよ明日までなんて。今日これからアポが四本に夜には接待だぞ」
「えぇ、知ってます」
「鬼がいる」
「最近、私のことを振り回してくださったお返しですよ」
「はぁ」
神山のため息と一緒に車が停車した。
「着きましたよ」
「はぁ、それじゃ行ってくるわ」
「いってらっしゃい、神山さん」
シートで項垂れていた神山が驚いたように目を見開いて海野を見てくる。
「海野くん」
「はい?」
「今のいいね、もう一回言って…ったぁ」
後部座席の神山側の扉を開いた梶原が神山の頭を叩いた。
「何してんだセクハラ親父、さっさと行ってこい」
「梶原、社長の扱い酷くないか」
神山はブツブツと言いながらビルのエントランスに向かって歩き出した。
「海野さん、すみませんが少々こちらでお待ちいただいてよろしいでしょうか。弊社のポンコツ社長を送り届けて参りますので」
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苦笑まじりに海野は二人がビルの自動ドアの向こうに行くのを眺めていた。
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