無名モデルは如何にして社長の隣を射止めたか

浅上秀

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神山が上の服を着替えて小物を選ぶとなんだか海野とシミラールックになっていた。
海野は少し照れ臭かった。

「行こうか」

「は、はい」

鞄を持って神山の後ろを追う。
部屋に鍵をかけた神山と二人でエレベーターに乗り込んで地下駐車場に降りた。

「さ、乗って」

神山はポケットから鍵を取り出すと真っ白でおしゃれなSUVの助手席を開けてくれた。

「ありがとうございます」

日本ではあまり見かけないエンブレムが車のボンネットについている。
少し恐縮しながら乗り込む。

「これ、なんて車なんですか?」

運転席に乗り込んでシートベルトを締めた神山に尋ねる。

「あぁ、シトロエンっていうんだよ。聞いたことあるかな?」

「いえ、初めて聞きました」

興味深そうに社内を見回す。

「そうか、やっぱり日本ではマイナーなのかなぁ」

「で、でもかっこいと思いますよ」

「ありがとう」

神山はにこやかにエンジンを起動させた。



車を走らせて10分もせずにそのお店に到着した。

「ここだよ」

駐車場に車を停めるて二人で店に入る。
店内はシックで大人っぽい雰囲気満点だ。
今までの海野の交友関係や給料では到底、入ろうとしなかっただろう。

「どうかした?」

一瞬、雰囲気にビビってしまい海野の足が思わず止まってしまった。

「いえ、なんでも、ないです」

慣れたように神山は海野をエスコートして店内に入っていく。

「いらっしゃいませ」

「二名です」

「かしこまりました。こちらへどうぞ」

案内された席は窓から中庭が見える席だった。

「コースで頼むよ。それから彼にワインを。そんなに重くないもので。私は車だからノンアルコールで」

「かしこまりました」

神山はメニューを見る前に水を持ってきたウエイターに注文した。

「絶対来たことないの嘘ですよね?」

水を飲みながら海野がジト目で神山を見遣る。

「ハハハ、バレた?」

神山はおどけたように笑った。

「はい。じゃなきゃ駐車場もあんなにスマートに停められないですよ」

笑ったら海野は少し緊張がほぐれた気がした。



「ごちそうさまでした」

二人でコース料理と海野はワインを堪能した。
そこまでワインが得意ではなかったが、料理とのペアリングが完璧だったおかげか非常に美味しく感じられた。
アルコールの余韻が体をほんわかと温める。

「なんだかぽやぽやしているね」

赤信号で車が停まった時に助手席の海野を見た神山が笑う。

「はい~なんだか身体中がぽっかぽかです」

「それはよかった」

神山も嬉しそうに車を発進させた。



「海野くん、海野くん、困ったなぁ」

海野の家の近くに着いたので詳しい道案内を頼もうとした時だった。
助手席で海野が大人しく寝息を立てていた。
神山は海野の家が詳しくどこにあるのかわからない。
ただ無防備な顔で寝ている海野を無理やり起こすのは憚られた。

「しょうがない、しょうがないよな」

神山は海野を家に帰すのを諦めて再び自宅へと車を走らせるのだった。



「んんっ」

なんだかいつものベットよりふかふかだし非常によく眠れた。
海野はボーッとした頭のまま起き上がる。

「どこだ」

部屋の中を見回すがまっったく見覚えがない。
ドアを開けて廊下に出る。

「あれ、もしかして…」

突き当たりの大きな扉を開く。

「おや、起きたんだ。おはよう、海野くん」

「す、すみませんでした!!!」

海野は慌てて神山に頭を下げた。

「いいんだよ、気にしないで。朝食できてるから食べようか。その前に顔洗っておいで、洗面所はこっち、タオルはこれ使ってね」

「は、はい」

海野はまだ頭が働いていないが神山に促されるがままだった。
顔を洗った洗面所で鏡に映る自分が初めてみる服を着ていることに気がついた。
スウェットなのはわかるが今まで着たことのないくらいに着心地がいい。

「ちょっとスッキリしたかな?ここ、どうぞ」

ダイニングテーブルの椅子の一脚を引いてくれた。

「ありがとう、ございます。服まで…」

「似合ってるよ海野くんに」

海野の向かい側に神山は笑いながら腰掛けた。

「いただきます」

「いただきます」

机の上には白米、わかめと豆腐の味噌汁、漬物、納豆、目玉焼きが並べられている。
至ってシンプルな和朝食メニューだ。

「うまっ」

味噌汁の暖かさが海野の全身に染みた。

「よかった」

神山も嬉しそうに味噌汁を啜っている。

「それで、昨日一体何が…?」

「あぁ、車で送ろうと思ったんだけど海野くん寝てしまったからね。生憎、海野くんの家が分からなかったから申し訳ないからうちに来てもらったんだよ。起こすのも忍びなかったし」

「それは大変ご迷惑を」

海野は居た堪れなかった。

「そんなことないよ。こうして一緒に朝ごはんを食べてくれる人がいてくれて嬉しいから」

「うっ、僕もこんなに美味しい朝ごはんが食べられて幸せです」

白米も漬物も目玉焼きも納豆も、食べたことある味のはずなのにたまらなく美味しく感じられる。
それは誰かと一緒に食べているからだろうか。

「それで考えてくれた?」

「へ?」

海野は口いっぱいに白米を頬張っていた。
神山は苦笑した。

「あぁ、ごめんね、飲み込んでからでいいよ」

「ん、えっとなにをでしょうか」

「一緒にここで暮らさないかって話だよ」

「あ」

すっかり海野は忘れていたしなんなら冗談だと思っていた。

「あれって冗談じゃ」

「そう思った?まぁ海野くんさえ良ければだからね」

「ずるいですね、その言い方」

「大人はずるいものだよ」

神山は食べ終わった食器を持って立ち上がった。




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