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本編
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残っていた仕事があらかた片付くと社長に早々に事務所から追い出された。
事務所のホームページからプロフィールがいつの間にか削除されていた。
「まだ撮影あった雑誌あるんだけどなぁ」
やはり社長ともっと穏便に話すべきだったのだろうか、とも思うが拗れたら面倒だったのでこれがあくまでもベストだったのだろう。
無理やり自分を納得させて気持ちを落ち着かせる。
「行くか」
今日は神山の会社で面接だ。
いくら神山のスカウトとは言え、今度は一企業に雇われることになるため就職活動のように面接を行うそうだ。
まぁ社長面接なのでほぼ落とされることはないだろうと思いたい…。
…
「うわっ、すげぇ」
指定されたオフィスを訪ねるとそこは今までの事務所とは比べ物にならない規模のガラス張りのビルが聳え立っていた。
周りも同じような高層ビルが取り囲んでいる。
中に入って受付にいた女性にアポを伝えると入館証を渡された。
大人しく首から下げてエレベーターに乗り込む。
30階までのボタンがある。
メールを確認して25階を押す。
地面が離れていく外の景色を眺めていると上品なベルの音と共に扉が開いた。
「えぇ…」
なんとなく廊下にもう既に覇気があるというか圧倒されてしまった。
絨毯張りの上を新品の革靴で踏み進めていく。
「あの…」
茶色の大きな扉の前にいた黒縁メガネで細身の黒いスーツを身に纏った少し神経質そうな男性に海野は声をかけた。
「はい、あぁ、海野様ですね。社長がお待ちです」
男は海野を見遣ると大きな扉を慣れた手つきでノックする。
鈍い音が響くと中から声が聞こえる。
「どうぞ」
「失礼いたします。社長、海野様をお連れしました」
「し、失礼します」
海野は恐縮しながら男の後に続いて部屋の中に入る。
そこは元いた事務所の社長室とは大違いだった。
広々とした空間、応接セットのソファには一体何人が同時に座れるのだろうか。
そこに置かれたローテーブルも一眼で高級品と感じられる。
壁のガラスケースには写真や賞状や盾が飾られている。
神山の赤褐色のそこそこ大きなデスクには大きなデスクトップパソコンとそれとは別にノートパソコンも開かれている。
書類は少しだけ山を作っているが全体的に片付けられていてスッキリしている。
「よく来てくれたね。さぁ、こちらにどうぞ」
海野はソワソワしながら促されて真っ白なソファの最も扉に近い席に座ろうとした。
「そんな上座とか下座とか気にしなくていいから。こっちに座りな」
神山は向かいのソファの真ん中を指差す。
「は、はい!」
裏返った声が出てしまった。
「っふハハ、そんなに緊張しないで」
神山は海野の向かい側に腰掛けた。
「失礼致します」
先ほどの神経質そうな男性が神山と海野の前にマグカップに入れたコーヒーを置いてくれた。
そして今日使う資料も二人の前に並べてくれる。
「ありがとう梶原。海野くんにも紹介しておくね。この人は梶原といって俺が入社した時からお世話になってる人。まぁ今は俺の秘書的なことをしてくれてる」
「よろしくお願いいたします」
梶原はメガネをクイっと上げて海野を見遣る。
「よ、よろしくお願いします!」
海野はソファから立ち上がって梶原に挨拶した。
「さてと、挨拶も済んだことだし、早速始めようか」
海野は思わず背筋を正した。
「はい」
「面接って言ってもなぁ、聞くこと何もないんだよな」
神山は頭をかきながら手元の資料に目を通す。
「社長、まさか何も考えていらっしゃらなかったのですか」
梶原が鋭く突っ込んだ。
「うっ、だってぇ」
「だってではありません。全く…」
「すまんすまん、逆に海野くんは俺たちに聞きたいことはない?プライベートなことでも大歓迎だよ」
神山がウインクをすると梶原が勢いよく神山を睨んだ。
「いえ、あ、でも強いていうならどうして僕に声をかけてくださったんでしょうか?」
「あ、それ聞いちゃう?」
神山の様子に海野は思わずまずいことを聞いてしまったのかと思った。
「この人のことだからどうせ一目惚れでしょうよ」
梶原が先に答えた。
「は、えあ、一目惚れ?」
「ハハハ、さすがは梶山。そう一目惚れ。だってすっごい原石持ってるのにさぁ、それを捨てようとしてたんだよ?勿体無いから拾わせてもらった。そんな感じ?」
「焦った…」
海野は早々に疲労感を覚えた。
「今のは梶原の言い方が悪いと思いま~す」
神山が揶揄うように梶原を見ると梶原はニヤリと意地悪く微笑んでいた。
「海野さんの才能に一目惚れされたのですから間違いではないでしょう」
「そうだけどさぁ」
「僕、そんな才能なんて」
「そう思い込んでるだけだよ。大丈夫、俺が絶対に後悔させないからさ」
神山の言葉には不思議と説得力がある。
そのおかげで海野は一歩踏み出せたのだが、なんだか不思議な気分だ。
「じゃあこれで面接は終わり。海野くんも正式にうちに入社するってことでいいんだよね?」
「え、あ、はい」
「それではこちらにご署名をお願いしてもよろしいでしょうか」
「署名、ですか?」
「えぇ、海野様…海野さんでよろしいでしょうか?海野さんには弊社の今後に関わる重要なプロジェクトに携わっていただこうと考えております。こちらの書類はその守秘義務に関する書類です。ご一読ください」
事務所のホームページからプロフィールがいつの間にか削除されていた。
「まだ撮影あった雑誌あるんだけどなぁ」
やはり社長ともっと穏便に話すべきだったのだろうか、とも思うが拗れたら面倒だったのでこれがあくまでもベストだったのだろう。
無理やり自分を納得させて気持ちを落ち着かせる。
「行くか」
今日は神山の会社で面接だ。
いくら神山のスカウトとは言え、今度は一企業に雇われることになるため就職活動のように面接を行うそうだ。
まぁ社長面接なのでほぼ落とされることはないだろうと思いたい…。
…
「うわっ、すげぇ」
指定されたオフィスを訪ねるとそこは今までの事務所とは比べ物にならない規模のガラス張りのビルが聳え立っていた。
周りも同じような高層ビルが取り囲んでいる。
中に入って受付にいた女性にアポを伝えると入館証を渡された。
大人しく首から下げてエレベーターに乗り込む。
30階までのボタンがある。
メールを確認して25階を押す。
地面が離れていく外の景色を眺めていると上品なベルの音と共に扉が開いた。
「えぇ…」
なんとなく廊下にもう既に覇気があるというか圧倒されてしまった。
絨毯張りの上を新品の革靴で踏み進めていく。
「あの…」
茶色の大きな扉の前にいた黒縁メガネで細身の黒いスーツを身に纏った少し神経質そうな男性に海野は声をかけた。
「はい、あぁ、海野様ですね。社長がお待ちです」
男は海野を見遣ると大きな扉を慣れた手つきでノックする。
鈍い音が響くと中から声が聞こえる。
「どうぞ」
「失礼いたします。社長、海野様をお連れしました」
「し、失礼します」
海野は恐縮しながら男の後に続いて部屋の中に入る。
そこは元いた事務所の社長室とは大違いだった。
広々とした空間、応接セットのソファには一体何人が同時に座れるのだろうか。
そこに置かれたローテーブルも一眼で高級品と感じられる。
壁のガラスケースには写真や賞状や盾が飾られている。
神山の赤褐色のそこそこ大きなデスクには大きなデスクトップパソコンとそれとは別にノートパソコンも開かれている。
書類は少しだけ山を作っているが全体的に片付けられていてスッキリしている。
「よく来てくれたね。さぁ、こちらにどうぞ」
海野はソワソワしながら促されて真っ白なソファの最も扉に近い席に座ろうとした。
「そんな上座とか下座とか気にしなくていいから。こっちに座りな」
神山は向かいのソファの真ん中を指差す。
「は、はい!」
裏返った声が出てしまった。
「っふハハ、そんなに緊張しないで」
神山は海野の向かい側に腰掛けた。
「失礼致します」
先ほどの神経質そうな男性が神山と海野の前にマグカップに入れたコーヒーを置いてくれた。
そして今日使う資料も二人の前に並べてくれる。
「ありがとう梶原。海野くんにも紹介しておくね。この人は梶原といって俺が入社した時からお世話になってる人。まぁ今は俺の秘書的なことをしてくれてる」
「よろしくお願いいたします」
梶原はメガネをクイっと上げて海野を見遣る。
「よ、よろしくお願いします!」
海野はソファから立ち上がって梶原に挨拶した。
「さてと、挨拶も済んだことだし、早速始めようか」
海野は思わず背筋を正した。
「はい」
「面接って言ってもなぁ、聞くこと何もないんだよな」
神山は頭をかきながら手元の資料に目を通す。
「社長、まさか何も考えていらっしゃらなかったのですか」
梶原が鋭く突っ込んだ。
「うっ、だってぇ」
「だってではありません。全く…」
「すまんすまん、逆に海野くんは俺たちに聞きたいことはない?プライベートなことでも大歓迎だよ」
神山がウインクをすると梶原が勢いよく神山を睨んだ。
「いえ、あ、でも強いていうならどうして僕に声をかけてくださったんでしょうか?」
「あ、それ聞いちゃう?」
神山の様子に海野は思わずまずいことを聞いてしまったのかと思った。
「この人のことだからどうせ一目惚れでしょうよ」
梶原が先に答えた。
「は、えあ、一目惚れ?」
「ハハハ、さすがは梶山。そう一目惚れ。だってすっごい原石持ってるのにさぁ、それを捨てようとしてたんだよ?勿体無いから拾わせてもらった。そんな感じ?」
「焦った…」
海野は早々に疲労感を覚えた。
「今のは梶原の言い方が悪いと思いま~す」
神山が揶揄うように梶原を見ると梶原はニヤリと意地悪く微笑んでいた。
「海野さんの才能に一目惚れされたのですから間違いではないでしょう」
「そうだけどさぁ」
「僕、そんな才能なんて」
「そう思い込んでるだけだよ。大丈夫、俺が絶対に後悔させないからさ」
神山の言葉には不思議と説得力がある。
そのおかげで海野は一歩踏み出せたのだが、なんだか不思議な気分だ。
「じゃあこれで面接は終わり。海野くんも正式にうちに入社するってことでいいんだよね?」
「え、あ、はい」
「それではこちらにご署名をお願いしてもよろしいでしょうか」
「署名、ですか?」
「えぇ、海野様…海野さんでよろしいでしょうか?海野さんには弊社の今後に関わる重要なプロジェクトに携わっていただこうと考えております。こちらの書類はその守秘義務に関する書類です。ご一読ください」
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